第22話 野生の白雪姫
「この後どうする~?」
正樹への誕生日プレゼントを買い終えた俺と若菜は、これからどうするかの作戦会議をしながらショッピングモール内をゆっくりと歩く。
「んー、俺得に行きたいところないんだよなぁ。若菜はどっか行きたいとこある?」
「そうだなぁ……うーんちょっと服見たいくらいかなー」
「それ以外は?」
「ない!なぜなら今日はプレゼントを買う以外の予定を決めてないから!」
「そんな堂々と言わんでくれ」
なぜか自慢げにノープラン宣言をする若菜にツッコミを入れる。服かぁ……こういうのは正樹の役目だからあんまり気乗りしないんだよなぁ……。かと言って解散するには早すぎる時間帯だしどうしたもんかねぇ。
「あ、それならゲーセンとかどう?」
「おー、いいんじゃね?……うん、ゲーセン行くか」
若菜の提案に頷く。このショッピングモールにはゲームセンターがある。しかもかなりゲームの種類も豊富なため、かなり時間を潰せるだろう。
「拓人負けても文句言わないでね~?」
「はっ、その言葉そっくりそのままお返しするよ」
互いに挑発的な笑みを浮かべ、ゲーム前の口上戦を始める。なめるなよ若菜。こちとら毎日ゲームしてる帰宅部だぜ?お前みたいな彼氏とイチャイチャしたり部活したり友達と遊んだりしてる奴に負けるかよ……あれ?なんか目から汗が。
口上戦は俺の自爆により、若菜の勝利。だがゲームでは勝たせてもらおう。こちらにはゲーマーの意地というものがあるのだ。
「あれ?……嶋村さんとた……佐藤君?」
……ん?あっれぇ?この声どっかで聞いたことあるなぁ……。
後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてくる。ただその声は俺のよく耳にする声よりもワントーン高いため、もしかしたら俺の頭の中に思い描いている人とは別人の可能性が3%くらいある。その僅かな可能性に望みをかけながら声のする方へと顔を向ける。
「白雪さんだぁ!こんなところで会うなんて奇遇だね!」
「そうですね嶋村さん」
驚きの声を上げて、近づいてきた若菜に穏やかな笑みを浮かべる野生の白雪姫こと白雪凛花さん。あぁやっぱり凛花だったかぁ……。
ちらり……いやぎろりと彼女の鮮やかな朱色の瞳がこちらを捉える。その表情は疑問半分不満半分といったところだろうか?若菜用の微笑みが貼り付けられているため確証は得られないが、まぁ十ご機嫌の矢印は下方向へと向いているのは間違いない。
「どうも、白雪さん」
「こんにちは佐藤君。図書室以外で会うなんて珍しいですね」
「…そうだね」
この前図書室以外で堂々と話したけどね。凛花の話に俺は相槌を打ちながら体育祭の時のことを思い出す。
「ちなみになんですけどお二人はどういう関係なんですか?」
「私たち幼馴染なの。それで今日は私の彼氏の誕生日プレゼントを買うのに付き合ってもらってるって感じ」
「で、その彼氏は俺の親友な」
「あ、そうだったんですね。すごく仲良さそうに話してたのでてっきり付き合ってるのかと」
まぁ凛花は既に俺と若菜が幼馴染なの知ってるんですけどね。
「小学校からの幼馴染だから仲良く見えちゃうのもしょうがないかも。ね、拓人?」
まるで初めて知ったかのような演技をする凛花のことを若菜は演技だと見抜けていないらしい。凛花……恐ろしい子。
「そうだな。小学校の頃から若菜には振り回されてばっかだからなぁ。今日はそんな若菜の飼い主に感謝とお祝いの念を込めてプレゼントを買いに来てるんだよ」
「だから私犬じゃないんですけど~」
「そういう白雪さんは買い物?」
こちらを不服そうな顔で睨みつける若菜を無視して凛花へとボールをパスする。
「はい、今日はお洋服を買いに来たんです」
「へぇ~そうなんだ。誰かと一緒に来てるの?」
「いえ、今日は一人です」
今日「は」ではなくて今日「も」の間違いではないだろうか。凛花は人と深い関係になろうとしない。白雪姫として面倒なことが起こる可能性があるからだ。そのためこういう買い物は基本的に一人で行っているのではないだろうか。それにシンプルに白雪姫モードがめんどくさいからという理由もあるかもしれない。
ふっふっふっ、若菜のことは騙せても俺はそう簡単には騙されないぞ白雪姫さんよぉ!……あ、いやでも友達付き合いで誰かと一緒に買い物くらいはするか……。じゃあ今日「は」で正しいのか。すみませんでした、友達の少ない陰キャが変に粋がっちゃいました。
「そうなんだ……ねぇ白雪さん!」
「な、なんでしょう?」
若菜が何か思いついた表情を浮かべたかと思えば次の瞬間には凛花へ顔をずいーっと近づける。凛花は急に顔を近づけられたことで困惑を隠しきれていない。それでもなお笑みを浮かべたままなのはすごいところだ。俺なら押しのけてるぞ。
「今暇だったりしない?ねぇねぇ、今から私と一緒にお茶しない??」
なにかと思えば急にナンパし始めたよこの人。しかも少しきもくなるのやめて?
「え……と……その、私で良ければ」
「ほんと!?やったー!」
困惑しながらも、若菜のお誘いにOKサインを出す凛花に、若菜は非常に嬉しそうな声を上げながらその場で軽く飛び跳ね始める。元気だなぁ(小並感)。
ただまぁ仲良いのは大変よきこと。そしてネットの海を犬かきしている俺ならわかる。今の俺は百合に挟まる男状態……ならばすることは一つだろう!脱出ボタンぽち!
「あ、俺ちょっと用事思い出したからあとは二人で──」
「何言っての?拓人も一緒に来るんだよ?」
「いや、別に俺は──」
「私がお邪魔する形ですので、変に気を遣わなくても大丈夫ですよ佐藤君」
「……はい、お供させていただきます」
脱出ボタン故障してたみたいです。
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