#5 救世者

「は、はじめましてっ。わたくし、フォーチュンと申しますですの!え、エクスキューズミーっ」

 緊張のあまり、あたふたとした様子でフォーチュンは、ヘコヘコとお辞儀を重ねる。

『恐れないで、星詠ほしよみの巫女みこ此方こなた其方そなたの味方です』

「む、むきゅぅ~~~~~っ」

 返事なのか畏れなのか。

 曖昧な悲鳴をあげながら、フォーチュンはグルグルと目を回す。


星詠ほしよみの巫女みこ。世界は今、危機に瀕しています』

 そんなすくみっぱなしの巫女様を、青き創造主は華麗にスルー。

 話をそのまま進行する。


『かつてこの世界を支配していた【大いなる混沌】。彼方かなたの力が現世に甦ろうとしています』


 その言葉には悲しみが漂う。


『ですが、には人々を導く存在。【救世者メシア】が必ず現れるでしょう』

 その言葉には希望が灯される。


「――― 【救世者メシア】」

 フォーチュンは反芻する。

 その名称は、彼女達【】の信者にとって、特別な意味が込められている。


星詠ほしよみの巫女みこ其方そなたに使命を授けます。

 大いなるの混沌の力が眠る地に赴き、

 救世者メシアと出逢い、

 そして、この世界を救済してください』


 広葉樹から、再び一枚の葉が舞い落ちる。

 葉は、フォーチュンの額に触れると虹色に発光。瞬く間に、彼女が知るはずもない智識が脳裏にほとばしるよう伝播し、その過剰な情報量の前に、フォーチュンの意識は急速に暗転していく。


        ◆◆◆


  ――― 我に返る。


 そこは、見慣れたいつもの星詠みの間。

 ヴァチカン市国・サンピエトロ大聖堂内の一室。

 ここでいつもフォーチュンは星詠みの権能ちからを使い、地球の化身ホメヲスタシスに対話を


「姫さま、いかがしましたか?」

 背後、聖衣を纏った老人が跪き、敬意を込めた姿勢でフォーチュンの異変を気遣う。


 彼の名はギンヌンガガプ。

 聖十字教H.C.A.Holyホーリー Crossクロス Associatiosアソシエーションズの略)の頂点・教皇を補佐する最高顧問の集団・枢機卿団カーディナルズの一員だ。


「……… たった今、地球の化身ホメヲスタシスより神託を授かりました」

 普段の頼りない様子とは一変して、厳かにフォーチュンは返答する。

 その言葉に老人はギョッと眼を見開き、思わず感嘆の声を漏らす。

「それはそれは、なんともありがたき。身に余る光栄!このギンヌンガガプ。姫さまの初の星詠みの場に立ち会うことが出来るとはっ!すぐさま教皇様にご報告を……… 」

「ギンヌンガガプ枢機卿」

 ゆっくりと、フォーチュンは振り向く。

 決意を込めたその瞳で、枢機卿をまっすぐ見据えて。


 普段の彼女とは見違うほどのただならぬ気配。枢機卿ギンヌンガガプは神妙な面持ちで次の言葉を身構える。


「わたくしは日本へ向かいます」


 枢機卿ギンヌンガガプは凍り付く。

 星詠みの間を、恐ろしいまでの沈黙が支配する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る