友垣

学校

皆に「王子」と呼ばれながら戯れ合っている谷口。

そんな谷口を遠巻きに眺める山田。

田谷、山田に声を掛ける。


田谷

「どしたのさ。」

山田

「……。」

田谷

「らしくねーな。」

山田

「らしいって何だよ? 無個性の俺に何か用か!」

田谷

「……無個性。」


山田、田谷にしがみつく。


山田

「俺には無いんだ!」

田谷

「充分過ぎると思うんだけどなぁ。」

山田

「……あだ名。」

田谷

「ん?」

山田

「お前は “デブちん” あいつは “激辛王子” 保野は “ガリガリ君” !」

田谷

「欲しいの?」

山田

「俺だけ無いのは可哀想だろ?」


田谷、暫く考え込む。


山田

「……思い付かないのかよぉ。」

田谷

「だってさ、山田は山田じゃん。」

山田

「当たり前だろぉ。」

田谷

「うーん……。」

山田

「そんなかよ……。」


今にも泣き出しそうな山田。


田谷

「うん。」

山田

「……正直過ぎるぅぅ、お前はぁぁぁ!」

田谷

「だって、山田は山田だもん。」

山田

「……。」


山田、机に突っ伏す。


田谷

「あだ名とかじゃないんだよなぁ、山田の場合。」

山田

「えぇ……。」

田谷

「唯一無二ってかさ。オンリーワン的な?」

山田

「えぇ?」


田谷、思い付いた様に山田の背中を叩く。


田谷

「ジャンルだ! 山田ってジャンル。」


山田、起き上がる。


田谷

「それはそれで良いと思うんだけどなぁ。」

山田

「俺ってジャンルなの……? 俺はジャンル?」

田谷

「うん。」

山田

「そうだったのか!」


山田、いきなり教室を飛び出す。


田谷

「行ってらっしゃい。」

谷口

「山田、どこ行ったの?」

田谷

「さぁ?」

谷口

「さぁ?って……。」


外から山田の声が聞こえる。

田谷と谷口、窓の外を見る。

そこには、雄叫びを上げながら走り回っている山田の姿。

嬉しそうにジャンプしたりしている。


教室から出てくる面々。


谷口

「何やってんだ?」

田谷

「さぁ?」

谷口

「なんか萎れてると思ったら……。」

田谷

「だよなぁ。」

谷口

「熱でもあんじゃね?」

田谷

「妙にテンション上がるヤツ居るもんなぁ。」

谷口

「まぁ、元気になったなら良かったよ。」

田谷

「だな。」


山田、校庭を軽やかに走り回る。

学校中が山田を見ている。

やがて、強面の学年主任が止めに入る。

一喝され教室に戻る面々。


田谷と谷口、戻るフリをして動向を見守る。

山田、学年主任に抱きつく。

とても嬉しそうな山田に気圧される学年主任。

保健室へ連行される。


田谷

「あらら。」

谷口

「お前、何か言ったべ?」

田谷

「正直に言っただけだよ。」

谷口

「なんて?」

田谷

「お前はオンリーワンだって。」

谷口

「……それじゃね?」

田谷

「そうなの?」


谷口、白い目で田谷を見る。

田谷、不思議そうにしている。






放課後

田谷と谷口、帰り支度をしている。

空になった山田のロッカー。


田谷

「結局帰って来なかったなぁ、山田。」

谷口

「お前、純粋な悪魔かもしれん。」

田谷

「俺は善良な市民だが?」


谷口、身震いする。

田谷、不思議そうに谷口を見る。











学校

朝のホームルーム

学年主任が入ってくる。

ダラダラした空気が一変する。

山田はまだ来ていない。


学年主任

「山田だか、今朝連絡があって……。」


谷口、妙な胸騒ぎを覚える。

田谷、ボーッと学年主任を見る。


学年主任

「インフルエンザだそうだ。」


谷口、ホッと息を吐く。


学年主任

「山田で6人を超えた為、このクラスは明日から学級閉鎖に入る事となった。

それに伴い、今日は3時間授業とする。」


どよめく一同。

学年主任、大きな咳払いをする。


学年主任

「昨日の山田は、その……。インフルエンザの仕業だと思われる。

……皆、忘れてあげる様に。」


密かな笑いに包まれるクラス。











学校近くのコンビニ

田谷、出入口横の壁に寄り掛かっている。

谷口、レジ袋を持って出てくる。


田谷

「流石、山田だなぁ。」

谷口

「……お前、無邪気な天使かも。」

田谷

「俺は能天気な市民だよ。」

谷口

「足りるかな?」

田谷

「充分だろ。」


田谷と谷口、山田の家のドアノブにレジ袋を掛ける。

チャイム越しでお見舞いをする。

山田の母の声に一礼して去る。


(終わり)

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山田と谷口。 @yuzu_dora

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