第7話 親友の彼女兼幼馴染
長かった授業という名の拘束時間から解放され、ようやく俺たちは自由の身となる。今日は図書委員会の仕事もないためこのまま早く帰ることが出来るため非常に気分がいい。
「正樹ー、一緒に帰ろうぜ」
「おっけー。……ああでもちょっとだけ生徒会関係で用事あるんだよな」
「了解、ここで待ってるわ」
「ありがと。あ、てか数学の課題プリント今日までらしいから出してきた方がいいよ」
「まじ?初耳なんだけど」
重大な情報を残して正樹は教室を後にする。今週中までとは言われてたけど今日回収とか急すぎません?一体いつそんなこと言われたんだ?
「どしたん拓人?なんか悩み事?」
「いや、ついさっき数学のプリント今日までって聞いてそんなん言われたっけなぁって」
涼太が俺の顔を見て、ポンと肩を叩きながら話しかけてくる。その隣には陽もいた。
「ああ!伝えるの忘れてた!ごめん、それ拓人がちょうどトイレ行ってる間に数学係の人が言ってたんだよ」
申し訳なさそうにして事情を説明する陽の話を聞いて合点がいく。あのときかぁ……。じゃあ俺が知ってるわけないよな。白雪姫のお手伝いさんになっっていた時に伝えられたらしい。
「あれ?でもそれ出せる人だけじゃなかったっけ?」
「え、そうなの?全員じゃないんだ」
「いやもう何?新手の嫌がらせかこれ」
新しい情報が左右から流れてきてもうどれが正しいのか分からん。俺を置き捨ててどの情報が嘘かの人狼ゲーム始めるのやめてもらってもいい?あ、自分村人COです。
「『すんません、仕事の関係で今日出せる人がいたらすんごく助かります』って話になったんだと。でも元々今週中までだったから出せる人だけでいいらしい」
「地味に似てるのおもろいな」
「これ結構自信あるからな」
涼太の物まねが絶妙に上手い。どうしてこうクラスには先生の物まねがやたら上手い人がいるのだろう。
「まぁそんなわけで出せるなら出せばって感じ」
「おっけー。ありがと、助かったわ」
「どういたしまして。そういや正樹はどこ行ったん?」
「生徒会の用事があるらしい」
「そんな今忙しいんかな?」
「あれじゃない?体育祭とかじゃない?」
「あぁ」
6月に入ってから数日が経ち、今月末にはなんと体育祭が待ちわびているのだ。うわぁ……なんも嬉しくなぁい。なんなら体育祭あるの忘れそうになってたくらいだし。
こういうのは陽の者たちがワイワイキャッキャするための催しであり、俺みたいな運動が得意ではない陰の者は静かに息をひそめなければいけないイベントなのだ。こういうところで変にイキると後の学校生活が大変になるからね。
「よっしゃ!拓人!頑張っていいとこ見せて彼女作るぞ!」
こういう感じの奴ね。
「一人で頑張ってくれ。応援してるから」
「見栄張んなよ~」
「揺らすな揺らすな」
肩に腕をかけてぐわんぐわんと揺らしてくる涼太の腕をなんとか剝がそうとする。
「ダル絡みやめなよ涼太。拓人は涼太と違って彼女作ろうと思えば作れるんだから」
「おい!まるで俺がガチで彼女出来ないみたいに言うのやめろ!こいつも俺と同類だろうが!」
「悪いな涼太。そういう事だ」
「うっぜぇ、その勝ち誇ったような顔超うぜぇ」
陽的には俺は彼女を作ろうと思えば作れるらしい。はっはっは、残念だったな涼太。まぁ俺は彼女を作る気は微塵もないんですけどね。
「あ、僕そろそろ部活行かなきゃだ」
「じゃあ俺もそろそろ部活行くか」
「おう、頑張れ陽と女っ気ゼロの涼太さん」
「んだとごらぁ!」
「ほらいくよ。拓人も煽らないで。涼太そういうの効いちゃうんだから」
陽さんナチュラル煽りやめたほうがいいと思いますよ。ほら俺の奴よりも深く突き刺さってるんですけど。涼太すごくげんなりとしてるんですけど!
陽の無自覚煽りが炸裂したのを見届けた後、俺は課題のプリントを提出しに職員室へ向かう。職員室の前には課題提出用や、課題配布用のボックスがある。教科にもよるが数学は基本このボックスに提出すればいいことになっている。
「いやぁそれにしても正樹には感謝だな」
数学が苦手な自分がこうして課題を終わらせることが出来ているのは親友たる正樹のおかげなのだ。この前近くのカフェで一緒に勉強(一方的に質問ばかりしていたのだが)をしたためこうして余裕をもって提出をすることが可能になっている。持つべきものは勉強のできて頼れる親友だな。今度肩でも叩いてあげようかな。
小さな子供が考えるようなプレゼントだなと自分でも思いながらプリントをボックスへとしまう。後は正樹が来るまで教室で適当に時間つぶしとこ。
「あれー?拓人じゃーん!やっほー!」
……聞き覚えのある声が聞こえたがまぁ多分気のせいだろう。よし、さっさと教室戻るか。
俺は声のした方向に目を向けないようにその場を立ち去ろうとする。
「聞こえてるー?おーい、聞こえてますかー?」
すたすたと教室へと歩き始めたが後ろから声の主が追いかけてきている。もしかしたら今日は疲れているのかもしれない。幻聴がこんなに鮮明に聞こえるなんて……
「たーくーとー!!」
「ごふっ!!」
背中から衝撃が伝わる。擬音を付けるのならばポンというよりもバシッという感じだろう。力のこもった平手打ちを背中に受けた俺は観念したように後ろを振り向く。
「思いっきり背中叩くんじゃねぇよ!普通に痛いわ!」
「そっちが無視するからでしょー?自業自得よ」
俺のことをしっかりと捉えている紫色の瞳。結われた小豆色の長髪を揺らし、程よく焼けた健康的な肌色をした少女の表情はどこか固く、むっとしている。
「はぁ……どしたの
この俺の背中を容赦なく叩いてきたこの少女こそが正樹の彼女、兼俺の幼馴染の
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