第39話 白雪姫との和解 ver.白雪姫
私の強い意思が引き寄せたのか、拓人と二人きりの時間が訪れる。謝るのならば今しかない、今が最後のチャンスだ。でも……
どうやって切り出せば良いの!
数歩先を歩く拓人の背中を見ながら、私は頭を抱える。歩き始めてからお互いに無言の状態が続いたせいで話しかけようにもタイミングが分からない。
やっぱり嫌いな人とは喋りたくない……よね……。
先ほどから話すどころか、顔も会わせてくれない拓人に私の心は雨雲に覆われる。今も拓人は我慢して私のことを送っているのだと思うと、しょうがないほど悲しい気持ちになる。数歩分しか距離はないはずなのに、拓人との間に大きな溝が出来たような錯覚を覚える。
でも私……このままじゃ嫌だ。拓人と仲直りしたい。
このままの流れで拓人と仲が悪くなってしまうのは絶対に嫌だと心がそう叫んでいるのを感じる。許されるならば私は拓人と仲良くなりたい。このままの関係が続くなんて私にはもう耐えられない。
謝るんだ……今すぐに謝るんだ!!
しかし、私の体はその意思には素直に従ってくれない。もし許されなかったら?もしそれでこの関係が突然終わりを迎えてしまったら?というもしもの世界線が脳裏をよぎる。大きく吸った息は私の体に少しの間滞在した後、音を出すことなく体の外へと逃げていく。
謝るだけなのに……ただごめんなさいを言うだけなのになんでこんなに怖いんだろう……あっ…。
拓人の歩く速度が速くなり、先ほどまで数歩分しかなかった距離が少しずつ大きくなっていく。
待って、行かないで。
一歩ずつどんどんと引き離されていく。私が謝らないから、私がくよくよしているからだ。腹をくくれ私。どんな結果になるか分からないけど謝らないと前には進めないんだ。頑張れ私。
「た、拓人!」
「ご、ごめん凛花。ちょっと考え事してた」
私の呼びかけに拓人は足を止め、こちらへと顔を向ける。久しぶりに目と目が合う。拓人の表情がどこか居心地が悪そうなのはおそらく勘違いではないだろう。
今ここで言うんだ。私は大きく息を吸い、そして──
「「ごめん(なさい)!!」」
「「……え?」」
私と拓人の時間が一瞬だけ止まる。拓人がぽかんとした顔をしているが、おそらく私も同じような表情をしているだろう。
「「なんで凛花(拓人)が謝るの!!??」」
「「いやそれは俺(私)のセリフ!!」」
え?何?何なの?一体どういうことなの!?
見事なまでに言葉が被る。先ほどまで謝るのが怖いと思っていたのにその恐怖はいつの間にか消え去る。いや、恐怖を忘れてしまうほどに混乱していると言った方が正しいかもしれない。そのくらい私の頭の中は今ごちゃごちゃになっていた。
「えっと……?凛花はなんで謝ってきたんだ?」
ただ混乱しているのは私だけではないらしい。拓人は何故私が謝ってきたのかとても不思議そうな顔でこちらへ質問を投げかける。
「その……この前拓人が転びそうになった私を助けてくれたのに、私図書室を飛び出していったから怒ってるのかなって……それに仕事も放り出しちゃったし……。そ、そういう拓人こそなんで謝ってきたの?」
「いや……この前凛花を支えた時に力入りすぎちゃったし、それにあんな距離が近くなって不快な思いをさせてしまったなぁと……」
「「……」」
え……ど、どういうことなの?
私と拓人の時間が再び止まる。状況を飲み込むことが出来ずにいた私はいつもより瞬きの回数が多くなる。今の状況を理解しようとするも、疲れのせいで中々頭が回らない。
「えっと……ごめん凛花、どういうこと?」
「私が聞きたいよ!」
拓人も同じくこの状況を掴めていないのか、私に今何が起こっているのか聞いてくる。が、私もいまいちよく分かっていないため答えることが出来ない。むしろこっちが聞きたいくらいだ。
ええっと……まず私は急に逃げだしたから拓人に嫌われてると思ってた。それで謝ったら拓人も謝ってきた。聞いた感じ拓人も自分のことが悪いと思ってたみたいで……あ、つまり──
「凛花、ちょっと質問してもいいか?」
「ど、どうぞ」
答えまであと少しでたどり着けそうだったが、拓人から声がかかったため一度意識を拓人の方へと向ける。
「凛花は俺のこときもいって思ったり嫌ったりしているわけではない?」
「全く思ってないし嫌ってないよ」
拓人からの質問に簡潔に答える。そんなこと微塵も思っていない。拓人から素っ頓狂な質問が来たことで、私の予想が9割方合っているだろうと確信する。ただそれでも、もしかしたら間違っているかもしれないため、私も拓人へと同じように質問する。
「ねぇ拓人、私からも質問してもいい?」
「もちろん」
「拓人は私に怒ってたり、私のこと嫌いだったりする?」
「全く怒ってないし、嫌ってないぞ」
ああ、やっぱりそうだ。
「えっと……つまり私たちお互いに嫌われてるって思ってたの?」
「そ、そういうことになる……な」
私と拓人はお互い自分が悪い、そして自分は嫌われていると考えていたのだ。こんな綺麗にすれ違うことがあるのだろうか。まさかこんなことが起こるなんて予想外過ぎる。でも……
でも、拓人に嫌われてなくてよかった。
「っふ、あはははは。こんなことあるんだね」
私は糸が切れたかのようについ吹き出してしまう。こんなすれ違いが起こったからというのはもちろんあるが、私から笑顔が零れてきたのは拓人に嫌われていないと知って安堵したからというのが大きいだろう。
拓人も私につられたのか大きな笑い声をあげる。あぁ……よかった。いつもの居心地の良い空気が戻ってきたことに嬉しさを感じる。
「改めてごめんね拓人、あの時急に図書室を飛び出しちゃって」
「いいよ別に、それとこっちもごめんな」
「ううん、拓人が支えてくれなかったら私多分転んでたと思う。だからありがとね」
改めて謝罪し、そして笑いあう。良かった……私これからも拓人とこうして話せるんだ。
「こんなん初めてだわ」
「こんなに綺麗に誤解しあうことあるんだね」
「な。それに──」
私と拓人は今まで話せなかった分を取り戻すかのように、別れの時まで止まることなく話し続ける。私の足取りは今までの帰り道の中で1番だと言えるほどに軽いものだった。
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