第19話 違和感

「んっ…?」


僕はその場所で目を覚ました。

懐かしい1本の大きな木の下で。


ここは僕とレイが一緒に冒険者になると誓った場所。


「懐かしいな…」


今はもう有り得ない。

いや有り得なくさせてしまった光景。


「どうしてリオは冒険者になりたかったの?」


郷愁に浸っていると懐かしい声が聞こえてくる。

声の方向を見ると幼いレイの姿が目に入った。


どうやら夢を見ているらしい。


(それよりどうして冒険者になりたかったのか…)

「それは…ここには無い、いろんな物を見たかったから…」


自然に自分の口から出たその言葉に僕は驚いてしまう。


確かに僕が冒険者になったのは未知への好奇心だった。


故郷は良くも悪くも閉鎖的。

近くには危険な物がない代わりに目新しいものも無かった。


だから好奇心の強かった僕には退屈すぎた。


今でこそ勇者として活動しているがそれも本来なら他にいた才能のある人間がいてその人が勇者になるはずだった。


でも今は違う、魔族に村を滅ぼされ僕とレイは唯一生き残った。

そして本来なら勇者の役目はレイに回るはずだった。


でも僕は唯一の親友を失うのが怖かった…

だからこそ、勇者の役目を自分が無理や背負い、レイを守ることを何より最優先にして、危険を排除するようになっていた。


それでも、どうやら心のどこかであの頃の好奇心はのこっているらしい…


そんな事を思っていると視界がぼやけ何処か遠くから誰かが呼ぶ声が聞こえてき出した。


「な…んだ…」


突然強烈な眠気と頭痛そして耳鳴りが襲ってくる。


「そっ…ぁ…さぼ…は…『 』。」


僕はその途切れ途切れのレイの声を最後に意識が無くなってしまった。



――――――――――――――――――――――



「リ…にぃ…お…てよ…」

「いやだよぉ…」


「んっ…?!」

掠れた様な呼ぶ声で目を覚ます。

目を開けるとそこには、僕にもたれかかって寝ているミラがいる。


辺りを見回すと泊まっている宿の部屋だった。

そして窓の外は真っ暗だ。


どれくらい眠っていて今が何日目かは分からないが明るい内に魔族と戦っていたから少なくとも半日は眠っていることになる。


「ありがとう…」


眠っている少女に僕はそう呟く。


「ん…?」

「リオにぃ…が起きてる…?」

「なんだぁ…夢かぁ…」


一瞬起きたと思ったが再び顔を埋めて眠ってしまった。

かなり寝ぼけていたらしい


彼女を起こさないようにそっとベッドから抜け出す。

そして立ち上がろうとしたが…


「っ…?!」


上手く立ち上がれずベッドから離れられない。


「まいったね…」


どうやら能力を使い過ぎたらしい。

足に…体に力が入らない。


ガチャリ


そんなこんなしている内にドアが開いた音がする。


「ミラさ〜ん、交代のじか…」


そう言いながら現れたアリスと目が合う。


「…ガウスさんを…呼んできますね。」


そう言って消えた彼女の顔は穏やかだった。




しばらくしてアリスはガウスと共に僕の部屋に戻ってきた。

その後すぐにミラも目を覚まし泣きつかれた。


それであの後の事情を色々説明してくれた。


何とか魔族を退けたこと。

本来なら2、3日目を覚まさないところを半日程で目を覚ました事。

そんな事を教えてくれた。


「なるほどね…」


「そうそう本当に大変だったし心配したんだからね!」

「そうですよ?一時はどうなるかと思いましたよ…」


「今回は、何とかなったけど次からは、自己犠牲禁止ね!」


アリスとミラはご立腹の様だ。


仕方ない、あそこまで酷くなる状況を予想しているのは僕だった。

そして、そのリスクを隠した上で作戦を開始したのだから。


「まぁそんな感じで何とか皆んな無事だ。」

「あぁ…それと、あれから気になる事が2つあってな…」


「リオが眠っている間に魔族が現れた近くの調査が進められたんだが…」


ガウスが言い淀む。


「また何か起きたのか?」


「いや、そうじゃない…」

「結論から言うと人間の死体とその痕も、途中討伐した魔物の魔石も確認できなかったんだ。」


「はっ?」


僕は思わず彼の言葉を疑ってしまう。


まず人の死体が消えた事

これはありえない事じゃない。

昔魔族が人間の研究をするためにあちこちで人が消えた事があるからだ。


ただそれならあそこまで血だらけだった死体の痕跡が無いのはおかしい。

魔族なら痕跡ごと消せるだろうがそれをしたところでメリットがない…


つまり、これから考えられる事は1つだけ、あの死体が偽物だったと言う事だ。


そしてこれはレイが生きている事を表す。

「僕からすれば本当に…最高の知らせだ…!」


ただ問題はそれじゃない。

魔物の魔石が消えた事の方が問題だ。


魔石というのは魔物を形作る魔力の根源のような物。


そんな物が放置されれば何かのきっかけで魔物が復活してしまう可能性がある。


それだけなら、まだ被害は少ないがむき出しの魔力に引き寄せられた魔物により二次被害が出たり、最悪の場合魔物という魔力が集中することであの森がダンジョン化する可能性もある。


そうなれば近くの街に被害が出てしまう。


つまりもし魔石が見つからないだけの場合は大問題だ。

すぐにでも大掛かりな捜査が必要だろう…


「それで…今その森の状況はどうなってる?」

「今のところは何も起きていない。」


「そうそう、調査も昼間の間はしてたんだけど夜は魔物に会ったら対処しにくいから今は放置されてる感じだね。」


僕はそこまで聞いてあることを思い出した。


「なぁ…僕があいつを切り倒した時のことを覚えているか?」


「そういえば…あんまりにも急いでいたから覚えてないわね。」

「俺もだ。」

「私もです。」


どうやら誰もよく覚えていないらしい。

ただ僕は違う。


「そうか…少し違う言い方をしよう…」


僕はその事実を全員に伝える。


「あの魔物が魔石になるところを見たかい?」

「僕は見ていない。」





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