第45話 白雪姫とお買い物

「あ、梨乃だ!ほら見て拓人!ちゃんと袋持って出てきたよ!」


「見てるからそんな叩かないで?」


 スーパーから袋を持って出てきた梨乃ちゃんを見つけた凛花は興奮を抑えきれず俺の二の腕を軽く叩き始める。まぁ何はともあれ無事に頼まれたものを買えたみたいでよかった。


 梨乃ちゃんはどこか満足げな表情を浮かべながら、袋を大切そうに持っている。その姿を見ると心がとてもほっこりする。隣でテンションがおかしくなっている人の気持ちが少しわかった気がする。自分の妹があんな風に成長する姿を見たら俺も嬉しさでおかしくなりそう。


「凛花はこの後も梨乃ちゃんを見守る感じ?」


 後は来た道を戻るだけの梨乃ちゃん。ここまで一人で出来たのであれば後はもう心配はないだろう。ただ隣の人はそうはいかない。何せ超が付くほどのシスコンなのだ。どうせ「転んだらどうするの!」とか言って後ろから見守ることになるんだろうな。


「そうしたいのは山々なんだけど……頑張った梨乃に私はご褒美を買わなきゃいけないの。……大丈夫かなぁ。途中で転んだりしないかなぁ?」


 とても心苦しそうにする凛花。過保護すぎて将来梨乃ちゃんから嫌われないか今から心配である。


「まぁそんなに気になるなら速攻でご褒美を買って走っていけば?」


「梨乃へのご褒美をそんな簡単に決めれるわけないでしょ!」


「あ、はい。すんません」


 数十分ぶり、二度目の理不尽。彼女のシスコンぶりを舐めていました。大変申し訳ございません。


「まぁいいや、それじゃあ梨乃ちゃんへのご褒美決め頑張って」


「あれ?拓人も買い物するの?」


「いや元々その予定だったんだよ」


 通りすがりのシスコンさんのせいで、大幅に予定がずれたんですよ。通りすがりのシスコンさんのせいで。


「そうなんだ……じゃ、じゃあさ……梨乃に何買うか決めるの手伝ってくれない?」


 え、何急に。逆に怖いんですけど。


 妹に対しての思いが大きすぎる凛花からのお手伝い要請に、俺は何か裏があるのではないかと疑ってしまう。普通に怖いからそれとなく断ろ。


「梨乃ちゃんへのご褒美は自分で決めた方が良いんじゃない?そっちの方が梨乃ちゃん的にも嬉しいと思うし」


「た、確かにそうだけど……今後の参考のために拓人の意見も聞きたいなって。ほ、ほら拓人甘いもの好きだし」 


「それ関係ある?」


「と、とにかくいいでしょ!ほら行こ?」


「……分かったよ」








 さ、誘えた……。私、拓人のこと誘えた……!


 買い物かごを持ち、どの野菜を買おうか悩んでいる拓人を見ながら、私は拓人を買い物へ誘うことが出来たことに少しの達成感を覚える。


 この前の委員会の日、私は拓人を遊びに誘おうと思っていたが、結局言葉にすることが出来なかった。結果的には遊ぶ約束が出来たけれど、拓人と仲良くなりたいと思っているのにそれを行動に移すことが出来ないのはよろしくない。


 そんな中で今日は梨乃を見守っている最中に拓人と偶然出会った。数十分前のの私は梨乃のことで頭が一杯だったため、無意識のうちに拓人を連れまわしたり、拓人の体に触れたりしていた。今思えばかなり積極的な行動を取っていたなと少しだけ恥ずかしくなる。


 しかし私は逆にこの勢いを生かし、なんと一緒に買い物をしようと誘うことが出来た。1週間前の私から大成長を遂げることが出来たのだ。


「んー、これでいっか」


「ねぇ拓人」


「ん?どうした?」


「拓人も親におつかい頼まれたの?」


 ひとしきり悩んだ末、野菜をカゴに入れた拓人に私は一つ質問を投げかける。普通に自分のお菓子や飲み物を買うのであればコンビニで十分だし、わざわざスーパーに買い物に来ているということはおつかいなのかなと思ったのだ。


「んー、おつかいではないかな。シンプルに今日と明日のご飯の材料を買いに来たって感じ」


「……え?拓人って料理するの?」


「親が仕事で忙しいときとかに作るかな」


 え、拓人料理できるの!?


 さらりと言ってのけた拓人に私は驚きを隠せない。勝手なイメージだけど拓人は料理とかが苦手な人だと思い込んでいた。しかもこの感じ結構料理できるタイプの人間だ。え……拓人が料理している姿が全く想像できない。


 拓人がエプロンを付けてキッチンに立っている姿が全く想像できない。一体どんな感じの料理を作るのだろう。すごく気になる。


「ねぇ拓人、今日は何作る予定なの?」


「うーん……今日は普通に肉と野菜の炒めものと味噌汁と……あと適当に何かもう一つ作ろうかなって感じ」


「……すごいね」


 すごく家庭的な回答が返ってきてしまい、余計拓人が料理する姿にもやがかかってしまう。作ろうとしているものが炒飯とかならば多少は想像できたのに。


「別にそんなすごくないと思うぞ。野菜切って肉と一緒に炒めるだけだし、味噌汁も簡単に作れるから」


「へ、へぇ……」 


 調理実習以外で料理をしたことがないため、拓人の言っていることが本当なのかどうか分からず、当たり障りのない返事をしてしまう。


「お、これ安いな」


 拓人が手に取った商品を見る。普段からスーパーに行くことがない私にとってはどのくらいが安くてどのくらいが高いのかいまいち判断がつかない。口は災いの元。私は特に何も言うことなく拓人の隣を歩いた。


 拓人と一緒にスーパーの中を歩いていると、買い物をしに来たカップルと思われる人や、家族連れの人たちが視界に映る。


 え……なんか……今の私たちってこう……なんか、なんかじゃない!?


 すごい今更感はあるが、拓人と私は今周りの人からどう思われているのかに意識が行ってしまった。「今日のご飯何にするの?」「これ安いね」などの会話をしながら一緒にスーパーで食材を買う。あれ……これって……


 い、いやいやいや!!!何考えてるの私!!

 

 頭の中に示された文字に私は頭を振る。ただの男女の友達でも買い物くらい行くでしょ?それと同じだから!


 そう頭の中で自分に言い聞かせるも、私は拓人と買い物をしている間、周りからの視線と気恥ずかしさに耐え続けることになった。

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