第18話 友人の晴れ舞台と小さな応援
「っし、じゃあ行ってくるわ!」
「おう、頑張れ涼太。応援してる」
「涼太ならできるよ、頑張って!」
緊張する友人を見送り、俺と陽は出来るだけ最前列に近い場所へと移動する。残す競技はあとリレーと借り物競争。借り物競争に関して言えばパーティー要素が強いため、このリレーが最後の真剣勝負になる。
それにしても涼太があんなに緊張してるとこ初めて見たなぁ……。
普段は彼女が欲しいだの、急に下ネタを言ってきたりだのかなりあれな部分が目立つ涼太だが、こういう時には人よりも真剣に取り組むし、緊張する。その証拠に先ほどの障害物競争の時からほとんど喋っていない。
リレーとは連携力が一番大事な競技である。どれだけ個の力が強くてもバトンを受け渡す時に手間取ってしまえば勝利は信じられないくらいに遠のいてしまう。逆に個の力がそこまでなくても、チームの連携が優れていれば、他のチームが手間取っている隙に数十歩先を行くことが出来る。
だからこそ涼太が非常に緊張しているのも分かる。一人のミスが、どれだけ小さくてもそのミスが命取りとなるからだ。彼がこのリレーに出た理由はひどく不純なものだが、友人の一人として是非とも1位を獲ってきてほしい。
「位置について、よーいドン!」
今日何度目か分からないピストルの音で、戦いの火蓋が切って落とされる。このリレーは各軍2つのチーム、合計6チームで順位を争う。順位により得点が軍に加算されるため、例えば紅軍が1位と6位で、青軍が2位と3位だった場合総合的な点数は負けてしまう。1位を獲れればベストだが、もし仮に1位を獲れなかったとしても最低でも4位以内には入りたい。
「紅軍は今3位と5位か」
第一走者がコーナーを回っている段階で今の順位は上から青、黄、赤、黄、赤、青の順番。ちなみに涼太は三番手で現在5位の方のチームである。涼太が出番の時にどうしようもないほど差がついていなければいいのだが……。
「次涼太来るよ!順位は……3位だ!」
涼太のチームは現在3位。もう片方の紅軍と順位が逆転した形になる。上位の人との差はそこまでない。だが下位とも差がないため、油断できない状況でバトンが渡りそうだ。
「涼太ー!頑張れー!」
「涼太いけるぞー!」
とうとう涼太にバトンが渡る。俺は陽に続いて涼太へと声援を送る。バトンの授受で目立ったミスはない。2位の人との距離も短い。全然追い越せる距離感だ。だが、その僅かな差が中々埋まらない。
「抜かせるぞ石崎ー!!」
「涼太負けんなー!」
涼太と同じテニス部の人だろうか、熱のこもった声で涼太にエールを届ける。
「あとちょっと……いける!……抜いた!!」
声援のおかげか涼太は自分の前にいた人との距離をみるみるうちに縮めていき、アンカーの人の少し前でようやく抜かすことに成功、周囲の熱量がさらに上昇する。ヒートアップしたグラウンドの中、リレーは最終局面へと移行する。涼太からバトンを受け取った生徒はその意思を受け継いだかのように、2位を死守してゴールした。
「頑張れ」、「負けるな」の声援で自分の力を120%発揮してみせた涼太。そのおかげもあって涼太のチームは2位でゴール。もう一つの紅軍のチームは4位と総合的に見てまずまずの点数を取ることが出来た。
「涼太すごかったねー!あそこで追い抜くの熱すぎでしょ!」
「だな、涼太マジですごかったわ」
普段の涼太からは想像もできないほどの気迫の表情。やるときにやる男はモテると巷ではよく聞く。良かったな涼太。ワンチャンモテ期が来るかもよ?
「疲れたー!!いやまじでこんな疲れたの久々だわ」
「涼太お疲れ。すごかったよ!」
「お疲れ。よくあれ抜いたな、本当にすごいわ」
達成感に満ちた顔でこちらに戻ってきた涼太を俺と陽は拍手で迎える。
「ありがとありがと。いやでもめっちゃ緊張したぁ。バトンもらうとき落とさないか超ドキドキしてたわ」
爽やかな笑みを浮かべながら先ほどの心境を語る涼太。すごい。普段は全くなのにリレーのおかげで涼太が少しかっこよく見える。え、ほんとに彼女出来そう。これが体育祭マジックってやつですか。よし、今日から君も魔法使いだ!
ひとしきり涼太を讃えたあとは上級生の男子リレーを観戦する。3年生のリレーはもうすごかった。この試合世界大会なんですか?と言わんばかりの声量と熱量だった。声で地面が揺れているのではと思えるほどの迫力だった。
「次は女子リレーか」
男子リレーが終わり、興奮が冷め止まない中女子リレーに参加する生徒たちが準備を始める。
女子リレー……凛花のとこだけはしっかり見よ。あとで感想聞かれそうだし、それに心の中で応援しとくわって言ったからなぁ。
「白雪さん頑張ってー!!」
そんなことを考えているタイミングで、凛花のクラスメートの女子が手を振り、声援を届ける。その声に気が付いた凛花は白雪姫モードのおしとやかな笑みを浮かべて女子生徒たちへと手を振り返す。さっすが白雪姫、超人気者じゃないっすか。黄色い声援が響く中、凛花のことを見つめる。
凛花がパチリと大きな瞬きをする。
彼女と目が合った……気がする。おそらくは勘違いだろう。凛花はクラスの人たちの方を向いているに違いない。……でもまぁ声に出さなければばれないか。
「が ん ば れ」
伝わるかどうか、そもそも俺のことを見ているかも分からないが俺は口パクで凛花へと声援を送る。これなら周囲の人にもばれないし、伝わっていなくても元々心の中で応援すると言っていたから問題はない。
「……っ」
凛花の笑顔が少しだけ変わったように見えた。貼り付けたような穏やかな笑みではなく、普段見せるあどけない笑顔。白雪姫モードの彼女から一瞬だけ顔を見せた普段の凛花の笑顔に思わず息を吞んでしまう。
「あ り が と」
レースがそろそろ始まるため顔を背けられてしまう。見間違いかもしれないが、顔を背けられる直前、凛花の口がそう動いているように見えた。
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