第40話 夏休み前の教室

 無事期末試験を乗り越えた生徒たち。彼らは誰から見ても浮かれている状態にある。だがそれも仕方がないことだ。何故なら後数日乗り越えれば、1ヶ月間学校へ勉強をしに行かなくて良いことになるからだ。


 お昼ご飯を食べ終え、時間を持て余している生徒達の「夏休み何する?」「私〇〇行くんだよね~」等、夏休みという長い自由時間をいかに有意義にするかの相談事や既に決まっている夏休みの予定自慢が教室のあちこちから聞こえてくる。その声色はとても明るく、楽しさが滲み出ている。


「拓人はなんか夏休み予定あんのか?」


「ゲーム、アニメ、漫画、以上」


「それいつもの休日と変わんなくね?」 


 俺のところでも同様に夏休みの話題が振られる。俺は涼太に夏休みの予定を聞かれたため、これ以上ないくらいに分かりやすく答えたところ、そのお返しに何故か言葉のナイフが飛んでくる。べ、別にれっきとした予定だし……悲しくなんかねぇし!!


「そういう涼太はなんか予定あるんだよなぁ!?」


「部活」


「えっ……と……他には?」


「部活」


「あ…」


 半ばキレ気味に夏休みの予定を聞くと、一つの単語が返ってくる。ハイライトの消えた瞳と涼太の無表情顔からとてつもない悲壮感が漂っている。周りはとても明るい雰囲気で会話しているのに何故ここだけこんなに暗いのだろう。現実は残酷だなぁ……。


「ま、まぁ部活があるだけまだいいんじゃないか?俺なんか涼太の言う通りほぼ予定がないみたいなもんだからさ。青春だよ青春」


「そうだよな、青春だよな!俺は青春を謳歌しているよな!」


「青春を謳歌している人はそんな怖い顔しないよ涼太」


「黙れ彼女持ち!お前はどうせ彼女とイチャイチャする予定で詰まってるんだろ!!」


 なんとか場を盛り上げようと俺は、涼太が十分青春を謳歌しているとフォローする。が、容赦なく正論をぶつける陽のせいで俺のフォローは台無し。涼太は怨嗟のこもった視線を陽へと向け、怒りを露わにする。陽って案外涼太には辛辣よね……。


「言うて僕もほとんど部活だけどなぁ」


「確かに吹奏楽部ってそんなイメージあるわ。大変そうだなぁ」


 小学生並の感想を口に出す俺。吹奏楽部って学校で1,2を争うブラック部活だよね。本当に大変そう(小並感)。


「でもお前部活がデートみたいなもんじゃん!一緒にすんなよ!」


「いや部活は真剣にやってるけど……」


「それでもほぼ毎日彼女に会えるじゃねぇか!しかも休憩時間とかにイチャイチャすんだろ!?ほぼデートだろうが!」


 これはもう何言ってもダメなやつですね。持つ者と持たざる者の差を目の当たりにして人間って愚かだなぁと思いました。待てよ……これを夏の自由研究のテーマにしたら案外面白いのでは……?


「何?今何の話してんの?」


「くっ、もう一人の彼女持ちめぇ!!許さんぞぉ!!」


「おー正樹お帰りー」


「あい、ただいま。後大体何の話してるのか、涼太の感じで予想ついたわ」


 飲み物を買いに行っていた正樹が帰ってくる。今の話題がなんなのか聞いてきた正樹だったが、涼太から睨まれたことでなんとなくの予想はついたらしい。


「お帰り正樹、今は夏休みの予定について話してたんだよ」


「そして涼太が発作を起こしたところ」


「発作じゃねぇわ!」


「うん、俺の予想大体合ってた」


 陽の説明と正樹の予想は大方合っていたらしい。涼太の言動が分かりやすすぎるのか、それとも正樹の空気を読む能力が高いのか……まぁ前者かぁ。


「あ、予定で思い出したけど陽と涼太夏祭りの日空けといてくんない?」


「うん、わかった。空けとくね」


「まぁ元々誘おうって思ってたからな」


「……え、俺は?」


「拓人はどうせ暇でしょ?だから聞かなくていいかなって」


「俺の扱いひどくない?」


「でもどうせ暇だろ?」


「まぁ暇なんだけどね?」


 親友からの扱いがひどい件について。も、もしかしたら予定があるかもしれないじゃん……いやないんだけどね!?


「まぁそういうわけだからよろしく」


「うん、わかった」


「あいよ。でもまっさんとか陽は彼女さんと行かなくても大丈夫か?」


「3日間あるからそのうちのどこかで行くから大丈夫」


「僕も同じ感じだね」


「なんか余計な心配したせいで傷ついたわ」


 涼太の無駄な優しさが仇となる。「一緒に夏祭り行こうね」という楽しいムードの中、涼太の心臓にちくりと痛みが走る。うん、涼太は良いやつなんだけどね。




「あれ、もうこんな時間か」


 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、正樹が時計を見ながら驚きの声を上げる。あれからも雑談を続けているうちにいつの間にか10分以上時間が経っていたらしい。体感数分なんだけどなぁ……時の流れって恐ろしい。


 周りの生徒たちと同じように俺たちも各々の席へと戻っていく。普段ならめんどくさいという思いが教室全体に漂っているのだが、次の授業はテストの返却と解説という夏休み前の消化試合のため、今はとてものほほんとした空気が教室全体を包み込んでいる。


 さて、俺もテスト受け取ったらひと眠りしますかね。冷房の効いた教室、お昼ご飯後の授業、睡魔には効果抜群だ!

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