第58話 白雪姫とお出かけ 8

「じゃあそろそろお開きにするか」


「うん、そうだね」


 ゲームセンターで遊んだ後、私と拓人はウィンドウショッピングを楽しんだ。特に何かを買うことは無かったが、色々なものを見ながら、拓人とおしゃべりをしているだけで時間はあっという間に過ぎ去っていった。


 現在時刻は16時を回った頃合い。解散するにはまだ少し早いのではないかと言う時間だが、帰り道の時間を考慮すれば丁度良い時間と言えるだろう。いくら日が沈む時間が遅いと言っても暗い中を一人で帰るのは少し気が引けるため、むしろこのくらいの時間でお開きになるのは少しありがたかった。


「途中まで送ろうか?」


「ううん、大丈夫。まだ外も明るいから平気」


「そ、ならここら辺で別れるか」


「そうだね。拓人、今日はありがとね!」


「こちらこそありがと。じゃあ気を付けて」


「うん、ばいばい」


 私は拓人に手を振り、別れを告げる。今日は楽しい一日だった。まぁちょっとどころではないほど恥ずかしい気持ちを感じることはあったが、終わりよければなんとやらと言うやつだ。


 私は自分の家へと歩を進めながら、今日のことを振り返る。拓人とこうしてお出かけしたいなと思っていたから今日はこうして一緒にお出かけすることが出来て本当に良かった。それに……


「んふふふ」


 私は袋から顔を覗かせているクマのぬいぐるみを見ながら笑みをこぼす。欲しかったものが手に入った喜びもあるが、それ以上に拓人が私のために取ってくれたことがとても嬉しい。少しどころではない量のお金を使わせてしまって申し訳なさを感じるが、それはあまり気にしないようにしよう。せっかくの拓人の苦労にケチをつけてしまう気がしたから。


 またこうやって拓人とどこかへ遊びに行けたらいいなぁ……。


 今日は今までのお出かけの中で1、2を争うほど楽しい時間だった。若菜さんや他のクラスの人達と遊びに行くのももちろん楽しいが、やはり自分の素を曝け出せる相手だからというのが大きいだろう。


 肩の力を抜いて話せるというのはそれだけ大きな要素だ。まぁ今日は肩の力入るときの方が多かったけど……。とにかく今日はすごい楽しかったなぁ。



 


「ただいまー」


「あ、お帰りお姉ちゃん!!」


 家に着き、靴を脱いでいるとぱたぱたと足音を立てながら梨乃が出迎えてくれた。あぁ……本当にかわいい、すごく癒される。


「ただいま梨乃。いい子にしてた?」


「うん!今日ね?お母さんと一緒に洗濯物畳んだの!!」


「えらいねぇ梨乃!!」


「えへへ~」

 

 私は荷物を置いて梨乃の頭を撫でまわす。このにへらと笑う梨乃のあどけない顔……最高!歩いて少し疲れてたけどその疲れがすべて吹っ飛んだ気がする……。梨乃にはもしかしたらヒーリング効果があるのかもしれない。


「わぁ!くまさんだぁ!!可愛い!!」


 私が置いた袋から見えていたクマのぬいぐるみを取り出し、高々と持ち上げる梨乃。姉妹だから趣味嗜好が似通っているのだろうか?もしそうだとしたらちょっと嬉しいかも。


「ねぇお姉ちゃん!これ欲しい!!」


「っ……」


 妹のおねだりに私は言葉が詰まってしまう。妹の願いは出来るだけ叶えてあげたいと思ってるし、日常的に妹が欲しいといったものに関しては自分の物でも喜んであげている。だが、このぬいぐるみに関しては「いいよ」の言葉がすっと出てこなかった。


 どうしよう……本当は自分の部屋に飾っておきたい……な……。


 もし自分がこれは私のだからダメと言ってしまえば梨乃は悲しい表情をするだろう。姉としては出来るだけ妹が悲しむ表情を見たくないし、出来ることなら常に笑っていて欲しい。でも……


「ごめんね梨乃、これはお友達からもらった大切なぬいぐるみなの。だからこれはあげられない、ごめんね?」


「……わかった」


「その代わりに梨乃にお土産買ってきたから」


「え!ホント!?ありがとお姉ちゃん!」


 少し不満そうな表情を浮かべるも、梨乃は大人しくクマのぬいぐるみを私に返してくれた。妹の素直さに感謝と感動を覚える。こんないい子に育ってくれてお姉ちゃんはとっても嬉しいよ……。それと今度は梨乃のためにぬいぐるみか何かをプレゼントしよう。絶対似合う、写真に収めたい。




 梨乃にお土産を渡した後、私は自室で休憩がてら荷物の整理をする。


「……うふふ」


 枕の隣に置いたクマのぬいぐるみを見ながら私は再び笑みをこぼす。私の心は今、嬉しさと幸せで満ち溢れていた。この子のことは大切にしよう、そう思いながら私はぬいぐるみのふわふわとした手触りをしばらくの間楽しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る