第49話 妹のために
「──それでね!先生にえらいねって褒められたの!!」
「梨乃ちゃんすごいね」
「んふふ~」
幼稚園で先生に褒められたことを自慢げに話す梨乃ちゃん。俺はその話に相槌を打ちながら、梨乃ちゃんの頭を優しく撫でる。撫でられてとてもご満悦な表情を浮かべる梨乃ちゃん。良かった気持ち悪いと思われなくて。
正樹と若菜のバカップルと離れた俺と白雪姉妹は、お祭り会場から少し離れた人が少ない場所へと移動し、現在は丁度いい段差に座って会話に花を咲かせていた。梨乃ちゃんは凛花と俺に挟まれていることが嬉しいのか先ほどよりも楽しいという感情が全面的に出ている気がする。
梨乃ちゃんと一緒に屋台を見て回るのも良いが、先ほどかなりの距離を歩いたし、はぐれて一人になったという精神的な疲れも考慮した結果である。
座っている間何も食べ物や飲み物が無いことが懸念されたが、幸いにも凛花が事前に買っていた焼きそばがあったため、話をしながらその合間合間に焼きそばを頬張っている。
……ってやっべ、自然な流れで梨乃ちゃんの頭撫でちゃったけど、お姉ちゃん的には大丈夫なのか?
ついつい手が動いてしまったが、梨乃ちゃんの隣にはあの妹大好きマンこと白雪凛花さんが座っているのだ。もしかしたら「うちの妹をその汚い手で触ってんじゃねぇぞ??」とか思っているかもしれない。その場合は全力で土下座しないと痛い目を見ること間違いなし。うっす、もう二度と梨乃ちゃんには近づかないっす。
恐る恐る凛花へと視線を送ると、とても微笑ましそうにこの光景を眺めている。良かった……詰められる心配はなさそう。俺は心の中でそっと胸を撫で下ろす。妹のことになると目がガチになるからなこの人。普通に怖いです。《《》》
「はいお姉ちゃん!」
「あーん……うん!美味しいよ梨乃!ありがとね!」
「えへへ~」
それからもしばらく話を続けていると、自分だけ食べているのが申し訳なくなったのか、梨乃ちゃんが凛花に焼きそばをおすそ分けする。あーんし、あーんされる白雪姉妹……なんかこう、いいですね、うん。尊い!!
白雪姉妹の尊い光景を見たことで俺の語彙力は無事爆発四散。安らかに眠っていてくれmy語彙力。どうせまた後で復活すると思うけど。
あーんしてもらった凛花は心底嬉しそうな表情を浮かべながら、梨乃ちゃんの頭をくりくりと優しい手つきで撫でまわしている。おそらく彼女の妹大好きメーターはオーバーフローしていることだろう。
いやぁ……いいもん見れたわぁ……。
あれだね、姉妹が仲良くしてる光景って素晴らしいよね。俺の荒んだ心が浄化されてくのが分かるもん。友人とか恋人の関係とはまた違った信頼関係があってこう……なんというかすごい尊いよね!!尊い!!
地面に横たわっていたはずの語彙力が息を吹き返したと思ったら、またすぐに値を吹き出しながら地面に突っ伏しました。語彙力君忙しそう(小並感)。
「お兄ちゃん!」
「うん?どうしたの?」
「お兄ちゃんもはい!」
……んんん~????梨乃ちゃんその手は一体何かな~???
一口分の焼きそばが挟まれた割りばしが俺の顔の前にやってくる。
「えっと……お兄ちゃん今お腹一杯だから……」
「むぅ……あーん!!」
いや可愛いけどそんな頬を膨らましても食べません。というか食べたら色々とまずいんですよ。
「り、梨乃。あんまり無理を言っちゃ駄目」
少し慌てた様子で梨乃ちゃんを説得し始める凛花。そう、もし俺が梨乃ちゃんから下賜された焼きそばを食べてしまうと凛花と間接キスすることになってしまうのだ。そのことに凛花も気が付いているのか慌てた様子で梨乃ちゃんを止めに入っている。顔がなんとなく赤くなっているのは気のせいではないだろう。
「……お兄ちゃん本当に食べないの?」
「っ……」
やめて!そんな目でこっちを見ないで!!すごい悪いことしてる気分になるから!!
悲しげな表情でこちらを見つめる梨乃ちゃん。しょんぼりしているという表現がとてもしっくりくるくらいに落ち込んだ顔をする梨乃ちゃんに自分の良心が絶叫し始める。
どうするべきか一度凛花へと視線を向けると、非常に困った顔でこちらを見ていた。梨乃を悲しませるようなことはしたくないけど、間接キスになってしまうのは恥ずかしいと考えているのが伝わってくる。目は口程に物を言うではないが、そう考えているのが分かるほどに困り果てた顔をしていた。
ねぇどうするべきなの!?俺これ食べた方が良いの!?ねぇ!?
凛花にどうするべきか目で問いかける。「えぇ!?私が決めるの!?」といった表情を浮かべた凛花。俺には無理だ!頼むからそっちで決めてくれ!!
とても悩んだ顔を浮かべた凛花だったが、最終的には妹への愛が勝ったらしい。首を縦に振り、GOサインが出た。
「あ、あーん」
「!…あ~ん!!」
「……うん、すごく美味しいよ。ありがとね梨乃ちゃん」
「どういたしまして!むふ~」
梨乃ちゃんからあーんしてもらった焼きそばを咀嚼し終えた俺は、出来るだけ恥ずかしいという感情が出ないようにしながら梨乃ちゃんの頭を撫でる。先ほどまでの悲しそうな表情はどこへやら、今はとても幸せそうな顔をしている。
ちらりと凛花の方を見ると、彼女と目が合ったが、お互いにすぐ反らす。
き……気まずい。
おそらく凛花も同じ風に思っているだろう。いくら梨乃ちゃんが悲しまないようにするためとは言え、恥ずかしいのか先ほどより凛花の肌が赤みがかっている気がする。
……いやこっからの空気重たいよ!!
「?……お姉ちゃんとお兄ちゃんどうかしたの?」
「「ううん、どうもしてないよ?」」
「わぁ!被った!二人は仲良しさんだね!!」
普段の状態であれば「そうだよ、俺たちは仲良しさんなんだよ」と返すことが出来ていただろうが、今のこの絶妙な空気においては梨乃ちゃんのこの言葉はあまりにも爆弾発言過ぎる。
凛花と目が合うも、気まずさのせいでお互い別々の方向を向くことになる。
頼む……二人速く帰ってきてくれ!!
心の中でそう強く願いながら、俺はこの突如発生した地獄の中、梨乃ちゃんに変に悟られないように笑顔を張り付けるのだった。
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