第57話 白雪姫とお出かけ 7


「わぁ……久しぶりに来たなぁ」


「凛花こういうとこ来るイメージないもんな」


 昼食を食べ終えた後、俺と凛花はショッピングモール内にあるゲーセンへと足を運んでいた。ちなみにお互いに集中してご飯を食べました、はい。とても気まずかったです(小並感)。


 ポップな効果音や電子音が鳴り渡り、あちこちでネオンな光が灯っているこの場所。実は俺も最近はゲーセンへ足を運ぶことがなかったため、密かに懐かしさを嚙みしめていた。いい意味で落ち着かない感じが良いんだよなぁ。


 実はゲーセンへ行くことになったのは俺の提案によるものである。お昼ご飯を食べ終え、お腹を少し休ませるのと同時進行でこれからどこへ行くかの作戦会議をしたときにゲーセンで遊ばないかと凛花に進言したのだ。


 特段何かをしたいとかそういうのではないし、別にウィンドウショッピングをしても問題はない。が、午前中の出来事のせいで俺と凛花の周りには気まずい空気がこれでもかと漂っている。


 そんな中、色々見て回ったところで、口数は少なくなるだろうし、会話はぎこちなくなることは明白。そんなときに天才的な閃きが空から舞い降りてきた。その名も「そうだ、ゲーセンに行こう作戦」。


 ゲームのおかげでそんなに仲が良くなかった人とも急に仲良くなれるし、ゲームのおかげで楽しい空気が出来上がったりする。ゲームってすごいんですよ。ゲームは最高のコミュニケーション手段なわけですよ。


 と言うことで俺はこのオペレーション「ゲームで遊んでいつの間にか気まずい空気どっか行っちゃったね」を実行し、今日の凛花とのお出かけを気まずいものから楽しいものへと変えるのだ。


「まぁ、とりあえずぐるっと見て回るか」


「うん」


 見慣れない景色に興味津々な凛花。子供のように目を輝かせながら視線を右往左往させている。いいぞ、現時点でかなり順調に作戦を遂行できている。この調子で行けば気まずい空気も元通りになるはずだ。


 凛花の少し後ろを歩きながら俺は静かに笑みを浮かべる。俺の天才的発想に恐怖せよ、がはは。 

 

「ねぇ拓人、これやらない?」


「ん?…ああ、もちろんいいぞ」


 凛花の指さした先にあったのは多くのゲームセンターに設置されているであろうエアホッケー。ゲーセンの定番と言っても過言ではないほどよくあるゲームだ。これ面白いけど、力強い奴とやると手痛くなるんだよなぁ……。


「なんかパックがたくさん出てくるモードもあるみたいだけど、まずは普通のやるか」


「うん、そうしよっか。負けないからね!」


「ふっ、かかってこい凛花」


 


「拓人もっかい!!」


「……はいはい。次はどっちのモードでやる?」


「もっかい普通の!」


「あいよ」


 結論から言うと凛花さん、エアホッケー弱かったです。超弱かったです。女の子相手だからとちょっとだけ力抜いても普通にぼろ勝ちしました。


 圧倒的差を付けられて負けたのが悔しかったのか、凛花は頬を膨らませて再戦を要求してくる。まぁ勝負は時の運って言葉もあるからね。さすがに次は負けるかもしれないし……


「うぅ……もっかい!」


 はい、勝っちゃいました。運とかじゃなくてシンプルに凛花が弱いことが判明しちゃいました。


 よほどの負けず嫌いなのか、半ば怒ったような顔で再度再戦を申し込んでくる凛花。多分次やっても同じ結果になると思うんだけどなぁ……。


「はいはい。あ、次はパックがいっぱい出る方のモードでやってみようぜ」


「望むところよ!」


 それ負けてる人が言うセリフではないと思うんですけど。

 

 二度あることは三度あるのか、それとも3度目の正直となるかの天下分け目の大戦が、今始まる……!



「きゃっ!なにこれ!?」


「うおっこれすごいな!」


 スタートのアイズと同時に普通のパックと同時に少し小さめサイズのパックがいきなり大量にフィールドへと放出される。あまりにもカオスな状況に凛花はどうしたらよいか分からないのか、ただ流れるパックを眺めていた。


「ほら凛花、ぼーっとしてたらまた負けるぞ!」


「えっ!?……このぉ!!」


 呆気に取られる気持ちは分かるが、勝負は既に始まっているのだよ凛花君。先手必勝と言う言葉は先に攻撃した方が必ず勝つという意味だ。この勝負勝たせてもらうぞ凛花!!




