第60話 白雪姫は考える
「ぶへー……疲れたぁ……」
「お疲れ様です、少し休憩にしますか」
「そうしようそうしよう!」
若菜さんは倒していた体を起こして、嬉々とした顔で持っていたペンをテーブルに転がす。私は今、若菜さんの夏休みの宿題を終わらせるのを手伝っていた。まぁ手伝うと言っても直接若菜さんのものに書き込んでいるわけではない。分からない所を教えたり、手が止まっていたら手を動かすように言うお目付け役のようなものだ。
「あ、そうだ凛花ちゃん!」
「はい、なんでしょう?」
「この前拓人に変なことされなかった?」
「っ!?」
若菜さんの言葉に私は大きく肩を揺らす。飲み物を飲んでいなくてよかった、動揺のあまり吹き出していたかもしれない。
「えっと……この前とは?」
な、何か若菜さんが勘違いしているかもしれない!!だって私あのとき顔見られてないし、一言も話してないんだよ?それに拓人の背中にずっと隠れてたし、ばれる要素はないと思うんだけどな……。
「ほら偶然会ったじゃん?その後拓人とほぼ二人きりの状態になってるから一応ね?」
これ完全にばれてるじゃん!!なんで!?何で私だってばれたの!?
どこでばれてしまったのか不思議で仕方がない。でもばれてしまってる以上、変に粘るよりも観念して話してしまった方が良い気がする。ごめん拓人、でも若菜さんだからいいよね?
「えっと……大丈夫でしたよ?あの後も普通にご飯を食べたり、遊んだり、ショッピングを楽しんだだけですから」
「あれあれぇ?おっかしいなぁ……?私は夏祭りのことを話したつもりだったんだけどなぁ?おっかしいなぁ……私は確かに拓人とショッピングモールでばったり出会ったけどその時拓人が一緒にいたのは親戚の人見知りの女の子だって聞いたんだけどなぁ……?」
にやにやしながらこちらに視線を向ける若菜さんを見て気が付く。嵌められた……!嵌められたしばれてた!!
質問に答えてから自分が鎌をかけられていたことに気が付く。やられたという気持ちと同時に拓人に申し訳ない気持ちがふつふつと湧いてくる。
「いやぁこんな嵌めるような真似をしてごめんね凛花ちゃん?多分そうだろうなぁとは思ってたけど確証はなかったからさ」
「ど、どうして後ろにいるのが私だって分かったんですか……?」
「うーん、それは内緒!」
余談だが、犬の嗅覚は人間の3,000倍から10,000倍あるらしい。つまりはそういうことである。
「それでそれで?拓人とは一体どういう関係なの!?」
若菜さんは目を燦燦と輝かせ、私と拓人の関係性について質問をしてくる。彼女の目と、もうちょっとで顔がぶつかるのではないかと言うほどに身を乗り出してきているせいか、彼女からの圧がすごい。絶対に逃さないという意思をひしひしと感じる。
「と、友達ですよ。ただの友達ですっ!」
「男女二人きりで買い物してるのに?」
「そっ、それは……参考までになんですけど男女二人が買い物に行くのって……」
「んー、まぁ一概には言えないんだけどまぁデートと思われるんじゃないかな?」
「あ、そうですよね……」
私と拓人、デートしてるって思われてたのかな……い、今思い出すだけでも恥ずかしい!!
自分の顔がどんどん熱くなっていくのを感じる。若菜さんに頬が赤くなっているのを見られるのは嫌だが、どうも私の体はいう事を聞いてくれない。
「それを踏まえて聞こうじゃないか!拓人とはどんな関係なの!?」
先ほどよりも目の輝きが増しているのは気のせいではないだろう。これは絶対に答えるまで引かないやつだと確信できる。でも私と拓人の関係って一体何なんだろう……友達っていう言葉はパッと思いつくけど、それ以外の関係性を表す言葉が思いつかない。
「……私と拓人ってどういう関係なんだろ……」
「……うーん、じゃあ凛花ちゃんは拓人のことどう思ってるの?」
「どう思ってる……ですか?」
「そう。拓人のことは嫌い?」
「全然嫌いじゃないです」
「じゃあ好き?」
「……」
私は拓人のことが好きなのだろうか?もちろん友達とてしては好きだ。でもそういう話ではない。私は拓人のことをどう思っているのだろう?
「……ごめんなさい、よく分からない…です」
少しの間、考えを巡らせるも最終的にはわからないという答えが導き出されるし、しっくり来る。分からない、拓人のことは嫌いじゃないし、大切な友達だと思ってる。でもそれ以上の関係について考えようとすると途端に思考に靄がかかってしまう。
「そっかぁ……じゃあさじゃあさ!拓人と付き合いたいなぁとか思ったりする!?」
「私が……拓人と……」
私が拓人と付き合う……付き合う!?
若菜さんの言葉を少しずつ咀嚼し飲み込むと、私の体が再び熱に包まれるのを感じる。
わ、わ、私と拓人が付き合うなんてそんなこと!!……でも絶対ないとは言い切れない。でも私たち友達だし、いやでも……
自分が拓人と付き合う姿はおろか、誰かとそういう関係になることを想像すらしたこともなかった私は混乱に陥る。
拓人は……拓人は私のことをどう思ってるんだろう。拓人は私のこと、ただの友達だと思ってるのかな?なんでだろう、別に嫌だというわけじゃないし、嬉しいことのはずなのになんだかもやもやした気持ちになる。
何なのだろう、このちくりとした痛みは。何なのだろう、このもやもやとした気持ちは。
私はそれからしばらくの間、良く分からない不思議な気持ちに頭を悩まされるのだった。
(ふふふ……凛花ちゃん可愛いなぁ)
目をぐるぐるとさせながら俯いている凛花ちゃんを見ながら私は頬を緩める。
おそらく集中すると周りが見えなくなっちゃうタイプなのかな?私結構堂々と見てるのに全然気づかれないや。
先ほどから表情をころころと変える凛花ちゃんを見て私の口角はさらに上がることになる。
凛花ちゃんはもう既に拓人と名前で呼び合う関係っぽいし?私がちょこっとアシストすればもしかしたらすぐに付き合ったりするかも。まだ悩んでるみたいだけど、もし手伝ってって言われたら全力でお手伝いするからね凛花ちゃん。それが凛花ちゃんのためにもなるし、そして拓人のためにもなるから。
「ふふっ」
私はそこから凛花ちゃんにばれるまで彼女の表情の変遷を見守った。
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