第44話 白雪姫は妹思い
「久しぶり凛花。1週間ぶりくらい?」
「それは久しぶりって言うのかな……まぁ久しぶり拓人。…ってそうだ!拓人こっち来て!早く!!」
「ちょっ!」
挨拶を済ませると同時に俺は腕を掴まれ、先ほど凛花が来た道の方へ引っ張られる。
「あの……凛花さん?」
つい先ほど出会った麦わら帽子の少女のことをばれないように監視する凛花に、に声をかけて説明を求める。突然引っ張られたかと思えば、何も説明がなされないまま放置されるとか、新手の放置プレイにも程があると思うの。
「待って!今梨乃が道を間違わずに行けるかどうかの瀬戸際なの!今すごい良いところだから静かにして!!」
「えぇ……」
説明を求めたら何故か怒られました。何この理不尽。
梨乃と呼ばれたあの麦わら帽子の少女から一瞬たりとも目を離したくないらしい。凛花は小さい声で「頑張れ、そっちじゃないよ」などの声援を送りながら朱色のレンズに少女の姿を収め続ける。
女の子だからまだ何とかなっているが、これが男だったら完全にストーカーのそれである。途中で誰かに見られて通報されないか心配だ。
「あぁもう梨乃えらい!間違わないで行けてえらい!!」
どうやらあの少女が正解の道に進んだらしく、凛花は俺がいることも忘れて興奮した声を上げる。うん、楽しそうで何よりです。
「ほら拓人!行くよ!」
「はい?」
「早くしないと梨乃に追いつけなくなっちゃうでしょ!ほら早く行くよ!!」
「……うっす」
そろそろ説明してくれるのかと思ったらまさかの強制同行を命じられる。拒否する前に少女の後を追い始めた凛花に、俺は首を縦に振ることしかできなかった。
そこから俺は凛花と一緒に少女の姿を見守った。その間凛花に説明を求めようとしたが、先ほど同様に「今集中してるから!」と返ってくることが予想されたので俺は大人しくすることにした。
「よし、無事たどり着けたみたいね」
「だな」
俺と凛花は少女がスーパーに入るところを見届ける。尾行をしていてる途中で察してはいたが、あの少女の目的地はスーパーだったらしい。
「中には入らないのか?」
「さすがにスーパーの中でこんなことしてたら怪しまれるでしょ?」
あ、そこはちゃんとしてるんですね。
さすがの凛花も人目のつく場所で、ストーカー行為もとい監視もとい見守りはしないらしい。まぁしたらしたで即通報&退場される未来が待ち受けているので賢明な判断である。
「じゃあそろそろ説明してもらってもいい?」
「……ごめんね?今まで説明してなくて」
「いいよ別に」
説明してなかったことより先に強制連行したことを謝る方が良いのではという考えが脳内を高速で通過していったが、口には出さず説明を待つことにする。
「えっとね梨乃……あの麦わら帽子を被った子は私の妹なの」
うん、まぁそうだよね。あの子すごい凛花に似てたし、凛花の反応的にそうだとは思ってたよ。
「それで今日梨乃が初めてのおつかいを任されて、私は梨乃のこと見守ってた感じね」
「なるほどね」
目的地がスーパー、心配そうに見つめる姉、もうこの二つでほとんどの人は予想がつくだろう。現に俺も途中から予想はついていた。
「でもそんなに心配しなくてもあの子なら大丈夫そうだけどな。さっき交差点の角であの子とぶつかりかけ──」
「え?何?拓人、梨乃とぶつかったの?え?梨乃怪我してないよね?もし怪我してたらさすがに怒るよ?」
「いやぶつかりかけただけだから。怪我してないのちゃんと確認したから」
いやこっわ!!急に牙むき出してくるじゃん!!
聞いたことないくらいの早口で詰め寄ってきた凛花。今まで感じたことがないほどの圧に俺は戦慄の表情を浮かべる。シスコンにも程があるよ。多分この感じ妹に変なことした人のこと平気で殴れるよこの人。
「そう、ならいいけど。それで?」
「いや。あの子ぶつかりそうになった時にちゃんと謝れてたし、敬語も使えてたから、一人でも買い物くらい出来るんじゃないかと思って」
ぶつかったときに頑張って敬語を使って謝ってきた姿を思い出す。あれくらいちゃんとしているなら別に心配する要素はないと思うんだけどなぁ。
「まぁ確かに梨乃は可愛いし、立派だし、しっかりしてるすごい可愛い子だけどね?」
「そっすね」
可愛いが2回使われたことはスルーすることにする。(爆笑ギャグ)
「でも心配じゃん!もし誰か変な人に絡まれてたらどうしようとか、事故に遭わないかとか、それに熱中症にならないかとか。もう私の心臓がいくつあっても耐えれないくらい心配なの!」
「ああ、うん、そうね」
もう考えるのがめんどくさくなった俺は適当に相槌を打ってやり過ごすことにする。凛花が重度のシスコンさんなんだと分かりました(小並感)。
それにしても凛花に妹がいるの初耳だわ。俺てっきり一人っ子か、兄か姉がいるのだと思っていた。スーパーで買い物中の妹を想像しているのか、落ち着きなくそわそわしている凛花を見る。
姉……うん……姉かぁ……。
凛花の姉らしい行動を思い出そうとするも、不機嫌そうにしているところだったり、自慢げな笑顔を浮かべているところだったりと全く「姉」という文字に結びつかない行動ばかりが思い出される。
普段の凛花は「姉……?どこが……?」という感じなのに、こうして今の凛花を見てると「あぁ姉なんだなぁ」という感想が自然と浮かんでくる。何これ、普段とのギャップが凄すぎて風邪ひきそう。
「?…拓人どうかした?」
「……いや、何にも。梨乃ちゃんが無事に買い物出来てればいいなと思って」
「普段の凛花が姉っぽくないから今の凛花を見て驚いてた」と正直に言ったら文句を言われるか、不機嫌になる未来が見えたので、俺は黙っておくことにした。
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