第17話 和服美少女は型破り
「陽お疲れー、惜しかったな」
「ありがと拓人。いやぁ疲れたぁ」
俺は100m走から帰ってきた陽を迎え入れる。結果は惜しくも2位。1位の人が運動部だったので仕方がないと言えば仕方がないが、かなり僅差での2位だったので、本人としてもかなり悔しいだろう。
「陽お疲れ。とりま2位おめでとう」
「うん、ありがと涼太。ってそろそろ正樹の番来るんじゃない?」
「あ、そうだわ。どれどれ適当に応援すっかぁ」
数個後のレースは正樹が出走する。今日は正樹と朝に少し話しただけで、それ以降は全く顔を合わせていない。理由は正樹が生徒会だから。生徒会の人ってすごいよね、運営しながら競技にも出てるんだもん。他の人よりも体力の消費が激しいだろうなきっと。
「まっさん頑張れー!1位取れよー!」
「正樹ー!頑張ってー!」
涼太と陽の応援に気が付いたのか正樹はこちらに向かって手を振って答える。
「ほら拓人も。正樹応援欲しがってるよ?」
涼太と陽に対してひとしきり手を振り終わった後、手を耳に当てて俺の応援が聞こえてこないというジェスチャーをする。大声出すの嫌なんだけどなぁ……。
「正樹ー!転ぶなよー!!」
出来るだけ声を張り上げて、正樹へエールを届ける。すると軽く笑った後にこちらを向いてサムズアップ。ぐわぁ!顔面偏差値のカウンターが飛んできた!目がぁ!!
青春オーラ前回の正樹に目が堪えきれなかった。くそっリア充が!どうせお前は1位を取るんだろ!体育祭が終わった後にお疲れ様の意を込めてなんかジュース奢ってやるよくそが!
そうして正樹のレースがピストルの音とともに始まる。走っている側はとても長く感じられるのに、見ているこちらからするととても短い100m走。正樹は順調にスタートを切り、2位の人との激闘を制し、見事1位を獲った。
さすが正樹、顔だけではなくちゃんと1位を獲るところもイケメンだ。これは彼女出来ますわ。あ、もういるのか。
1位となった正樹に労いの言葉をかけて、イケメンいじりをしたいが彼は俺たちのいるところではなく、生徒会の集まるところ、すなわち体育祭運営本部の方へと歩いていく。お、お疲れ様です……。
「さすがまっさんだわ」
「ね、正樹運動得意だよねー」
「なお球技はあまり得意ではない模様。玉入れだったら俺勝てるわ」
「まっさんは玉入れなんかしねぇから拓人の不戦勝だ。よかったな」
「うわぁ全然嬉しくない」
見たいレースがなくなった俺は涼太と陽と雑談をしながら適当に競技を眺める。
「なぁ陽、次の種目何だっけ?」
「次が女子100m走で、その後が部対抗の障害物競争。それでそのあと男子リレー、女子リレー、最後に借り物競争で終わりかな。」
「ありがと。うわぁ……緊張してきたぁ」
「大丈夫だって涼太。最悪その鍛え上げた筋肉で圧かければいいから」
「そんなことするわけないだろ!もしそんなんで勝ってもブーイングの嵐だわ」
緊張を露わにする涼太にアドバイスを送ると、シンプルに怒られてしまった。冗談ですやん。
この緊張している涼太君はなんとリレーに出走します。日頃モテたいモテたいと言っていることで有名な涼太君、日々の言動が功を奏したのかノリで選ばれたのです。
男子で集まって誰がリレーに出るか決めた際に正樹の「涼太出ようぜ。ここで活躍したらモテるぞ?」に対して涼太が「まじ?ちょ、モテたいから出させて」と冗談で言ったら本当に出ることになったのだ。まぁ涼太は平均よりも足が速いから選ばれたというのはあるかもしれないが。
「さぁ次は部対抗障害物競走です!!」
「ほら涼太、これ見て一旦落ち着こうよ。これ先輩曰く結構面白いらしいよ?」
部対抗障害物競走はネタ枠の種目である。それぞれの部活の代表者がユニフォームやら変な着ぐるみを着て、ふざけ倒しながらゴールを目指すという1位を獲ることよりも、どれだけ面白いかを重視している種目だ。実際この競技に関して言えば1位を獲っても各軍の順位争いには関与しないので思う存分はっちゃけることが出来る。
「位置についてよーいドン!」
「「「「ぐわあああ!!!!」」」」
ほら今始まったけどピストルの音と同時に皆スタートラインで倒れてるもん。
「どうしでだよおおおお!!!」
なんか一人莫大な借金背負ってる人いない?君まだ高校生だよね?しかも地味に上手いな。
とまぁこんな感じの種目です。ひたすらにふざけ倒す選手を見てグラウンドが笑い声と同じ部活動の人をいじる声で包まれる。
「ん?あれは……」
「見てみてあの子超かわいい!」
「わぁ和服だ!しかもめっちゃ似合ってる!」
最初のレースが終わり、次のレースを走る人がスタートラインに立つ。今回のレース、もちろん全員がユニフォームを着て、何か小道具を持っているのだが、その中で一人だけ異色を放つ女子生徒の姿がある。周りの人もその少女の姿に目を奪われているようだ。
「え、あれ正樹の彼女だよね?」
「うん、若菜だわあれ。」
茶道部代表、嶋村若菜さん。なんと袴を着てこのレースに出走するみたいです。
いやさすがにその姿で最初地面転がるのはどうかと思うの。さすがに汚しちゃいけない類の服だと思うの。
常人ならば袴を着て撃たれたふりをして地面をのたうち回るなんてことはしないだろう。だが、若菜ならば、あの超元気っ子ならばやりかねない!むしろ喜んでやるかもしれない!
「位置について、よーいドン!」
「「「「ぐわあああ!!!!」」」」
先ほど同様に各部活のユニフォームを着た生徒が地面へと倒れる。若菜もその人たちと同じように倒れるかと思ったが、俺の予想は外れることになる。
「ああっと!なんということでしょう!スタートラインで茶道部がお茶を立て始めましたぁ!!!」
なんとその場に敷物を敷いて、お茶を立て始めたのだった。その姿を見て観客からも驚きの声が上がる。
ええええええ!?何してんの!?いや茶道部だからお茶立てるのは分かるけどそれ今やる?ネタに振り切れてる種目だけどさすがに振り切りすぎじゃない?速度メーターぶっ壊れてない?
「こんなことがあっていいのだろうか!?ゆっくりと歩いてゴールを目指す袴姿の美少女に、生徒会の人たちが障害物を撤去し始めたぞぉ!!」
おい、タイトル詐欺やめろ。障害物撤去すんな。
他の部活動の代表がふざけながら障害物を乗り越える姿を見ながらお茶を楽しみ、そして他の生徒が全員ゴールしてから、ゆっくりとゴールへと歩き始めたのだ。しかも観客へと控えめに手を振るというファンサ付きで。
そんな彼女のことを気遣ってか、本来ならばレース毎に障害物を手直しするためにいる生徒会の人が、障害物を脇へと寄せて、通れるようにしたのだ。
「キャー!!!!」
袴姿の美少女が微笑みながら観客へと手を振ると、女の子からの熱い声援が返ってくる。うん、楽しそうで何よりなんだけど、障害物もなければ、走らない。この種目の全てのルールをぶち壊すっていうとんでもないことしてるんだよねこの人。
最後まで笑みを絶やさず歩いてゴールした若菜。このレースで女の子のファンを多数獲得することに成功。いやせめて走ろうよ!これじゃあ競争じゃなくてただのお散歩だよ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます