第三分節:栄光への第一歩

 12月16日、後世最も有名にして、最も壮麗なる軍艦が初陣を飾るために出港した。今なお主砲を電磁気工学砲などへ換装し、近代化改装工事などによって世界の旗艦として最前線を張る、軍艦の中の軍艦とも言いうる、その艦艇の名は……。


 その艦艇は、連合艦隊の旗艦も兼ねていたので、都合三重四重の司令系統が鎮座していた。尤も、物理的に鎮座しているわけではなく兼任という形で将校を節約しているのだが、それでも艦長と連合艦隊司令長官、そして連合艦隊参謀長の三名がそれぞれ存在していた。一応その司令系統とは艦艇の艦長、第一戦隊、第一艦隊、連合艦隊なのだが、それはまあ、どうでも良い。そして、提督であり齢を海軍に捧げて何十年も経過していたさしもの彼らも興奮を隠しきれないのか誰ともなく呟き始めていた。

「都合13ヶ処に及ぶ強襲作戦すらも本質的にはただの陽動だとは、さすがの合衆国軍も気づかんでしょうな」

 まず発言したのは艤装艦長――即ち艦艇完成の暁には初代艦長となる――にして既に提督である宮里秀徳だ。提督だというのに一介の艦長なのかと疑問を持つ方もいらっしゃるかも知れないが、何せ天下の連合艦隊旗艦にして後世まで伝わるほど著名な名艦の艦長なのだ、粗相があってはいけないという慎重による人事であろう。

「ああ、全ては……大和の初陣を完遂せしめるために」

 続いて発言するは、言う必要も無い連合艦隊司令長官、長谷川清。第二分節で詳細な紹介をしたためここでは紙面を割かないが、後に「栄光の提督」として最も名高い活躍をした「昭和のトーゴー」とも渾名される人物である。

「ええ、次の未来のために、次の次の栄光のために」

 そして、連合艦隊参謀長に着任した人物は、醍醐忠重であった。さすがに少将で長官は難しい、という悪しき前例主義もあったのだが、結果としてその「悪しき前例主義」は未曾有の好戦況を導き出すことになる。後にマハンの補給概論――まあ尤も著名は正確には異なるのだが、マハンの論述の大半を占める補給戦争論をまとめて以後、そう呼ぶことにしたい――を初めて改訂した人物として名高い彼は、潜水艦を指揮することにおいては帝国海軍はもちろんのこと、ロイヤルネイビーとかつて呼ばれたイギリス旧海軍勢力の水準をも遙かに上回る程度には長けていた彼は、潜水艦が行う行動、即ち補給妨害の重要性を帝国海軍の中では誰よりも感知できていた。

「右舷、そろそろ敵要塞線首魁、コレヒドール見えます」

 そして、ある分隊士――名を垣屋恭一というが、まあ覚えなくとも支障は無い……今のところは――が発した報告によって、彼らは感慨から現実へと引き戻された。いよいよ、逡巡が終わり行動のフェイズとなったのだ。かくて、「昭和の東郷平八郎」こと長谷川清は艦隊に下命を言い放った。それは、この軍艦が持つ意味でも、あった。

「応ともさ、砲撃準備! 伝説の一歩目だ、くれぐれも初弾命中まで待つように!」

「……ははっ!!」

 下命が緊迫を告げる。ここに、大東亜戦争は本格的な戦闘配置に就いた。

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