第46話 夏祭り
「今日雨じゃなくて良かったなぁ」
「そうだな、にしても人多すぎじゃね?普通に疲れるんだけど」
「夏祭りってこんなもんだから我慢しろ」
「うへー」
俺と正樹は人の荒波に揉まれながら、集合場所へとたたひたすら歩いていく。今日は夏休み前に約束した友人たちと夏祭りへ行く日。日は傾き、あと1時間もすれば太陽君は地平線の彼方へと沈んでいく時間帯であるのに人が多いせいか、はたまたお祭りの熱気のせいかやけに暑く感じられる。
お祭りってすごい楽しいし、雰囲気最高だけど人が多すぎるのが難点だよなぁ。まぁそれがお祭りの醍醐味っちゃ醍醐味なんだけども。インドア派の俺からしたらこの人の数はとてもきつい。まだ来たばかりで何もしていないというのに体力がゴリゴリ削られていく。
「サラリーマンの朝って感じだなこれ……」
「もう少ししたら夜だけどな」
出勤時間帯の満員電車を彷彿とさせるこの人混み。社会人になるとこれを毎朝経験するとかマジですか?こんなのに耐え切って会社に行って働いて残業するとか……え、死ぬよ……?普通に体力的にも精神的にも壊れるよそんなの。
「ん?どうした拓人、そんな怯えた顔して」
「いや、自分の将来についてちょっと悩んでた」
「お祭りの日に考えることじゃないぞそれ」
俺の発言に正樹は呆れた表情を浮かべる。まぁお祭りの日にそんな将来について悩み出すとか普通はやばい人扱いされるよね。それを呆れで済ませてくれるあたりさすが我が親友である。
「あ、拓人ー!正樹ー!こっちこっちー!」
人混みをかきわけて進むこと数分、俺と正樹は待ち合わせ場所へと到着する。名前を呼びながら手を振っている陽の隣では既に何かをモグモグしている涼太の姿があった。
「やっほ陽、涼太。待たせちゃった?」
「ううん大丈夫だよ正樹。僕たちがちょっと早く着きすぎただけだから」
「あぁ……だから涼太はもうフランクフルト食ってんのね」
「そういうこと」
「よっす、拓人とまっさん。お腹空いてたからちょっとフライングさせてもらってるぜ」
口に含んでいたものを飲み込んだ涼太が、こちらへ向かって片手をあげる。
「あいよ。そんじゃまぁ涼太がそれ食べ終わったら行くか」
「ゆっくりでいいからね涼太」
「はよ食え涼太」
「どっちだよ」
ゆっくりで大丈夫だと言う陽と急かす俺に涼太は模範とも言えるツッコミを入れる。結局涼太は待たせているのが申し訳なく感じたのか、早いスピードでフランクフルトを食べ進めました。うん、なんかごめんね?
そうして俺たちは適当に喋りながら、屋台を見て回る。お祭りと言ったらこれと言った食べ物から変わり種の食べ物、それから金魚すくいにくじ引きや射的など色とりどりの屋台が立ち並ぶ。
その屋台一つ一つにぶら下げられた安っぽい電球も、このお祭りと言う舞台では百万ドルの夜景にも負けず劣らずの輝きを放つ。
あぁいいねこの感じ。やっぱお祭りって良いよなぁ。
あちこちから聞こえるジューという鉄板の音と客を呼び込む大きな明るい声が気分を高揚させる。初めて都会に来た田舎少年のようについ周りをきょろきょろきょろきょろしてしまう。
「あ、ちょっと買ってきてもいい?」
「いってらー」
俺は3人から離れてお目当ての商品を買いに行く。おばちゃんへとお金を手渡し、商品を受け取る。商品を購入した際、稀に発生する屋台のおばちゃんやおじちゃんとの会話が実は結構好きだったりする。
「初手いちご飴かよ……」
「別にいいだろ」
困惑の表情を浮かべる涼太に俺はむっとした表情を浮かべる。別に最初に甘いもの食べてもいいでしょ。わたあめみたいに邪魔にならないんだし。
それから俺たちは歩きながら食べれるものを買いつつ、ぐるりと屋台を一周する。
「そろそろガッツリとしたもの食いたいよな」
「そうだな。ひとまずどこか落ち着ける場所探してそこで食べるか」
「あ、あそこ丁度席空いてるよ」
いくつもテーブルが設置されている、休憩所のような場所を陽が指さす。運がいいことに丁度一つ4人掛けのテーブルが空いていたため、俺たちは急いでその席を確保する。なんと言う幸運。
「よし、食べる場所を確保できたことだし、買いに行くかと言いたいとこだけどどうする?」
「んー……まぁ買いに行く組と待機組に二人ずつ分かれるで良いんじゃないか?」
「それが無難だね」
「じゃあ俺待ってるから焼きそば買ってきて」
「おい、じゃんけんだぞじゃんけん。さぼろうとすんな拓人」
さぼるとは心外な。俺は率先してこの席を守ってあげようと思っただけのに。
涼太にじゃんけんで決めると言われてしまい、俺はその聖戦に参加せざるを得なくなる。くそっ!サボりたかった!
「まぁ拓人まっさんペアと俺、陽ペアでいいだろ」
「うん、それでいいよ」
「拓人負けんなよー」
「任せとけ」
「「じゃーんけーん──」」
「んじゃ拓人、まっさんよろしくぅ」
「よろしくねー」
はい、負けました。あいことか無しに一発目で負けました。敗者は勝者に従わなければいけない、それがこの世のルール。俺と正樹は二人の注文を聞き、屋台へと繰り出す。悲しい、そしてごめん正樹。
「拓人、焼きそばあるぞ?買ってくか?」
「いや帰りでいいよ。持って歩くのめんどいし」
「了解」
お祭りの焼きそばってなんでか美味しいよね。鉄板で焼いてるからかそれともお祭りの雰囲気のおかげか。まぁどちらにしてもお祭りと言ったら焼きそばは外せない。美味しさマシマシ、ついでに塩分と油もマシマシ。
焼きそばの屋台を通り過ぎ、先にテーブル待機組の頼んだものを買いに足を動かす。くそ涼太め、地味に遠いところにあったものを頼むんじゃないよ。
「なぁ拓人、あの子迷子かな?」
「ん?どれだ……あぁっぽいな……ん?あの子……」
「知り合いか?」
「まぁ……そんな感じかな?」
人が行き交う中、不安げな表情を浮かべ、周囲を見回しているピンク色の可愛い浴衣を着た小さな女の子の姿があった。遠目からだが、おそらく合っているだろう。
あれ梨乃ちゃんだわ。
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