第九分節:ベンガル湾の大和(伍)
「どうやら、作戦は成功したようですな」
「……の、ようだな。なれば、やることは一つだ」
「ええ。……全艦隊砲撃準備、敵艦隊を総て沈めろっ!」
二日目朝、連合艦隊総司令部こと大和昼戦艦橋では盆と正月が一緒に来たような……といえば流石に言い過ぎではあるものの、それなりに沸き立った士気となっていた。無理からぬことだ、たった一回の航空攻撃だけで帝国海軍が見本としていたロイヤル・ネイビーの軍艦を大小合わせて十隻以上も撃沈したという大戦果をたたきだしたのである。しかも、航空攻撃を行っただけなので事実上、艦隊に欠員は一人も存在しない。……後の戦果照会で未帰還機がゼロであったことから考えれば、この時点で連合艦隊はイギリス海軍東洋艦隊を一人も欠員を出すこと無く撃退し得るほどの戦果を出したのだから浮かれるのは当たり前だった。
そして彼らは、この勢いに乗って戦果の拡大を目指した。当然だが、追撃戦というものは最も戦果を生みうる戦局である、大原則に従えばここで追撃以外の選択をするのは愚者といえた。
そして、ただでさえ減少したイギリス海軍は大破してただでさえ遅い艦隊速度を、さらに速度の低下した艦艇を落伍させずに保護しつつ撤退していたことによって捕捉されるに至った。途中、エキスプレスら駆逐艦が即席の駆逐隊を組んで阻もうとしたものの、そもそも特型駆逐艦と英米の駆逐艦では個艦性能が排水量だけでも1.5倍は違うのである、当然のようにイギリス海軍駆逐艦は一呼吸もおかずに轟沈した。これによって、イギリス海軍東洋艦隊は更に駆逐艦3隻の轟沈を数えるに至った。そして、あろうことかハーミーズからわざわざ遅滞防御のために飛来したソードフィッシュが全滅、ここに東洋艦隊は自身の個艦砲雷撃能力以外の敵艦攻撃能力を喪失した。
そして、レゾリューション、ラミリーズ、リヴェンジといったいわゆるR級戦艦がただでさえ遅い23ノットといった最大戦速をさらに落としてほうぼうのていで撤退していた最中、あろうことか追いつかれてさらに攻撃を受け、損傷していたレゾリューションが全力で攻撃を引き受けて轟沈、比較的損傷の軽かったラミリーズとなんとか速度に支障の無い損傷しかしていないリヴェンジが撤退を再開、残存した東洋艦隊は以下の通りとなった。
戦艦:リヴェンジ(小破)、ラミリーズ(中破、速度低下)
空母:ハーミーズ(搭載航空隊、戦闘機以外字義通りの全滅)
巡洋艦二隻、駆逐艦十隻
完全な敗北であった。さらに痛々しいことに、日本軍には殆ど損傷を与えられなかったことがその悲惨さを大きくしていた。
このことは、イギリス海軍に大きくのしかかることとなる……。
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