第十一分節:第一次布哇沖海戦(前話)

 1942年1月、懸念事項であったイギリス海軍東洋艦隊を潰滅せしめた事もあって、大日本帝国は昭南島から釜山までに亘る大規模な大陸縦断鉄道の建設を開始。いわゆる「支那打通作戦」である。援蔣ルートによる妨害もあるとはいえ、年内には完成するだろうという見通しの下それまでの間は海路での輸送路を構築することになった。とはいえ、フィリピン改め呂宋共和国を解放出来ている現状、その海路の構築も至難とまでは言い難かった。

 一方で、イギリスが誇っているはずだった東洋艦隊の壊滅、否、全滅を知った連合軍首脳部、一応それはイギリスであるとされていた、はイギリス本国艦隊を割いて派遣することにより東洋艦隊を再編すると共に太平洋艦隊の来援を要請、再三の要請と大統領命令に耐えかねた太平洋艦隊司令部はしぶしぶ大日本帝国との海戦を決意、一応実働部隊はそこまでの損害を負っていないこともあってシアトル、アンカレッジの敵占領軍を干し殺すために海上封鎖をもくろむと同時に重い腰を上げてハワイへと出撃した。だが……。


「艦隊壊滅!?」

「何が起こった」


 1月19日に生起した第一次布哇ハワイ沖海戦に於いて、アメリカ合衆国太平洋艦隊は建軍以来の大敗北を喫することとなる。皮肉なことに、アリゾナなどの旧式戦艦はほうぼうのていで生き延びたその海戦で太平洋艦隊はほぼ総ての航空母艦を失うこととなる。

 海戦の経緯は後程記述するとして、現状太平洋艦隊が全力で稼働していると言えていたエンタープライズならびにサラトガを失った意味は非常に大きかった……。

 何せ、パナマ運河を封じられている現状、レンジャーなどが所属する大西洋艦隊からの増援はアテに出来ないのである。更に言えば、大東亜戦争を予期していたことによる大西洋艦隊から太平洋艦隊への来援としてヨークタウン、ワスプ、ホーネットが予め廻航計画の下南米を南下、北上していたが、ヨークタウンは伊168に、ワスプは伊19に沈められ、ホーネットに至ってはなんとパナマ運河攻撃艦隊が行き掛けの駄賃ならぬ帰り道についでとばかりに沈められ、事実上アメリカ合衆国海軍の所持している母艦はラングレー、レキシントン、レンジャーの3隻だけとなっていた。

 一応、エセックス級航空母艦は戦争が始まってから量産体制にこぎ着けていたものの、一番艦エセックスの進水は夏見込みとされており現状の戦力のみで考慮した場合、圧倒的に不利であった。

 しかも、その3隻の航空母艦は総て現状大西洋艦隊に存在しており、太平洋艦隊に存在する主力艦艇とされる存在は先ほどの「第一次布哇沖海戦」によってかろうじて生存していたアリゾナを初めとした旧式戦艦が5隻ほど残存しているだけで、しかもそのうち3隻は廻航できたのが奇蹟に近いほどの大破、残りの2隻もドックで修復しなければ次に出撃した場合間違いなく轟沈するであろうという判定が下されていた。


 そして、彼らは生産力では圧倒的なはずだというのに追い詰められた結果、奇策に頼ることとなる。たとえ長期的に生産力で寄り切ったとしても、そこに至るまでに軍人が万単位で死んでしまっていては割に合わない戦争と言わざるを得ないからだ。

 だが……。

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