第70話 お悩み相談 1

「悪いなこんな場所まで」


「いいよ。それで?相談事って何よ」


 俺と今野は人の来なさそうな場所へと移動する。文化祭準備期間で多くの生徒が放課後に残っているため人が来なさそうな場所を探すだけでも一苦労だった。人の来なさそうな場所を探した結果、なんと校舎の外にまで足を運ぶことになりました。正直めんどくさかったです。


「あぁ……最初にお願いがあるんだけど、これから話す事は他言無用で頼む」


「あいあい」


 そりゃ、こんな人いなさそうな場所まで連れてきてるからね、そりゃ誰にも話して欲しい内容ではないよね、さすがにそのくらいは分かるよ。


 それとやっぱりだけどそういう重めの相談は俺みたいなやつにするものじゃないと思うの。誰にも聞かせたくない相談は正樹とか、陽とか、涼太は……ちょっとあれだけど人を選んだ方が良いと思うの!間違いなく俺は適任じゃないと思うの!


「その話の内容なんだが……」


 あ、前座とかない感じなんですね、単刀を直入する感じなんですね。一応言っておくとこっちまだ心の準備出来てないんですけど。


「白雪さんについてのことなんだ」


「……白雪さんについて?」


 俺は大きく首を傾げる。え?何でここで凛花が出てくんの?

 

 突然出てきた友人の名前に俺は内心某宇宙に放り出された猫のような顔をする。……はっ!放心している場合ではない!


「えっと……どういうこと?」


 ……もしかしてこの前出掛けていたのを見られてたりするのか?一応凛花もばれないように変装(?)してたけどばれる可能性は十分にあったからなぁ……。うわぁもしそうだったらなんて誤魔化そうかなぁ。


 俺は頭をぐるぐると回転させて何とか丸く収まりそうな言い訳を考える。まだそうと決まったわけではないが、その可能性は非常に高い。俺は別にいいけど凛花には迷惑をかけたくはない。なんとかしてそれっぽい理由を捻りださねば。


「佐藤……俺さ……」


 やばいやばいやばい、あんまりいい感じの言い訳思いついてないんですけど!?やっべぇなんて言おう、焦りのせいで急に今までの思考がぶっ飛んじゃった。……あぁ、もうとりあえず何とかして時間を稼ごう!そしてその稼いだ時間の間にそれっぽい言い訳を考えよう。よし、方針は決まった。さぁ来い今野!!


「俺、文化祭の最終日に白雪さんに告ろうと思ってるんだ!」


「……はい?」


 自分の予想とは全く異なった言葉に俺の思考は完全に機能を停止する。数秒前にも頭が真っ白になったが、まさかこんなに早いスパンで頭が真っ白になるとは思わなかった。


「えっと……すまん今野。もう一回言って貰えるか?」


「だから!俺は文化祭終わったら白雪さんに告白しようと思ってるんだって!!」


「ちょ、ばか!声でかいわ!!」


 やけくそ気味にもう一度俺は告白する宣言をされる。何のためにこんな人気の少ない場所に来たと思ってんの?


 というか俺の耳やっぱり正常に機能してるんだな。この前白百合先輩と話したときも俺の耳バグってんのかなって思ったけどその時もしっかり機能してたしなぁ。うーん……出来ればバグってて欲しかったなぁ。

 

 まさか自分の体の異常を望む日が来るとは思わなかったが、今はとりあえずこのことは置いておこう。それ以上に重大な話が目の前で行われているからね。


「す、すまん……やっぱり馬鹿げてるよな」


「え、急に卑屈になるじゃん」


「だってさっき聞き返したのは冗談のように聞こえたからだろ?」


「いやそんなことはないけど……」


 シンプルにびっくりしただけです、別に馬鹿にしてるとかいう感情は一切ないです。


「んで?白雪さんに告白するのは分かったし好きにしてくれって感じなんだけど、俺を呼び出した理由それに関係してる?」


「ああ」


 うわぁ……めんどくせぇ……。俺にそう言う恋愛的な相談をしないで欲しいんだけど。俺自身が恋愛に積極的じゃないんだから、そういうのは正樹とか陽とか彼女がいる人たちにしてくれよ。


「佐藤にはその……白雪さんについての情報を教えて欲しいんだ」


「はい?」


 え、何?俺いつから情報屋になったの?

