第71話 お悩み相談 2
「ただまぁさっきも言ったけど、白雪さんのことは俺もあんまり詳しくは知らないんだよな。悪いがあんまり力にはなれなさそうだ」
「そっか、改めてすまん。こんなとこにまで呼び出して」
「いいよ別に。それに俺呼び出されておいて何も力になってないし」
俺ただ、今野が凛花を好きになった理由聞いただけだからなぁ……。何も力になれてなくてなんか申し訳なさを感じるわ。だからといって凛花のことを話したりはしないんだけどね。
「全然気にしないでくれ。まぁ多少白雪さんのことについて知りたかったけど、文化祭を通じて白雪さんにアタックすればそういう情報も本人から聞けるだろうしな」
「今野……お前行動力すごいな」
「そりゃあ俺は本気で白雪さんと付き合いたいと思ってるからな」
「……そうか、まぁ頑張れ。応援してるぞ」
「あぁ、ありがとな佐藤」
「はぁ……なんか無駄に疲れたわ……」
今野からの恋愛相談(俺は何もしていない)を終えた俺は、げんなりとした表情を浮かべながら帰り道を歩く。特に何かしたわけではないが、妙に疲れを感じる。やはり人間は不慣れなことをすると、いつも以上に疲れを感じてしまうのだろう。
「それにしても今野が凛花に告白するのか……」
今野に対して持っている俺のイメージは中の上、上の下の人といった感じだ。平均よりも優れていて、それなりに勉強もできて運動もできる。基本目立つことは無いが、しれっといい成績を収めている奴。
時々話したりするが、涼太と若干似ていて恋愛には興味あるし、彼女が欲しいと思ってるけど中々自分から行動に移せないタイプだと思っていた。だから今日の話を聞いて、少し驚いた。
彼の行動力には目を見張るものがある。俺に凛花の情報を聞く前にはもう既に突撃、隣のクラス(隣じゃない)を敢行しており、さらに俺から情報が聞けないと分かったら天才的な発想を思いついたかのような顔で「じゃあ本人に聞けばいいや」と言ってのけたのだ。※そんな顔はしていません。
恋は盲目、周りの人の白い目や評判が一切気にならなくなったおかげで、こんなにも行動することが出来ているのかもしれない。いや本当にその行動力は尊敬するよ。
「でも今野には悪いけど成功しなさそうだなぁ。凛花、恋愛とかに興味なさそうだし、もし仮に興味があっても白雪姫的には面倒なことが増えそうだし」
凛花が恋愛をしない最大の障壁と言えるのが、白雪姫としての顔である。もし仮に、今野と付き合えば白雪姫のことを好きだと思っている多数の男子の心がぽっきりと折れてしまう。そしてその先に待っているのは凛花と今野に対する理不尽なヘイト。
人気者とは多くのメリットがあると同時に同じくらいのデメリットが存在する。そしてこういう恋愛事情に関しての負の側面は非常に根が深い。今まで味方だった人たちが総出で手のひらを返してくるのだ。余りにも立ちが悪すぎてドン引きレベルである。
「……まぁ、応援以外にもほんの少しのサポートくらいしてやってもいいかもしれない」
今野の凛花に対する純粋な好意と、その淡い恋心を成就させるべく、周りからの評価を臆することなく色々と行動している所は個人的にポイントが高い。自分は恋愛否定派の人間だが、それを他人に強要するつもりは一切ないし、多少なりとも仲が良い人の恋愛に関しては応援するスタンスを取っている。
それに先ほどは人気者の悪い部分を取り上げたが、凛花が今野と付き合うことは決して悪いことばかりじゃない。もちろん少なからずのヘイトは貰うかもしれないが、今まで白雪姫としてしか見られていなかった凛花への認識が、恋する普通の少女というものに変わる可能性は十分あり得る。
加えて今野は別に女子人気が高いわけでも低いわけでもない丁度いいレベルの男子だ。そんな今野と付き合えば、今まで恋愛において強敵となる可能性を秘めていた黒寄りのグレーという厄介な位置にいた凛花は晴れてその疑いから逃れることが出来る。
そうすれば今まで敵対視していたような人が敵じゃなくなり、何なら味方になる可能性だって十分ある。
ついでに今まで俺が買って出ていた凛花のおもり役を今野が引き継ぐことで、以前から懸念されていた俺と凛花の距離感おかしいよね問題も自然と解決することになる。
悪いことは起こるがその悪いことに勝るほどの良いことが起き得る。今野は凛花と付き合えて嬉しい、凛花は白雪姫から解放されて嬉しい、そして俺は凛花と一定の距離感を保つことが出来て嬉しい。なんとwin-win-winという勝者しかいない平和な世界を築くことが出来る可能性が非常に高いのだ。
今野が周りの敵意の視線に耐えられるかどうか少し心配だが……今こうして周りに馬鹿にされても本気で凛花にアタックしようとしているからそこら辺は大丈夫そうかな。
「ふっふっふっ、最近俺は裏方の仕事の楽しさとやりがいをほんの少し覚えたばかりなのだ。凛花の迷惑にならない程度にサポートしてやろうかな」
それが、今野のためにも、凛花のためにもなる。
「ははっ、やっぱ俺恋愛とか向いてねぇわ」
今野のため、凛花のためと言っているが、俺の頭のほとんどを埋め尽くしているのは自分の心の安寧について。ただ今野を利用して自分が傷つかないようにしているだけなのだ。
現に先ほどまでは凛花のことは教えないでおこうと考えていたのに、利用できると分かった途端にちょっとなら手伝ってもいいかなと思ってしまっている。とんだクズ野郎である。
こんな自分のことしか考えられない奴は恋愛なんて向いてない、まぁするつもりはないんだけどね。だからその分今野には頑張ってもらおう。
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