第21話 幼馴染と買い物

 太陽がギラギラと嬉しそうに地球を照らす。直視することはできないがおそらく今太陽君はニコニコの笑顔で、熱と光を放っているのだろう。そんないつも照り輝いている太陽君、君に言いたいことがあるんだ。


 暑いわ。ちょっと雲の中に引きこもっててくれ。


 体育祭を終えて、7月に入る。時々風が吹いてくるため、どうしようもない地獄というわけではないが、真夏日がデフォルトになってきた今日この頃。私は今太陽の下、とある人を待っています。暑くて死にそうです。これ以上暑くなる日がもうすぐ来るってまじ?普通に死んじゃうんですけど。


「あぢぃ~」


 険しい表情を浮かべながら情けない声を漏らす。インドア派の俺は暑さに対してめっぽう弱い。できれば今すぐ冷房の効いた部屋でゴロゴロしたいところだ。


「ごめん拓人ー!お待たせー!」


 手を振りながら小走りでこちらに近づく少女の姿があった。こんな暑いのによく元気でいられるなぁ。


「うっす若菜、めっちゃ待ったわ」


 そう俺が待っていた人は冬より夏の方が好き勢の嶋村若菜さんである。


「そこは「大丈夫、今来たとこだから」って言うべきでしょ」


「そういうのは正樹とやってくれ」


 声のトーンを低くし、男の真似をする若菜にしっしっと手を払う。地味にイケボなのやめてくんない?


「じゃあいこっか。早く涼しいところ行きたいし」


「分かる。早く冷房ガンガン効いてるとこ行きたい」


 俺と若菜は雑談しながらショッピングモールへと向かう。何故こうして暑い中若菜と二人で買い物に来ているのかというと、俺の親友そして若菜の彼女である来週誕生日を迎える正樹に、プレゼントを買おうということになったからである。


 数日前部屋でのんびりとしていた時に、


『拓人今週末暇でしょ?まーくんの誕プレ買いに行くよ!』


 という若菜からのメッセージが届いた。俺が週末特に予定がない人みたいに思われていて少し癪でした。まぁ暇なんだけどね。どうせ怠惰な一日を過ごして終わりだろうからいいんだけどね。


 と、いう事で近くにある大型ショッピングモールへポニテ元気っ子と訪れているわけです。


「はぁ~涼しい~」


「あぁ……天国はここにあったのか……。」


「わかる~」


「もう今日はあそこの椅子に座ってるだけでいいや」


「だめだよ。ちゃんとプレゼント選ぼうね拓人おじいちゃん」


 ショッピングモールに入った途端世界が変わったような錯覚を覚える。暑さのせいで重く感じられた空気と体が一気に軽くなる。もうおじいちゃん一生ここで座ってたいのぉ。というか飯はまだかえ?


 この涼しい空間でのんびりとしたい気持ちを何とか抑えて俺は正樹へのプレゼントを探し求める。


 いやぁ…誕生日プレゼントを選ぶのって難しいよね。その人の、その時好きなものを贈ることが出来ればいいけど、唐突に「ねぇ今欲しいものって何?」と聞くことはかなり難しいし、それに何か違う気がする。かと言って自分のセンスで選んだものに微妙な反応をされるのはとても申し訳なく感じるし、自分のセンスがないことに気づかされ悲しいものになるし……。


 それに消えものを買うか、形として残るものを渡すかどうかも悩みどころである。消えものだとちょっと良くないか?とかこれ渡したら邪魔になっちゃうかなとか色々と考えなければならない。もういっそのことお金あげた方が良いのでは?いやさすがにそれは良くないか。


 ショッピングモールの中を転々としながら、正樹に何を買おうか四苦八苦する。正樹なら何を買っても喜んでくれるとは思うが、出来れば本当に嬉しいと思ってくれるものを買いたい。うーん、どうすっかなあ……。


「拓人ー、決まったー?」


「まだ悩み中。若菜はもう決まった感じ?」


 雑貨屋でよくあるものから、普段目にしないものまで様々な物を眺めながら頭を悩ませていると、後ろから声がかかる。


「うん、決まったよー」


「ちなみに何買った?」


「ブレスレット。まーくんに合いそうな感じのがあったからそれ買っちゃった」


 ほくほく顔の若菜。ブレスレットなら邪魔にならないし、形として残るしでかなり良い選択なのではないだろうか。お願いだからそのセンスを少し分けてほしい。


「そんな考えすぎなくても大丈夫だよ、拓人のプレゼントならまーくんは何でも喜んでくれるって」


「そうだけどさぁ……ちゃんと喜んでくれるものをあげたいじゃん?」


 さてどうしたもんかなぁ……ん?お、これとかなんかおしゃれな感じがする。


 見つけたのはレトロな雰囲気を醸し出しているドリップコーヒー。やや値段は張るが、正樹はコーヒーが好きなのでこれは良いかもしれない。


「お、それいいじゃん!まーくん絶対喜ぶよ!」


「あいつコーヒー好きだしな。よし、これにしよ」


 喜んでくれそうかつ、おしゃれなやつを見つけることができて良かった。後は何かコーヒーに合いそうなお菓子を買ってそれをプレゼントしよう。消えものだけど、若菜がブレスレットを上げるらしいし、それでバランスが取れる。おや?我ながら完璧なプレゼントなのでは?

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