第32話 白雪姫は夢を見る 7
「ん……」
どこから聞こえた呼び声に私は重い瞼を開ける。
「あ、起きた。おはよ凛花、もう帰る時間だぞ」
「んー……拓人?拓人がなんでここにいるの?」
眠い目を擦るも、未だぼんやりとした視界に映った拓人に私は疑問を抱く。
「図書委員会だからですね、はい」
徐々に意識が研ぎ澄まされていく。
そうだ、私はいつの間にか寝ちゃってたんだ。昔のことを夢に見ていたせいで変に頭がこんがらがっちゃったけど、今私は図書室にいるんだった。……あっ!謝んないと!!
「ご、ごめん拓人!私寝ぼけちゃってたみたいで!」
「いいよいいよ、気にしないで」
慌てて頭を下げようとする私を拓人は手で止める。起こしてくれたのに、「どうしてここにいるの」発言はさすがに申し訳なく感じたが、寝起きだからしょうがないと私のことを許してくれた。
「ねぇ拓人、今って何時?」
「今ちょうど18時になるくらいかな」
空の色的にそんな気はしていたが、どうやら私は1時間以上眠っていたらしい。
「……ってそろそろ片付けしなきゃ!」
この図書室は18時に閉まる。その前に図書委員は返却BOXに入っている本を元の位置に戻したり、図書室の掃除を軽くしなければいけない。
「ああそれなら──って凛花!」
寝起きで慌てると良いことはない。慌てるとただでさえ注意力が欠けてしまうのに、寝起きで慌てると普段しないようなミスを余裕で犯してしまう。
私は慌てて席を立ち、仕事をしようと足を動かす。しかし、踏み出した足が椅子へと引っ掛かり、転びそうになってしまったのだ。
「っと……あっぶねぇ。」
しかし私の体がどこかへぶつかることはなかった。拓人が私の体を支えてくれたからだ。
「大丈夫?怪我ない?」
「う、うん……」
「そ、ならよかった。後、片付けとかは俺がやっといたから大丈夫だよ」
「あ、ありがと……」
心臓の音がうるさすぎて拓人の話が聞き取りづらい…!
転びそうになったせいか、それとも拓人と急にゼロ距離になったせいか。私の心臓は体内を走り回るのではないかと言うほどに素早いテンポで脈を打っていた。
「ふぅ……びっくりしたわまじで。次からは気をつけなよ」
「ご、ごめん」
あ……離れちゃった。
拓人はすっと私から手を離し、自分の荷物を整理し始める。
拓人って意外と力あるんだなぁ……普段大人しい感じだからあれだけどやっぱり男の子なんだなぁ。
支えられた際、急なことだったから力が入ったのだろう。両腕に残る感触に私はそんな感想を抱く。
別にもうちょっとくらい掴んでても良かったのに……って、私はなんてこと考えてるの!?寝すぎて頭がおかしくなっちゃったのかな!?
拓人の手に少しだけ名残惜しさを感じたことに私は小パニックを起こす。何故そのような感情や欲望が湧いてきたのか、脳がトラブルシューティングを行うも原因を特定することが出来ない。
わ、私……なんで……。
拓人が掴んでいたところに手を当てながら、自分がなぜそう思ってしまったのかを考えながらその場に立ち尽くす。しかし、その答えが見つからない。それどころか自分が望んでいるものとは別の、羞恥心というものが私の脳を支配していった。
「んじゃ、そろそろ行くか」
「ご、ごめん拓人!私今日用事があるから先に帰る!またね!」
「え?あ、おう……気を付けて」
私は置いていたカバンを奪うようにして取り、急いで図書室を後にする。
や……やってしまった……。
校舎を出て、帰り道を歩きながら私は自己嫌悪に陥る。この後は図書室を施錠して、鍵を返しに行かなければいけないのに私は羞恥心に耐え切れず、その仕事を放り出してしまった。
「急に逃げるように出ていったから拓人も驚いてるだろうなぁきっと……次会ったらちゃんと謝らなきゃ。」
おそらく困惑しているだろう拓人の顔を思い浮かべながら私はため息を吐く。
「それにしても私……あの時なんであんな風に思っちゃったんだろ」
先ほど起こった一連の流れを思い出しながら、ぽつりと呟く。普通なら助けてくれてありがとうで終わりのはずなのに、どうして離さないでほしいと思ってしまったのだろう。どうして名残惜しいと感じてしまったのだろう。私の頭はそのことで一杯だった。
それに今思えば体を支えてくれた瞬間も私の心臓は異常なほど早鐘を打っていた。確かに転びそうになったらドキドキするけどあんなにうるさくなるだろうか?……寝起きだったから……かな。
こ、こっちはまぁ良いとして問題は別の方!なんで私がもう少し離さないでほしいって思ったかだよ!!
最初の方に感じた動悸に関してはまだ納得できる答えが出た。問題はもう一つの方、先ほどから悩んでも答えが見つかる気配が全くない拓人の手に名残惜しさを感じてしまった問題。
なんで私はあんな風に思っちゃったんだろ……なんで拓人が離れた時に少し寂しさを感じてしまったのだろう。どうして私は──
「うぅ……ああもう!わかんないよ!!」
いくら考えても答えが見つからず、私は脳の一時停止ボタンを叩くようにして押した。
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