第14話 思惑

私はレイと別れた後魔王城に戻ってきていた。

「はぁ…これからどうなるやら。」


ため息がもれる。


「にしてもここの廊下は相変わらず長いなぁ。」


そこそこ歩いたが扉まではそこそこ距離があった。

あの扉の先には長い眠りについている魔王が居る。


ただ眠っているとは言え声は届く。


だから私は今回の出来事を報告するために向かっている。




「やっーと見つけた。どこ行ってたのイアちゃん。」


後ろからそんな嫌な男の声が響き渡る。



「はぁ…何処でもいいでしょ…ザイン…」

「それよりその気持ち悪いちゃん付けとねっとりした喋り方やめてくれない?」



イアはその声の主に目もくれず廊下を進む。


「ひっどいなぁ。これでも同じ四天王の一員じゃないか。」

「仲良くしようよ。」



「御託は良い。それより私に用があったから来たんでしょ…」

「早く要件を言って…」



「おやや?さっすがイアちゃん!察しがいいねぇ!」


「いやぁね?そろそろあの祭りの時期でしょ?」

「勇者候補の子を下見してこようかと思ってねー。」



「好きにすればいいでしょ…まだあの方は目を覚ましていない。」

「それにあの方のための行動ならある程度は許されるしそもそも私にあんたを止める事は出来ないでしょ…」




「そうかなぁ?イアちゃんが本気でやれば僕含めた他の四天王を足止めはもちろん全滅させることすら簡単に出来ると思うけどなぁ。」

「まぁいいや許可も降りた事だしちょっと遊んで来るねぇー」



そう言うと思うと男の姿が消える。



「ほんっと鬱陶しいやつ…」


四天王

魔族の中でも特に強い選ばれた4人。

その中に入ってる彼の実力は本物だ。


人間側の今の戦力なら彼1人で人の世界を壊す事も容易いだろう。



「まぁ私達には出来ないけどね…」



でも私達にはとある理由で結果的にそれが出来ない。

そしてそれは良くも悪くも世界の秩序を保っている。


「ほんっと頼んだよ…レイくん。」




私はこの先がとてもとても不安だ。





――――――――――――






同時刻


勇者パーティーは急いでダンジョンに向かっていた。

あのダンジョンにまた魔族が出たという緊急依頼が入ったからだ。


そして僕は今までにないほど焦っていた。

なぜならそのダンジョンにレイが行ったっきりだと言う。



嫌な汗が背中を伝う。



「リオにぃ!もっとスピードを落として!」

「そうですよ!このままじゃ奇襲に対応できません!」



リオは振り向きもせずに答える。


「でもこのままじゃ…な?!」

突然服を掴まれそのまま後ろに投げ飛ばされる。



「痛ってぇ!何すんだよガウス!」

「落ち着け!せめて周囲を警戒する余裕ぐらいは持て!」



僕の目の前には大きな背中があった。

そしてその先にはもうひとつ大きな影がある。


どうやら魔物の奇襲を受けたらしい。




「ちぃ!」


ガウスの舌打ちとともに爆発音が聞こえる。


どうやらそいつの攻撃を盾で受け止めた音のようだ。


ギシギシと盾が軋む音がする。

あのガウスが押されていた。


俺を庇ったと言え普段ならほとんどの攻撃を弾き返すガウスが今回は受け止めるにとどまっている。

相当受けるタイミングが悪かったらしい。


それを見て俺はすぐに立ち上がり前に出る。

そしてようやく俺はそいつの姿を視認する。

そこに居たのは蛇の魔物シャドウスネークだった。


こいつは気配を消して獲物を狩る魔物だ。


だが本来なら…注意深く進んでいたなら不意打ちを食らうような相手では無い。


完全に僕のミスだ…



「あぁもうこんな時に限って!」


後ろから苛立ったミラの声が聞こえる。


「…すぐに終わらせる!」


俺は即座に飛び出し切りつける。

しかしギリギリで躱されてしまう。


「大人しくしてろ…!」

しかしそれは知っている。


俺はそのまま素早く距離を詰め剣を振るい首を落とす。

時間をかけずに処理をする。


「行くぞ…」


そして俺は再び走り出そうとするがガウスに制止される。




「落ち着け!」

ガウスが腕を掴み制止する。

「でもこのままじゃ…」


そこでガウスが俺の声を遮る。


「レイが心配なのもわかるがこのままじゃ着いた時に疲れ果てて戦えなくなる。」

「せめて周りを見る余裕ぐらいは持ってくれ!」


「わかった…」



みんなが正しいことは分かっている。

それでも僕は焦らずには居られない。



俺は少し抑え気味に走り出した。



そうして少しひらけた場所に出た。


「ここまで来たらあと少し…!」

もう少し進めばダンジョンの入口が見えてくるだろう。


しかしその瞬間まとわりつく様な気配と共に心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。


思わずチラリと全員の方を見る。




するとミラもアリスもあのガウスさえも顔から血の気が引いていた。



このメンバー全員それぞれが百戦錬磨だ。


ガウスなんかは得体の知れない化け物にも勇猛果敢に立ち向かう頼りになるやつだ。

何ならそんな姿を見てパーティーに誘ったのだ。



確かにアリスは僧侶、ミラはまだ子どもだがそれでもそこら辺の騎士より肝が座っている。


そんなメンバーが柄にもなく恐怖を感じている。



「もうすぐ目的地だ…全員気を引き締めて…」



おそらくこの先にいるのは今までで最高の化け物だろう。

久しぶりに死の予感がする。




そして俺たちはそいつを見つける。


そこには執事のような服で身を包み額には小さな角を生やした気色の悪い顔をした魔族が居た。




「おやおや?ようやく到着したようですねぇ。」

「でも残念この子は既に死んじゃいましたよ?」


そう言いながら薄ら笑いを浮かべ足元の死体を蹴飛ばしている。



「レ…イ…?」


その死体は腹に大きな穴を開け髪は血で染まり赤くなっていた。

この近くにレイ以外の人間が来たと言う情報は無い…

つまりそういう事だろう。



ふつふつと怒りが湧き上がる。


「なぁ…どうして殺した?」


その質問に魔族は不思議そうに答える。


「それりゃぁ…面白いからに決まっているでしょう?」

「特にこの子は楽しかったですよ?」


「力は大した事ない割に心の方はそこそこ強かったですからねぇ。」


ふざけるな

これじゃ…

何のために僕が…僕達がレイを追放したと思ってる…

どんな気持ちで追放したと…


頭に血が上り、剣がギシギシと音を立て震える。



「時間があればもっと遊びたかったですよ。」


そう言いながら心底残念そうに笑っていた。


絶対に守ると…そう誓ったのに、僕はまた…何も守れなかったのか?


再び血に濡れた死体が目に入る。


はぁ…人生最悪の日だ。

こいつだけは…


「それに…」


僕は奴が話しを遮って攻撃を仕掛けていた。



その踏み込みは今までで1番早く1番鋭かった。


しかも不意を付いた攻撃。




それは魔族と言えど殺すには充分な最高の一撃だった。


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