第2話 再会
結月と出会った日から、数日が経った。滅多に体調を崩すことのないにも関わらず、高熱が出し、学校を休んだ。だからなのか。教室の自分の席から眺める景色を懐かしく感じる。休んだのは、数日であったはずなのに。
「あいつ、結月だったよな。どこかのクラスにいるのか。」
ハンカチの礼をしたかったけど、連絡先聞くの忘れたんだよな。
あの日はお互いに雨に濡れてしまったため、名前を聞いてすぐに別れてしまった。何より、あのまま女子を引き留めておくことも気が引けたからだ。
彼女は同じ学校の制服を着ていたから、校内で顔を合わせることもあるかと思っていた。しかし、その予想は外れたようで、登校してから彼女に会うことができずにいたのだ。
すると、クラスの男子の何気ない会話が聞こえてきた。
「そう言えばさ、昨日来た転校生。可愛かったよな。」
「可愛いというか、あれは美人だろ。」
どうやら、俺が休んでいた間に転校生が来たみたいだな。教室に入った時、男子が浮ついてたのはそのせいか。まぁ、俺には関係ないし。
教室を見渡した限り、それらしい女生徒は見当たらない。そんなことを考えながら、再び窓の外に目を向けた。何か気になるものがあるわけではないが、流れる雲をただ眺め続ける。
「お、おはようございます。」
すると、俺の横から声をかけられた。その声は聞き覚えのあるもので、反射的に声のするほうに身体を向ける。そこにいたのは、黒髪のミディアムボムの女生徒だった。そして、その彼女こそ、先日であった結月だ。
「ゆ、結月。どうして…。」
「レイ、さん?隣の席だったんですね。」
「そ、そうみたいだな。」
隣はずっと空席だった。俺の傍にいるのが怖いから、怖い先輩たちに巻き込まれるからなどと言い、横の席に着くもの好きもいない。それにも関わらず、結月が隣に座る。
「お前、転校生だったんだな。」
「はい。レイさんに会ったあの日に転校手続きをしてたんです。」
「それで、その帰りに俺を見つけたのか?」
「そういうことです。」
結月は、転校生だったのか。改めて考えてみると、校内で見かけたことがなかったしな。どうして今の今まで気が付かなかったんだ。
「急に黙って、何かありました?」
結月はレイの顔を覗き込む。整った顔立ちで、髪がさらさらと流れ、開いていた窓から入り込んだ風に揺らめく。間近で見ると、クラスの男子が話していたように美人という言葉が一番彼女を表していると感じた。
「そんなことは。それより、近いんだが。」
「あっ、ごめんなさい。まだ風邪が治っていないのかと思って。」
「俺が風邪引いて休んでたのを何で知ってるんだ?」
「先生から隣りの席が空いてるのが気になって。それで聞いてみたんですよ。」
当たり前のように話す彼女。転校してすぐに隣の席が空席だったら、気になるよな。もし自分が同じ立場だったら、気にならずにはいられないと思うのは当然だ。
結月と話していることに夢中になり、気づかなかった。いつもの間にか、クラスメイト達から注目されていたことに気が付く。こそこそと話をしているグループが目に入る。
「あの二人って、知り合いだったの?」
「青柳と転校生が話してるぞ。」
「青柳のこと、怖くねぇのかな。」
こそこそと話しているつもりだろうが、大まかな話の内容は聞こえてくる。
少し話してるだけで、ここまで言われるのかよ。まぁ転校生が俺みたいな素行の悪い奴が話してたら、気になるよな。このクラスで普段から俺に話しかけてくる奴のほうがいないから、仕方ないが。
このまま話をしていると、周りが気になって落ち着いて話せないな。
場所を変えて話せるようにするために、レイは声をかけた。
「あ、あのさ。」
「どうかしました?」
俺から声をかけることを普段しないせいで、こういう時にどのように話を切り出したらいいかわからない。
口ごもりながら、思考を巡らせ、言葉を紡いだ。
「この前借りたハンカチの礼をしたんだけど、放課後は時間あるか?」
「時間はありますけど。あの時は私が放っておけなくてやったことなので、お礼なんて気にしなくても良かったのに。」
「いや、借りを作っておくのは嫌なんだ。だから、礼を返させてくれ。」
彼女は口元に手を当て、考え込んだのち、
「そ、そこまで言うなら…。」
と、微笑みながら、俺に返事をする。
少し強引だっただろうか。でも、このままにしておくことも、俺が納得できない。
そんなことを考えていると、
「放課後なら、少し行きたい場所があるんですが、そこでもいいですか?」
「別に俺はどこでもいいけど。行きたい場所って...。」
結月は周囲を気にするように視線を動かし、ほかに聞こえないように小さな声で言う。
その場所は―。
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