第27話 白雪姫は夢を見る 2


 10才の時、私は姉になった。私には妹が出来たのだ。


「ほら梨乃りの?凛花お姉ちゃんだよぉ?」


「梨乃!凛花お姉ちゃんだよ!」


 母の腕の中でこちらを不思議そうに見つめる小さな命。私は出来るだけ怖がらせないように慎重に、そして最大限に気を遣って梨乃へと近づく。


「あ!あ!」


 梨乃は小さな手で私の人差し指を握る。私が姉だということは分からないはずなのに、怖がるどころか笑顔を浮かべて楽しそうにする梨乃。そんな彼女を見て、私は自然と笑顔になる。


「ふふ、凛花がお姉ちゃんだって分かってるみたいね」


「そう……なのかな?」


「そうよ。ねぇ?梨乃」


「あ…だぁ!」


「ほらね?」


 まるで言葉が分かっているかのように声を出す梨乃に、私の笑顔はさらに深くなる。赤ちゃんの時点でこんなに可愛いんだから、大きなったらもっと可愛くなるに違いない!


 まだ生まれたばかりだというのに将来が楽しみで仕方が無くなった。この子は必ず私が守る。


「凛花、これからお姉ちゃんとしてよろしくね?」


「うん!」







 梨乃が憧れるような立派な姉になりたい。そう思った私は全ての分野において努力を惜しまなくなった。勉強では満点を取れるように、運動では一番になれるように私は必死に頑張った。


 私はありがたいことに人よりも才能がある方だったのか、頑張れば頑張るだけどんどん成長していった。テストではいつも満点を取れるようになり、普段の体育の授業では他の子のお手本になり、運動会では1番を取ることができた。


 自分自身が成長していく度に私は自分の思い描く理想の姉へと近づいていると感じた。そのことがとても嬉しかった。これで梨乃が大きくなって頼られたときにしっかりと応えることが出来るから。


 妹に優しい姉でありたいと思った私は人に優しくするようになった。困っている人を積極的に助けたり、授業でペアが中々出来ない子のペアになってあげたり、皆が嫌がるような役割を進んでやったりした。


 すると私はクラスの人気者になった。誰にでも優しく接したおかげで私は皆から好かれていったのだ。私は嬉しかった。妹に優しい理想の姉に近づくことが出来たから。


 おしゃれにも気を遣った。梨乃が大きくなった時に一緒に服を買いに行って、彼女を最高に可愛くしたいと思ったから。今まであまりしていなかった自分磨きに力を入れ、ファッションについても勉強した。


 すると私はクラスの人から可愛いと言われるようになった。元々容姿が優れていたのもある。そしてその宝石をさらに磨いたことにより、私は多くの人から可愛いと言われるようになった。私は嬉しかった。これで梨乃が大きくなった時に色々と教えることで、妹を最高に可愛くすることが出来るから。



 私の日常は大きく変わっていった。今までは少し顔が整っている普通の女の子だったのに、1年後には皆から好かれる人気者になった。


「勉強も運動もできるなんて凛花ちゃんすごい!」


「凛花ちゃん今日もすごく可愛いね!」


 周りの子達が私のことを褒める。頭がいいとか運動が出来るとか可愛いとか。そんな誉め言葉を言われるのが日常になっていく。


「この問題少し難しいんですけど……白雪さんはわかりますか?」


 先生に当てられた私はその場に立ち、答えを言う。


「正解です。白雪さんすごいですね」


 先生からも期待され、その期待に応えて誉め言葉を貰うのが日常になっていく。


「あっ、消しゴム忘れちゃった……」


「はい、これ使って?」


「いいの?ありがとう白雪さん!」


「やっぱり白雪姫優しいね」


「ね~」


 困っている人を助け、感謝の言葉と周囲からの誉め言葉を貰うことが日常になっていく。


 梨乃の憧れるような姉に私はどんどん近づいてく。その事実がとても嬉しく、さらに頑張ろうという気持ちが強くなっていった。


「凛花ちゃんってまるで物語から出てきたたみたいに可愛いしすごいよね!」


「ね!勉強も運動もできるし、すごい可愛いし!」


「わかる!お伽話の白雪姫みたいに綺麗で可愛いよね!」


「苗字も白雪だし、もしかしたら白雪姫の生まれ変わりだったりして!」


 クラスの女の子たちが私のことを白雪姫みたいだと形容したことで、私は多くの人から白雪姫と呼ばれるようになった。そして白雪姫という呼称はあっという間に広まり、学年を跨いで私は──白雪姫は有名になった。


 その頃だろう。私の中に白雪姫としての新たな自分が生まれたのは。白雪姫としての私が白雪凛花を殺し始めたのは。

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