春日

学校の教室

放課後

中学生が屯している。


「”かすがはるひ” って名前、凄くね?」

「は?」


②、ノートに「春日」と書く。


「ん?」

「これさ、カスガともハルヒとも読めんじゃん。」

「だから?」

「すげぇって話!」 

「そう。」

「一語でどっかの日本人の名前になるんだよぉ!凄いじゃん!」

「はいはい。」


②、しょぼくれる。

①、そんな②を気にして考えてみる。

暫くして「春日」の隣に文字を書く。


「これは?」


②、ノートを見る。

「春田」の文字。


「”はるたしゅんた”」

「”田”の字は名前に向いてないじゃん。」

「えー。」


①、ノートに「美崎」と書く。


「じゃあこれ、”みさきみさき” 。」

「これも”崎”の字が向いてない。」

「何だよ、折角乗ってあげたのに。」

「苗字っぽいの禁止!」

「”日”の字だって苗字っぽいじゃん。」

「”日”の字の名前は多いじゃん。」

「”陽”は多いと思うけどさ……。」

「田崎よりは居るだろ?」

「くっ付けんなし。」

「合わせて苗字なら苗字の漢字だよ。」

「……。」

「やっぱり、かすがかすが最強!」

「あれ? “かすがかすが” だっけ?」

「……あれ?」


①と②、元の名前が分からなくなる。


③ 

「ひゅうがひなた。」

①と②

「え!?」


実は③、ずっと居た。

③、ノートに「日向」と書く。


「これだ!」

「珍しい苗字禁止!」

「春日よりしっくり来るわ。」


①と③、お互いにグットのポーズ。

③、引き続きノートに何か書いている。


「……春日も負けてねぇし。」

「負け惜しみ、おつー。」

「……。」


③、ノートを二人に見せる。


『春日春日さんと日向日向ちゃんが、春の日に日向ぼっこをしています。

春日春日さんは大人の女性。日向日向ちゃんは憧れています。

春の日差しに映える横向きの春日さん。とても気持ちの良い春風が吹きます。

二人が眠気に身を任せていると港港くんがやって来ました。』


「……脳みそが溶ける。」

「四角が押し寄せて来る……。」

「ってか、何か増えてない?」

「”みなとこう” くん。」

「珍しい苗字禁止!」

「何でよ? 珍しい苗字が可哀想じゃん。」

「港港は無しだろ!」

「春日春日よりマシだね。」

「……。」


③、続きを書く。


『港港くんは春日春日さんが好きでした。皆のマドンナ春日さん。

そんな彼女に春風が靡きます。

今日こそデートをしたかった港くんは、思い切り背伸びをして春日さんを誘います。

すいませーん!一本すいませんか? 僕と一緒にすいませんかー?

おーい!すいませんか?すいませーん。すいますか?すいませーん。

春風が強く吹き、港くんの声は春日さんに届きません。

そんな港くんの声に春日さんの隣に居た日向ちゃんが気付きました。

そして、こう答えます。

すみませーん。春日さんは太いのしかすいませんよー。

何と、港くんの煙草は細かったのです!

続けて春日さんが日向ちゃんに耳打ちします。

すみませーん、すみませんをすいませんと言う人は嫌だそうでーす。

日向ちゃんの声を聞いた港くんは港の春風に吹かれながら泣きました。

春日さんに思いが届かなかった港くん。

日向ちゃんは少しだけ可哀想だと思いました。』



「ミナトミナトがカスガスガ……。何だって!?」

「カドが押し寄せて来る……。」


③、また何かを書こうとする。


「もう止めて、脳が蕩ける……。」

「……そろそろ文字酔いする。」


①と②、軽くグロッキーになる。


「名前で遊ぶのはダメだよね。」

「すいませぇーん。」


腑に落ちない②。

窓から桜の花びらが入って来る。


(終わり)

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