第6話 白雪姫との遭遇

「正樹今日学食ー?」


「いや、今日は弁当ある」


「おっけー」

 

「拓人は学食?」


「どうしようか悩んでる。あいつら次第かな」


「了解」


 時間は12時を回り、お腹の虫が輪唱を始めてしまいそうな時間になる。授業のチャイムを聞き終えた俺は近くに座っていた親友の方へと向きを変え、お昼をどこで食べるかの相談を始める。


「というか正樹ちょっと焼けた?」


「あーうん、この前若菜わかなと出かけたとき日焼け止め塗るの忘れてたんだよね」


「まだ夏じゃないのに……というか若菜から借りればよかったのに」


「若菜は家で塗ってきた後持ってくるのを忘れて借りれなかった」


「どんまい」


 日焼けにより少しだけ肌が褐色になっているイケメン君。身長は俺と変わらないはずなのにそれ以外のほぼ全てのステータスが俺よりも高いこの男は俺の中学からの友達であり、親友である木村正樹きむらまさき


 ちなみに先ほど話題に上がっていたのは嶋村若菜しまむらわかな、こいつの彼女であり、一応俺の幼馴染でもある。とても活動的な女の子であり、元気があるどころか有り余っていると言っていいほどに明るい女の子である。


「まっさんと拓人は今日学食ー?」


「俺は学食……って二人とも今日弁当か」


「うん、そうなんだよね。じゃあ学食で食べよっか」


 正樹と話していると涼太と陽が弁当を片手にこちらへと歩いてくる。


「いや、今からダッシュで購買行ってくるわ」


「え、別に気にしなくていいのに」


「いや普通に今日パンの気分」


「じゃあ俺ら先に食べてるから」


「あいよ、じゃ行ってくる」


 陽と正樹と話し、俺は席を立つ。あ、肝心の財布忘れるとこだった。あっぶねぇ。


「あ、拓人。ついでに飲み物買ってきてー」


「食いながら喋んな。で?何がいい?」


「拓人のセンスに任せるわ」


「それが一番困るんだよなぁ……」


 涼太に一番めんどくさい飲み物のお使いを任される。あれだね、お母さんが「今日の夜何がいい?」って聞いたのに子供が「なんでもいい」って答えるやつだねこれ。それで微妙なのが来たら「えぇこれやだぁ」みたいに言うやつだ。本当にごめんなさいお母さん。今ようやくその気分が分かりました。


 一つまた成長した俺は少し早歩きで購買へと向かう。少し並んだものの自分のお目当てのものを買えた俺はほっこりとした気持ちで教室へと戻る。


「ただいまー」


「おかえりー」


「拓人おかえりー、飲み物何買ってきた?」


「苺ミルク」


「もっと他のなかったのかよ……いや嫌いじゃないけどさ」


 机の上に勢いよく置いた苺ミルクを見てげんなりとした表情を浮かべる涼太。なんでや苺ミルクおいしいやろがい。


「ラス1だったんだぞこれ。もっと喜べよ」


「いやそこは飲みたい奴のために残しておくべきだろ」


「おーん?だったら自分で買いに行けよぉ」


「というか拓人に頼んだ時点で甘い飲み物確定してるから次からは自分で言った方がいいよ」


「ああ、次からそうするわ。ありがとまっさん」


「正樹より俺に感謝しろよ」


 なぜか買ってきた俺ではなくて正樹に感謝している涼太に目を細める。なぜ苺ミルクを買ってきただけなのにこんな扱いを受けなければならないのか不思議でしょうがない。苺ミルクは(私的)美味しい飲み物ランキングの上位に食い込む飲み物だというのに。 


「ありがとな拓人、もう頼まないと思うけど」


「こんなに感謝の気持ち乗ってないありがとう初めてだわ」






 雑談に花を咲かせながらご飯を食べ終えた俺はお手洗いのために席を立つ。


「あ」


「……あ」


 教室へと戻る途中、結構な量のプリントを抱えた凛花とエンカウントとする。しかも偶然にも周りに人がいない状態で出会ってしまう。俺こんなところで運使いたくなかったよ。


「……どうも」


「今周りに人いないから他人の振りしなくても大丈夫だよ?」


「いや廊下だし一応気を遣った方がいいかなぁと。というかそれは?」


 直々にお許しが出たのでいつもの通りの口調に戻す。


「これ?先生に運んでおいてって頼まれたの。次の授業で使うんだって」


「めちゃくちゃパシられてるじゃん」


 優等生は先生からの信用を得ることが出来る代わりにこういう雑用を任されることが多いから大変そうである。


「まぁこのくらいなら全然余裕だよ」


「クラスの誰かに手伝ってもらえばよかったのに」


「いやぁ……皆の邪魔をしちゃ悪いかなって」


「白雪姫は偉いですなぁ」


「む、白雪姫って言うのやめてって──ちょっと!」


 俺は凛花が持っていたプリントを奪うようにして両手で抱える。急に重さが消えたことで驚きを隠せないご様子。


「これどこまで運ぶやつ?」


「理科室までだけど……別に一人でも大丈夫だよ?」


「いいって、食後の運動みたいなもんよ。それにお姫様にこんな重いもん持たせるわけにはいかないからな~」


「別にそのくらい余裕だし!」


「今それ言うと強がりにしか聞こえないぞ」


「うるさいバーカ」


 踵を返し、理科室へと歩き始める。凛花は歩き始めた俺に追いつくために小走りでやってきて、手を後ろに組んだまま隣を歩く。


「ありがとね拓人」


「あいよ」


 感謝の気持ちが伝わるありがとうだ……。涼太に見習わせたいわ。

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