第十三分節:双陣営の苦悩;素組みで御免!

 1942年1月下旬、連合国軍「臨時」総司令部にて。

「とにかく、尻が痛い」

「ソ連の脱落はまだ解るけど、太平洋に稼働できる主力艦艇がないのはあまりにも痛いな……」

「すみませんが、悪いニュースが追加です」

「聞きたくないけど、ダメだよねぇ……」

「オーストラリアが単独講和を求めています。なんとか一時的には説き伏せましたが、時間の問題でしょう」

「何か、良いニュースはないのか?」

「一つだけ、存在します」

「ほう!」

「……わらにもすがりたい思いだ、何のニュースだ?」

「敵の海軍のカリスマであるヤマモトが暗殺されました、これで一時的にとはいえ進軍は停滞するかと」

「……何ヶ月前のニュースだと思っているんだね!ヤマモトが死んだのは去年の話だぞ!」

「……尻が四つに割れそうだ……」

 連合国軍の士気は考え得る限り最低のレベルであった。それも無理からぬことで、イギリス海軍東洋艦隊潰滅に続き合衆国軍太平洋艦隊までほぼ全滅の憂き目に遭っていて、さらに陸軍もソビエト連邦が事実上の降伏に追い込まれたとあっては誰が士気が上がろうか。

 とはいえ、それがイコール枢軸国軍にゼロサムゲーム的に万歳三唱が起こっているかと言えば、そうとも言い切れなかった。それはなぜなのか。


 1942年1月に合衆国太平洋艦隊をあらかた叩いた連合艦隊は、引き続きシアトルなどの占領地を維持するために輸送航路を確保するものと思われた。少なくとも、合衆国の視点から考えれば、そうなると思われていた。だが……。

「シアトルから撤収する!?」

「そうだ。詳しくは参謀長から説明せよ」

「ははっ。現在、シアトルをはじめとした合衆国本土占領地を抱えておりますが、ここからは撤退致します。時期は今ではありませんがな」

「……と、仰いますと……」

「シアトルに上陸した陸軍の皆様方や海軍特別陸戦隊にはある特殊任務を帯びて、その通りに行動して貰っています。とはいえ、戦地において不測の事態はつきもの。よって、その「特殊任務」は割と広範囲の独自判断を含めたものとなっております」

「して、その特殊任務とは……」

「一つ、日系人の解放作戦、

 一つ、合衆国内部の攪乱、

 一つ、合衆国の物資の奪取。

 以上三つの任務を並行して行って貰っており、断じて捨て駒として扱うこと無く、解放した日系人や奪取した戦略物資などを輸送船にて本土などへ輸送し、また同時に内部を攪乱することによって合衆国の動揺を誘い、合衆国の世論を講和に結びつけます」

「……戦略物資とは?」

「石油、と言いたいところですが、それは二の次。まずは研究者を日本本土へ移送します」

「河豚作戦か!」

「然様に」

「と、いうわけで、だ。醍醐参謀長の策は以上だが、何か質問はあるかね?」

 場は、一瞬の沈黙に支配された。無理もあるまい、醍醐の唱えた軍略は、如何にも希有壮大なものであると同時に、実現確率は高いものであった。とはいえ、彼らも海軍兵学校を出た俊英である、醍醐の軍略を理解するや、質問をし始めた……。

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