「……なんか勝っちゃった」


「ま、負けた……」


 先手必勝とは。必ずってついてるなら必ず勝ってよ!!


 自分が勝ったことに呆然としている凛花。勝ったことに全く実感が湧いていないご様子。まぁ確かにあれだけ混沌としたエアホッケーは初めてやったけども。


「な、なんかすごかったね......」


 勝利の喜びよりも困惑が勝ってしまっているご様子。「やった!」のやの字も発言せずにただただ困ったような声をあげる。


「……そろそろ別のところ見に行こっか」


「そうだな」


 大量のパックに面食らってしまいお腹いっぱいになったのか、凛花はいそいそと移動する準備を始める。分かるよその気持ち。


 何とも締まらない感じだが、まぁ当初の目的である気まずい空気を中和するということはできていると思うのでまぁよしとしましょう。


 俺と凛花はエアホッケーの台から離れ、再びゲーセン内を闊歩する。一通り見て回ったつもりだが、凛花の興味関心は絶えないらしく、今もあちこちを眺めながら歩いている。転ばないか少し心配だ。



「あっ……これかわいい……」


 凛花はそう言いながらクレーンゲームの前で急停止する。彼女が向いている方を見ると、そこには可愛いぬいぐるみが無造作に並べられていた。


「チャレンジしてみるか?」


「うん……ちょっとだけやってようかな」


 そう言ってクレーンゲームに100円玉を入れ、ガラスに張り付くような勢いでゲームに集中し始める。その集中のおかげか、アームの位置はぬいぐるみのちょうど真上に調整される。


 このままいけば取れるのではないかと言う期待で胸が高鳴る。が、クレーンゲームというのはそこまで甘くない。アームに掴まれたぬいぐるみは、上昇の途中でするりとアームからすり抜けてしまう。


「むむむ……」


 自然な流れでもう一枚入れたねあなた。え、もしかしてここに通ってたりします?


 大きなリアクションを取ることなく、ただ小さく唸り声を上げた凛花は、初心者とは思えないほどの素早い動きで100円玉をクレーンゲームへと投入する。負けず嫌いなのは分かるけど、そこで意地張ると後々痛い目見るよ?


 これはいけそうだなという雰囲気は何度も感じるが、無情にもお目当てのぬいぐるみはアームをすり抜けてしまう。 


「うーん……そろそろ行こっか」


 5回ほど挑戦してみたが悲しいことに全敗。凛花はこれ以上やっても取れるビジョンが見えなかったのか、少し後ろ髪は引かれるが、諦めるという判断を下した。これ以上やるともしかしたら2千円近く溶けていたかもしれないので、良い引き際と言えるだろう。


「ちょっと俺もやってみよっかな」


 ただ自分だけ見ててやらないというのもアレだし、せっかくなら凛花の欲しいものをあげたいなと言う欲が湧いてしまったため、俺は凛花が挑戦したクレーンゲームに100円を投入する。


「拓人……別に無理しなくても良いんだよ?」


「大丈夫だって。単純に俺もクレーンゲームがやりたくなっただけだから」


 あんまり経験はないけど、なんとかなるでしょ。出来れば早めに取れると良いんだけどなぁ…… 。




「はぁ……やっと取れたぁ……」


 16回目でようやくアーム君が本気を出してくれました。16回目で急にムキムキになってぬいぐるみをがっしりと掴み、取り出し口へと落としてくたアーム君。


 もしかしてプロテインとか飲んで筋トレした?さっきまでとは比べ物にならないくらい強いんですけど。出来ればもう少し早くムキムキになって欲しかったな。そうすれば俺の財布は冬を迎えずに済んだのに。


「よいしょっと……はい、あげる」


「え、いや……でも……」


「俺は取れれば満足だから。それに流石にちょっとその可愛い系のぬいぐるみは俺には似合わないからさ、よかったら貰ってくんない?」


「……そういうことなら」


「助かるわ、サンキュ」


「拓人……ありがと」


 おずおずと俺からぬいぐるみを受け取り、それを優しく抱き抱える凛花。嬉しいという気持ちが言わずとも伝わってくるほどの柔和な笑みを浮かべる。


「……どういたしまして」


 今の彼女はお姫様という言葉が霞んでしまうほどに綺麗で可愛さで溢れていた。それはもう息をするのを忘れてしまうほど見惚れてしまうくらいに。


 これ以上凛花を見つめているとまずいと思った俺は、凛花から視線を外し明後日の方向を無心で眺めた。

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