第50話 妹のためにver.白雪姫
楽しそうに話をする梨乃と、優しい笑顔を浮かべながら話を聞く拓人。そんな微笑ましい光景を見ていると私までついつい頬が緩んでしまう。
梨乃とはぐれてしまったときは頭が真っ白になったが、拓人が梨乃のことを保護してくれて本当に良かった。でも私の不注意で梨乃をすごく不安な気持ちにさせてしまったことには変わりない。人が多い時にははぐれないようにもっと注意しないとなぁ……。でもとりあえず梨乃が無事でよかった。
反省もほどほどに今は梨乃と無事に合流できたことを喜ぼう。私が暗い顔をしてたらせっかくのお祭りが台無しになっちゃうかもしれないし。
「──それでね!先生にえらいねって褒められたの!!」
「梨乃ちゃんすごいね」
「んふふ~」
幼稚園で褒められたことを自慢げに話す梨乃の頭を、拓人は優しく撫でる。
……いい!この光景すごく良い!!
にへらと笑う梨乃と、それを包み込むような優しい笑顔を浮かべる拓人。妹がとても嬉しそうにしているのももちろん素晴らしい光景だが、普段見せない拓人の優しい笑顔に私の目は大きく見開かれる。
この拓人の近所のお兄ちゃんって感じがすごく良い!!あぁ……この光景をカメラに収めたいなぁ。
今の二人を取って額縁に飾りたいところだが、無断で撮るのは良くないし、写真を撮っていいか聞くのもそれはそれで気が引けたので、私は二人を温かく見守ることにした。
「はいお姉ちゃん!」
「あーん……うん!美味しいよ梨乃!ありがとね!」
「えへへ~」
梨乃と拓人が話す姿を見守っていると、梨乃が何も食べていない私を思ってか、自分の食べている焼きそばを一口分けてくれた。お祭りの焼きそば、実は味が濃くてあまり好きじゃないが、梨乃が食べさせてくれたおかげで今まで食べた焼きそばの中で一番おいしいものになった。
私は梨乃の頭を優しく撫でまわす。本当にこの子は可愛いし、優しいし、気遣いのできる子だ。もう、本当に可愛い!!今すぐにでも抱きしめたい!!
梨乃をぬいぐるみのように抱きしめたいという欲求で体がうずうずしたが、今抱き着いてしまうと梨乃の膝にある焼きそばが地面へと落ちる未来が見えているため、私は抱きしめる代わりに、ひたすら頭を撫でまわした。
「お兄ちゃん!」
「うん?どうしたの?」
「お兄ちゃんもはい!」
梨乃は私と同じく、何も食べていない拓人に焼きそばをおすそ分けしようとする。
ああ、梨乃本当に優しい!!本当にいい子だ……な……っ!?!?
私は微笑ましいなと笑顔を浮かべるも、とあることに気づき、表情を一転させる。
あれ……これもし拓人が食べちゃったら間接キスになっちゃうんじゃ!?
「えっと……お兄ちゃん今お腹一杯だから……」
拓人もそのことに気が付いたのか、優しい笑顔を引きつらせながらなんとか断ろうとする。
「むぅ……あーん!!」
しかしいらないと言われた梨乃は頬を膨らまし、不機嫌さを孕んだ声を出し、持っていた箸を拓人の口元へと近づける。
「り、梨乃。あんまり無理を言っちゃ駄目」
私は無理を言う梨乃を止めるため、ほんの少し厳しい口調で話しかける。
お願い梨乃!梨乃がすごく優しいのは良いことだし、お姉ちゃん嬉しいんだけどそれをされるとお姉ちゃんがすごくいたたまれない気持ちになるからやめてちょうだい!!
「……お兄ちゃん本当に食べないの?」
「っ……」
とても悲しそうな表情を浮かべる梨乃に、拓人は罪悪感に潰されそうな顔をする。ごめんね梨乃、そんな顔させちゃって。でも私にも譲れないものってあるの。
心が締め付けられるような痛みを感じる中、当事者である拓人から「これどうすればいい?」という視線を感じる。
私が決めるの!?そこは拓人が決めてよ!?
拓人からどうするべきかの選択を委ねられ、私はひどく混乱する。
出来れば梨乃に悲しい顔はさせたくないけど、間接キスになってしまうのはとても恥ずかしい。でも、梨乃がこんな顔をしているんだよ?姉として妹を悲しませるなんてどうなの?いやでも拓人と間接キスだよ!?恥ずかしすぎて絶対後に引きずっちゃうよ!!
姉として妹を悲しませたくない自分と、恥ずかしいからやめて欲しいという2人の自分が頭の中でせめぎ合う。もう……一体どうすればいいの!!??
「あーん」
「!…あ~ん!!」
「……うん、すごく美味しいよ。ありがとね梨乃ちゃん」
「どういたしまして!むふ~」
最終的に、姉としての私が競り勝った。拓人に撫でられて表情を緩める梨乃。うん、梨乃が嬉しそうでよかった。そうよね、私があんまり意識しなければいいだけだもん。大体間接キスくらいなんてことないよね。
そう自分に言い聞かせながら、ちらりと拓人の方を見ると、バッチリ視線が合う。が、羞恥心のせいででお互い直ぐに目を逸らしてしまう。
む、無理!意識しないなんて無理!!!
今すぐ逃げ出したい衝動に駆られるも、服の裾をぎゅっと掴んで何とかこらえる。恥ずかしさのせいでしばらくの間は拓人のことを見れそうにもない。
「?……お姉ちゃんとお兄ちゃんどうかしたの?」
「「ううん、どうもしてないよ?」」
「わぁ!被った!二人は仲良しさんだね!!」
普段は何とも思わないのに、今は梨乃の指摘がやけに心に突き刺さる。十分気まずさと逃げたくなるほどの恥ずかしさを感じていたのに、それがさらに悪化する。まさか最愛の妹が傷口に塩を塗ってくるとは思わなかった。
ふと拓人の方を見ると、拓人も同じことを考えていたのか再び目が合ってしまう。先ほどとは違い、ほんの少しだけ見つめ合ったが、示し合わせたようにお互い別の方向を向いた。
うぅ……恥ずかしいし気まずい…!若菜さん速く戻ってきてぇ!!
私はこの気まずい空間を終わらせることが出来るであろう友達の帰還を強く望んだ。
おまけ
「ごめんな若菜、付き合って貰っちゃって」
「全然気にしないで!むしろまー君とこうして歩けて嬉しいよ!」
「そう?ならよかった」
「それに私から言い出したことだしね」
「あぁ……梨乃ちゃん拓人にすごい懐いてたからな」
「ねー」
(まぁ、半分は凛花ちゃんのためでもあるんだけどね)
「ん?どうかした?」
「んーん、何にも!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます