第23話 白雪姫とのお茶会

「ねね!白雪さん!クラスのグループチャットから友達追加してもいい?」


「いいですよ」


「ありがとー!後さ後さイラスタはやってる?そっちも友達にならない?」


「あ、私イラスタはやってないんですよ。ごめんなさい」


「全然全然!謝る必要ないって。じゃあさ、凛花ちゃんって呼んでもいい!?」


「も、もちろんです」


「やったぁ!私のことは若菜って呼んでね凛花ちゃん!」


「わ、わかりました若菜さん」


「さんつけなくてもいいからね!」


 場所は変わってショッピングモール内の喫茶店、目の前では美少女同士の仲睦まじい(?)やり取りが繰り広げられていた。


 人間というのは小さな要求を受け入れると、その次のちょっと大きな要求でも受け入れてしまうらしい。若菜は全く意識していないだろうが、どんどんどんどん凛花へとお願いごとを重ねていき、名前呼びという陰キャにとっては高すぎる壁をすんなりと突破していった。若菜……恐ろしい子…!


 凛花もここまでぐいぐい来られるとは思っていなかったのか、若干顔が引きつっている。うちの幼馴染がすみません。でも僕にはどうすることもできないんで、大人しく犠牲になってください。


「お二人さん、イチャイチャするのはいいけどそろそろ注文をした方が良いと思うんですよ」


 実はまだ喫茶店についてから注文をしていないのである。お店側からすれば「あそこのテーブル頼むの遅すぎない?迷惑なんですけど?」と思われてもおかしくない。


「そういえばそうだね。つい凛花ちゃんに夢中になっちゃった。あ、すみませーん!」


 ほんのりと気持ち悪さを感じさせる発言をした若菜が近くを通りかかった店員さんに声をかける。


「ご注文はいかがなさいますか?」


「私はあんみつと紅茶のセットで!凛花ちゃんは?」


「私はソフトクリームと珈琲でお願いします」


「それで拓人は?」


「俺はチョコレートパフェとカフェオレで」


「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


「はい大丈夫です」


「かしこまりました。少々お待ちください」 


 注文を取った店員さんはそのままスタスタと厨房の方へと入っていく。


「ホント拓人って甘いもの好きだよねぇ」


「別にこのくらい普通だろ」


「拓人が普通なわけないでしょ。去年のバレンタインの時のこと忘れたわけ?」


 去年のバレンタイン、若菜から生クリーム、チョコ、キャラメルや、はちみつなどの甘いものをぎゅっと挟み込んだサンドイッチを貰ったのだ。「甘すぎだろふざけてんのか!」と言われるのを若菜は予想していたのだろうが、俺はパクパクと食べ進め見事に完食。あの時の若菜の戦慄した表情は鮮明に覚えている。


「ああ、あれな。めちゃ上手かったわ」


「拓人……今はいいけど将来は甘いもの控えた方が良いよ?太るよ?」


「今太ってないから大丈夫だな。それにほら甘いものは健康にいいって言うじゃん?」


「言わないよ。むしろ逆だよ」

 

 好きなものはカロリーがゼロになったりならなかったりするらしいし問題はないと思います。砂糖なんていくらあっても美味しいですからね。


 呆れた顔をしている若菜。その隣に座っている凛花の方へふと視線を向けると、どこかしゅんとした表情を浮かべていた。

 

 あっ……やっべ。ついうっかりしてたけど凛花この話についてけないじゃん。


 若菜と話していてつい忘れていた。俺と若菜の間で始まった中学の頃の話、白雪姫モードの凛花が変に首を突っ込めるはずもない。


 ご、ごめんて。でもそんな表情しなくても良くない!?そこまでしなくてもいいと思うんだけど!?


 少しだけ俯き、暗い表情を見せる凛花に俺は放置してしまった罪悪感に襲われる。は、早く別の話題を振らなければ…


「そ、そういえばだけど若菜。この前の体育祭のあれ何よ」

 

「ん?ああ障害物競争のこと?」


「そう。何あれ」

 

「ほら私茶道部に所属してるじゃん?和服で全力疾走するのも面白いかなとは思ったんだけど、どうせだったらお茶立てた方が茶道部だってわかりやすいし面白いかなって」


「だからってスタートラインでお茶立てるとか頭おかしいだろ。ほら、白雪さんもなんか言ってあげてよ」


「えっ、あ、そうですね……確かに面白かったですけどまさか障害物が撤去されるとは思ってなかったですね……」


 急に話題を振られたせいか凛花は小さく肩を揺らす。うん、急にパスしてごめんね?


「だよねー、私もまさか障害物無くなると思ってなかったもん」


「障害物無くなってもせめて走れよ。種目名をちゃんと読め」


「いやさぁ、あそこまで行ったらもう歩いた方が良いかなって」


「そのおかげで皆さん盛り上がってましたからね」


「まぁそうだけどね?」


 そこから体育祭についてあれこれ話していると注文したものがテーブルへと運ばれてくる。


「……結構でかいですね、そのパフェ」


 運ばれてきたチョコレートパフェを見て凛花が驚きの声を上げる。確かに写真で見た時よりもほんの少し大きく感じる。これが逆見本詐欺というやつか。


「まぁ拓人なら余裕でしょ。じゃ食べよっか。あっ、凛花ちゃんの一口貰ってもいい?私のもあげるからさ!」


「いいですよ」


 目の前で繰り広げられる仲睦まじいやり取り(2回目)。このまま空気に同化して眺めてたい光景ですこと。なんなら壁でもよろしくてよ?


 雑談を交えながら、それぞれスイーツを口へと運んでいく。こうして見てると若菜のコミュ力の高さが異常だと改めて感じる。君たちクラスだとあんまり話してないんだよね?今日だけでそんな距離が近くなることある?え、にわかには信じがたいんですけど……。


 社交性レベルの格差を見せつけられ、軽くショックを受ける。若菜は若菜ですごいけど凛花もよく、そのテンションについていけるね。え、コミュ強怖…


 二人のコミュニケーション能力の高さに感心()しながらパフェを黙々と食べ進める。うん、やっぱ甘いものって美味いわ。甘いものを食べているときが一番幸せ感じる。脳みそが喜んでるのが伝わってくるもん。


「ふぅ……ごちそうさまでした」


 俺は手に持っていたスプーンをグラスの底へとゴールさせる。うむ、中々に美味しかった。余は満足じゃ。


「えっ……」

 

「ほら拓人、あんまり凛花ちゃん怖がらせないでよー」

 

 特に喋ることもなくパフェに集中していたせいか、二人よりも早く食べ終わってしまう。そのことに驚きを隠せなかったのか、凛花はこちらをものすごい表情で見つめていた。

 

「ほら、俺喋らないで食べてたじゃん?だからだよ」


「だってよ凛花ちゃん。どう思う?」


 信じられないと言った表情で空になったパフェの器と俺の顔を交互に見る凛花。数回その動作を繰り返した後、こちらの目を見て口を開く。 


「……おかしいと思います」


 あの凛花さん?白雪姫の仮面ちょっとずれてますよ?

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