 

「ほら、佐藤は白雪さんと同じ図書委員会だし、二人で一緒に受付の仕事をしているだろ?」


「あぁ……」


「だからその……白雪さんについて色々知ってるんじゃないかと思って」


 うん……まぁ色々知ってますけど、一応プライバシーっていうものがありましてですね、そう簡単に他人の情報をぽんぽんと話しちゃ駄目だと思うんですよ。


「それ俺じゃなくて白雪さんと同じクラスの男子に聞けばよかったのでは?」


「聞いたよ」


 わお、行動力の塊。


「聞いたんだけど、誰も白雪さんのことを詳しく知ってる奴はいなかったんだよ」


「白雪さんガード固いからね」


 まぁ白雪姫モードの凛花は基本自ら自分のことを話そうとしないし、男子と関わる機会は少ないから当然と言えば当然だな。


「そこでだ佐藤、お前はあの白雪さんと二人きりの時間を過ごしているだろう?」


「言い方やめて?委員会の仕事だからね?」


「お前なら白雪さんのことを何か知っているんじゃないかと思って声を掛けたんだ」


「……さいですか。でも申し訳ないが力にはなれなさそうだ。仕事中事務的な会話以外はほとんどしないんで」


 うん、まぁ多分だけどこの学校の中だけで見るなら俺が凛花と一番仲いい男子であることは確かなのだが、先ほど申し上げた通りプライバシーというものがあるし、白雪姫モードが切れてる状態の凛花のことを誰かに話すことは凛花と俺、両方にデメリットしかないため話すことはない。


「……そうか、佐藤なら何か知ってそうだと思ったんだけどな」


「知らないんだなこれが。仕事の時もお互い不干渉って感じだからさ。あ、一つだけ聞いていい?」


「ん?何だ?」


「どうして今野は白雪さんに告白しようと思ったんだ?」


「そりゃあ好きだからに決まってんだろ」


「いや、そうじゃなくて。好きになった理由の方を聞きたいんだわ」


 そんな周知の事実を聞きたいわけじゃないんだわ。まぁでも今のに関しては俺の効き方が悪かったか、すまん今野。


「な、なんでそんなこと聞くんだ?」


「え、純粋に興味が湧いたから」


 正樹から若菜についてちょくちょく意見を求められたりはするが、こういう付き合う前の恋愛相談は初めての経験だったのでほんの少しだけ気になってしまった。


「……まぁ、いいけどさ。あれは一学期の時の話だ」


 何だよ、結構乗り気じゃん。


「俺が、移動教室の時ついうっかり教科書とかを廊下にぶちまけちゃったんだよ。その時近くにいた白雪さんが拾うのを手伝ってくれてさ」


「え、それで好きになったの?」


「違うわ!最後まで話聞け!」


「うっす」


 怒られてしまった。まぁ途中で口を挟んだのは悪かったけどそこまで怒ることか?若干解せないんだけど。


 今野に言われた通り、俺は黙って今野の言葉に耳を傾ける。

 

「それでその後拾ってくれてありがとうってお礼を言ったんだんだけど、その後気にしないでの言葉と一緒に向けられた白雪さんの笑顔があまりにも可愛くてさ」


「それで好きになったと」


「……まぁ、そういうことだな」


 頬をポリポリと書きながら、俺の言葉に頷く今野。肌の色が若干赤みがかっているように見えたのは俺の見間違いではないだろう。


 あんなに雄弁と語っておいて最後の最後に恥ずかしがってんじゃないよ気持ち悪いなぁ。そういうのが許されるのは二次元の中だけなんだぞ今野。よく覚えておくように。

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