第20話 魔物と魔石

「リオにぃ…何が言いたいの…?」


「…あれは本当に魔物だったのかって言う事だ。」

「リオさんはあれが魔物ではなく生物だと…?」


「ありえない!」


そう叫んだのはミラだった。


「あれには、はっきりと魔力の塊が感じられた!」

「もし普通の生物ならその魔力に身体が持たないわ!」


ミラの疑問も最もだ。

何故なら魔物と生物には体の構造に大きな違いがある。


魔物の特徴は4つ


魔力の塊の魔石を核としている

魔力で構成されている

魔力のない所では霧散する

生物の姿を模倣する


という事だ


その性質のおかげで同じ見た目の魔物でも魔力の大きさによって強さが全く異なる。

そして魔力を求めて彷徨い続ける。


だから、魔物を倒した後に身体が崩れないと言うのは異常でそれはもう生物と言っても過言では無い。


「分かってる…」

「でも、あれは死んだ後も体を保ったままで崩壊しなかった。」


ただこの予想には説明のつかない部分がある。


それは…

「なら調査…調査の報告に蛇の死体が確認されていないのはどうしてよ!」


「それは…分からない」



ミラの言う通り報告に上がってないのがおかしいのだ。

あれだけの巨体が見つからない訳が無い。


なら何故見つからないのか?

考えられるのは途中で調査内容が改ざんされている可能性。


それなら、『見つからない』のも納得はできる。


でもそんな事が有り得るのだろうか?


いや無理だ…

冒険者ギルドはこの手の問題に厳しい。

国が関与しているならともかく、完全中立の冒険者ギルドでは絶対にありえない。


そういう不正が無いという信頼があるからこそ勇者の装備の情報を管理する権限を持っているのだから…


最後に考えられるのはソレが生きていた可能性。

これも有り得ないだろう。

魔物であれ生物であれ弱点は同じだ。

そして僕はあの時寸分たがわず首を切り落とした。


どちらにせよ致命傷。

生きていたならそれはもう生き物じゃない。


考え込んでしまいしばらく沈黙が流れる。




「とりあえず今日はゆっくり休まないか?」


口を開いたのはガウスだった。


「分からない事はここで議論しても分からないままだろう…」


「そうだな…また始勇祭が終わった後に調べて話そう。」

「そういえば始勇祭の予定ってどうなった?」


「日程を1日ずらしてその間にリオさんが目を覚ませばその間に開催して目を覚まさなければ最悪リオさん抜きで開催するそうです」



「わかった…」

どうやら最悪でも明日の昼までに歩けるようにならないといけないらしい…

目を覚ますまでは早かったらしいから何とかなりそうだな。


「とりあえず今日はもう休もう…」

「それと…皆ありがとう…!」


「えぇおやすみなさい」

「あぁおやすみ」

「おやすみ」


そうして僕たちは始勇祭に備えて眠ることにした。



――――――――――――――――――



「はぁ…」

俺は天井を見上げながら憂鬱な気分でそれを見つめていた。


「参ったなぁ…」

勇者の装備の情報を貰ったまでは良かった…

問題はその情報があまりにも曖昧だった事だ。


その情報をまとめるとこうだ


まず

断界の剣

全てを斬り裂く剣で魔王城にあるらしい。

5つの内どれかが魔王城にある事は知っていたがよりによって1番重要そうな剣が魔王城にあるらしい。

なんでそんな所にあるんだよ…


まぁこれは手に馴染んだ武器の方が使いやすいから諦めがつく。


次に

神滅の小手


情報によるとその小手で払われたあらゆる攻撃は無に返されるらしい。

どこかに封印されているらしい。

肝心な場所なのだが情報によると。

『神々はあらゆる力を無に返すその力を恐れこの世の果てに封印した』


いや何処だよ…

地獄か?地獄なのか?

それとも極地と言われる場所のどこかか?


東西南北の果てに極地と呼ばれる場所があるがあと数ヶ月で全部を調べて帰ってこられる距離じゃない。

1つならギリギリ調べて帰って来れるかもしれないが外れた瞬間終わる。


その1つに賭けるとしてももっと情報が欲しいところだ。


そして

新天の靴


その靴を履いた物は何処にでも行けるようになるらしい。

何処にでもという事はあの世でも行けるのだろうか?

それで場所なのだがこれは隣国が独占しているらしい…


効果的にはあまり使いこなせそうにないのでよしとしよう…


その次に

思い出の懐中時計


これは初代勇者が大切にしていた時計で時間にまつわる力が扱える様になるらしい。


正直めちゃくちゃな効果だ。

下手するとどんな装備よりも強そうだ。


それで場所なのだが…

『悲しみにくれた勇者はその時計を思い出と共に最も大事にしていた場所に閉ざした。』


う〜ん?

この情報を残した人はほんとに先代ですか?

まるで初代勇者本人が残した物がずっと伝わっているような書かれ方だ。


そして相変わらず正確な場所が分からない。



最後に

契の指輪


この指輪の効果は代償を払うとあらゆる願いを叶えられるようになるらしい。

願い事によって代償の重さが違って場合によると願い事をした本人が世界から消えかけたとか。


そして場所による情報は

『神々は世界の理を定めた。そしてその理を変える唯一の方法として最も公平で最も平等な場所に埋めた。』


うん…全くわからん!

まず最も公平なのに平等ってどういう事だよ…

本来有り得ない状況だ。

そしてそれが場所を表すとなると…


…いや一つだけあるかもしれない。

俺は小さな頃聞いた童話の話を少し思い出した。


その内容はこうだ


「確かこの世界には8の種族がいると言われていて…

人族

魔族

精霊族

神族

獣族

霊族

…後なんだっけ?」


とりあえず思い出せる範囲でまとめると


昔は仲良く暮らしていた8つの内6の種族は大きな災いをきっかけに争うようになりそれを止めるために土地を6つと地獄と天国に分けて暮らすようになったと言う内容だ。


そして最も公平で平等な場所…


それにあたる場所があるとすればその6つの種族の土地の境界が交わる場所が1番近いかもしれない。


そんな童話の話がヒントになるかもしれないと思ったのには2つ根拠がある。


勇者の装備は強大すぎて封印しても多少はその力が漏れだしてしまう。

それ故その漏れ出した力を利用しようとした場合何処かの国にあればその国が独占する事になる。

ただそれを境界に置けば平等に恩恵を受けられるだろう。


2つ目の根拠はこの童話が俺の村に代々伝えられているということだ。

俺の村は勇者の子孫の村、その上秘密裏に管理しているダンジョンがあるんだ、他にも重大な秘密があっても不思議では無い。


ただ疑問が残る所もある。

公正と言う部分は満たせないって事だ。



「はぁ…とりあえず初代勇者に付いて調べた方がいいか…」


恐らくそれが一番の近道だろう。


「ふぁ…」

そんな事を考えていると大きなあくびが漏れた。

ふと窓に目をやるとすっかり日が落ちていた。

どうやら長いこと考え込んでいたらしい。


「今日はもう寝るか…」


今日も色々あって疲れた。

難しい事はまた明日考えよう…


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