第19話 白雪姫は破壊力抜群

「拓人ー、飲み物買ってきてくんね?さっき飲み切っちゃってさ」


「え、やだ。自分で行けよ」


 涼太からのお願いを2つ返事で断る。俺はお前のパシリではないのだ。


「さっきのリレーでもう全部の力使い果たしてしばらく動けないんだわ。それにほら、拓人今日玉入れしかしてないし元気有り余ってるだろ?」


「それを言われるとすごく困る」


 カウンターできないほど強い手札を切られてしまい何も言えなくなってしまう。くそっ、俺は涼太のパシリになるしかないのか……。


「僕が行こうか?言うて僕も100mしか走ってないし」


「いやいや俺が行ってくるから。陽に行かせるのはさすがに申し訳ない」


「そうだぞ陽。お前はちゃんと走ったからいいんだよ。体育祭なのに運動してない拓人に行かせようぜ」


「まぁ確かに運動という運動はしていないけど」


 でも一応肩は使ったよ?籠の位置結構高いんだからな?


「な?丁度いいだろ。あ、スポドリな?変に甘いもん買ってくんなよ?」


「あいあい」


「ごめんね拓人?」


「陽が謝る必要ないだろ……。じゃあ行ってくるわ」


 上級生の女子リレーが白熱している中、俺は群衆から抜け出し自動販売機へと向かう。まったく友人使いが荒いこって。ちなみに一個前のリレー、凛花のチームが1位を獲りました。すごかったです(小並感)。


 バトンを受け取ってから次の走者へ渡すまでの間、凛花は他の追随を許さない速度でグラウンドを駆けた。正直今から陸上競技部に入っても戦力になれるのではないかと思うほどに圧倒的な走り。本当に帰宅部なのか疑うレベルである。


 白雪姫の人気は元々高かったが先ほどのリレーで人気が爆発することは間違いないだろう。実際白雪姫への声援の量は他の生徒に比べて段違いだった。学年を超えた知名度により凛花本当のお姫様へとなるのです。本人はすごく嫌な顔しそうだけど。




「げっ、ほぼ売り切れてんじゃん」


 凛花の走りを振り返っていると、一番近くにあった自販機へとたどり着く。しかし、自動販売機に陳列されている飲み物のほとんどに売切れという赤いランプが灯されていた。スポーツドリンクはもちろんのこと、お茶や水などの飲み物が軒並み無く、残っているのは缶のジュースや甘い系の飲み物という状態。


 普段の俺ならばここで甘い系の飲み物を買って戻るのだが、リレーを頑張った涼太にさすがの俺も手が止まる。俺もそこまで鬼畜ではない。それにスポーツドリンクでとお願いされたからには注文通りのもの、最低でも水などの無難なものを届けなければ今後の関係にひびが入るかもしれない。ジュース一本で友人が一人いなくなるのは避けたいところだ。


「めんどいけど、校舎の方行くかぁ」


 少し距離はあるが、校内の自販機ならばまだ残っている可能性がある。今日だけだぞ?俺がここまで従順なパシリになるのは。


「どれどれ……お、残ってる残ってる」


 校内の自販機は有名な企業のものこそ売り切れていたが、あまりお目にかかることのないマイナーなスポーツドリンクが残っていた。ここまで足を運んで良かった、これで友達を失わずに済みそうだ。


 がこんという音ともに落ちてきた赤色のスポーツドリンクを手に取り、踵を返す。


「そろそろ借り物競争始まってっかなぁ……。普通に見てみたいんだよなぁ、あれ」


 総合順位に関わる競技ではあるが、ネタにも力が注がれているらしい今日の体育祭を締めくくる最後のお祭り種目。是非とも告白して爆散する姿をこの目で見たいものだ。


「あっ、拓人」


「え?凛花?」


 来た道を少し早歩きで戻っていると、現在話題沸騰中のあの人、白雪凛花さんと鉢合わせた。


「あ、人いないしいつもみたいに話していいからね?」


「了解。というか凛花なんでここいるの?」


「飲み物を買おうと思ってたんだけど、外の自販機ほぼ売り切れてたからこっちに来たの。拓人も?」


「そう、友達のパシリ」


「そうなんだ」


 どうやら凛花も目的は同じだったらしい。涼太、白雪姫はリレーを頑張った後でも自分で飲み物を買いに行ってるぞ。少しは見習ったらどうだ?

 

 おでこに赤いハチマキを締め、半袖短パン姿の凛花。恰好的にリレーが終わってすぐこっちに来たんだろうなと予想がつく。涼太、そういうところだぞ。


「そういえばリレーお疲れ。すごかったよマジで」


「ありがと拓人。ちゃんと見てた?」


「見てた見てた。ぶっちぎりだったな」


「でしょー?私すごい頑張ったんだからね?」


「うん、すごいすごい」


 胸を張り自慢げに語る凛花を手放しで称賛する。さすが白雪姫、略してさす白。


「拓人も応援してくれてありがとね」


「……気づいてた?」


「うん。ありがとってちゃんと返したでしょ?」


 どうやらあれは勘違いではなかったらしい。目が合っていたのは気のせいじゃなかったし、俺の応援もしっかりと伝わっていたようだ。


「そっか、伝わっててよかったわ」


「うん、伝わってたよ!こんなに頑張れたのも拓人の応援のおかげ!ありがとね!」


 屈託のない、本当に俺の応援のおかげだと思っているかのような凛花の笑顔に俺は目を見開く。この世界の住人とは思えないほどに可憐で、愛らしいその表情は見るもの全員を虜にしてしまうほど魅力的な、一度見入ってしまうともう目を離すことは不可能だと言ってもおかしくはないほどの魔性の笑顔。


 あぁ……これはまずい。自分の脳が警鐘を鳴らす。


「……白雪姫の手助けができて何よりだよ」


「そう呼ばないでって言ってるでしょ」


「ごめんごめん」


 白雪姫と呼ばれたことで少し怒ったような表情を浮かべる凛花に、俺は心の中で安堵の声を漏らす。


 危なかった……。凛花のあの笑顔は危険すぎる。


 あの笑顔を見た男は99%凛花に恋をしていただろう。そのくらい凛花の笑顔は可愛く、綺麗だった。だが、俺は耐え切った。残りの1%になったのだ。


 若菜と話したときに気を引き締めておいてよかったぁ。そうじゃなかったらもう、後日反省会と自分への悪口大会が始まるところだったよ。ナイス俺、よくあそこで口を動かした。


「てかいいのか?」


「何が?」


「借り物競争。もう始まってると思うけど」


 あの笑顔を耐えしのいだ自分だが、まだ危険が危ない状態。そんな中俺は気を紛らわせるべく、凛花に借り物競争の話題を振る。


「あぁ……。まぁ確かに見たいなって気持ちはあるんだけど、疲れてるのに連れ出されるのはめんどくさいでしょ?だからまぁいいかなって」


 若干の申し訳なさをにじませながらそう答える凛花。確かにあんなに走った後に告白されるのは確かにだるそう。俺なら断るのに加えてちょっと暴言が出ちゃいそうだもん。


「白雪姫は大変だねぇ」


「だからやめてってば」


 2度目の白雪姫呼びに凛花は頬を膨らませる。さすがに言い過ぎてしまったかと少し反省する。


「悪い、ついな。よしじゃあ自販機行くか」


「え?なんで?拓人はもう買ったんじゃないの?」


 俺の自販機へ行こうという呼びかけに小首をかしげる凛花。やめて!そういういちいち可愛い動作をしないで!こっちはさっきの笑顔でもう限界迎えてるの!


「……ほら、この前運動部の人に勝ったら飲み物奢るって言ったじゃん?それで凛花運動部の人達なぎ倒したじゃん?そういうことよ」


「なぎ倒すって……でもそうね。ならご褒美として奢ってもらおうかな」


「あいよ」 


 嬉しそうに俺の提案を承諾する凛花。本人的にも今日の走りは100点だったのだろう。


「あ、なんなら借り物競争が終わるまで話そうよ。どうせ人も来ないだろうし」


「えぇ、俺ちょっと見たかったんだけど……」


「いいじゃん!別に来年見ればいいんだから!」 


「……はぁ、わかったよ」


 借り物競争が終わるまで俺と凛花は誰もいない校舎の中で今日の体育祭について振り返った。爆散するところ見たかったなぁ。







おまけ


涼太「陽がいなかったら俺干からびて死んでたんだけど?」


拓人「まじでごめん」

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