第10話 分岐点1

俺は街外れの森に近い小さな小屋の前に立っていた。


ここはリオンから伝えられた場所だ。


まだここには俺しか居ないがそろそろ約束の時間だもうすぐ彼も来るだろう。




今回ここに来たのは完全な興味本位だが流石に危機感が無さ過ぎた気がする。




「いつもならどうしてただろうな…」




そんなふうに思い頭によぎったのはリオやミラ達と魔王打倒の為に冒険してた光景だった。


「チッ……余計な事を考えるのはやめだ」



頭を悩ませていると声が聞こえた。



「やぁ、レイ待たせたかい?」

「いや…俺も今来たところだ。」



顔上げるとそこにはリオンが居た。

暗さも相まって今も顔は良く見えない。




「それで…?こんな所に呼び出してどう言う用件だ?」

「そうだね……とりあえず中に入って話そうか…」




そう言って彼は懐から鍵を取りだし小屋を開ける。

中に入るとそこには机と4つの椅子が並べられていた。



俺たちはお互い対面に座った。




そして彼は座るなり話始める


「それで…君を呼び出した理由だけど…」

「単刀直入に言うと君の手助けをするためだ!」


「手助け?どういう事だ?」


こいつは何を言っているのだろうか?


「俺と君は今日初めて会ったはずだが?」


そう俺たちは今日初めて会った。

こいつには俺を知る術があったのかもしれないが。

少なくとも俺は知らない。


それに今の俺は何物でもない。

なのに手助けときた…

初めから思ってはいたが正直かなり胡散臭い。


そんな風に思っていると彼は少し楽しそうに話し出した。


「そうだね。順を追って説明しようか。」

「ところで君は僕がどういう人間か知っているかい?」


「最近有名になった何故か俺を探している占い師という事ぐらいしか知らないな。」


「なるほど。今はそれで十分だよ。」

「そして君を探していた理由だけど…」


「君…最近勇者パーティーを追放されただろう?」

「なんで…知っている?」


勇者パーティーから追放された事は実は秘匿されている。


もし追放された事が知れ渡ればその枠が空いたと勘違いして元のパーティーに付きまとう奴が現れるかもしれないからだ。


だからそれを知れるのは勇者パーティーのメンバーか冒険者ギルドの人間だけだ。


ただこいつは冒険者ギルドの人間じゃない。


何故なら冒険者ギルドの人間の名前と顔は開示されているからだ。


そしてそれらは冒険者ギルドに入る時に渡されるカードに魔法で記されていて変更があれば自動で更新される。


それにもしこいつが関係者だとしてもわざわざ偽名を使ってまで俺に用があるとなるといい事では無いだろう。



「かなり動揺しているね」


そんな言葉で俺は我に返った


「そりゃそうだろ…お前……何者?」

「僕の事はどうだっていいじゃないか…それより君にいい情報をあげよう…」


「数ヶ月後魔族が進行してくる」


「……信憑性はあるのか?」

「あぁもちろん100%を保証するよ?」


「ただこれが君にとってのいい情報じゃない本当のいい情報はその進行にリオ達勇者パーティーが派遣され全滅する事だ。」


「それはお前の占いの結果か?」


さっきから突拍子もない事ばかり聞かされているせいで脳がショートしそうだ。


既に頭は回っていない…

その情報は今の俺の冷静さを奪うには十分だった



「うん。そうだよ?ちなみに確実に当たる。僕の占いは特別だからね。」


信じ難い話だが聞き込みの結果も100%当たるという話しか聞けなかった。


ただ…だからと言ってリオ達が全滅するとは考えにくい


あいつらは認めたくないがかなり強い。

いくら魔族でもある程度の戦力であれば全滅させられるだろう……

それこそ国を滅ぼすレベルの戦力で攻められるのかもしれないが唐突過ぎて現実味がない。


なのに…

それでも何か異様な説得力があった。


この話は本当に起こるかもしれないそんな風に思わせる凄みが…重みがあった。




「……それで?俺にどうしろと?まさか助けろとか言うわけないよな?」


俺は追放されたのだ…助ける義理は無い。




それを聞いた彼は笑いながら


「まさか!そんな事言うわけないじゃないか。」


「ただ僕は君に自分で殺すにしろ見届けるにしろ自由だと言ってるんだ。」


「なっ!……」


俺は黙ってしまった。

確かに俺はリオ達を許せない正直恨んでいる。


ただそれでも殺すのは抵抗がある。

追放した理由にまだなにか理由があるんじゃないか。

もしかするとまだやり直せるんじゃないか?

そんな希望がまだ追放された憎悪を抑えていた。

もちろん見殺しにも出来ない。



「まぁ…信じるかどうかそして何をするかは全て君の自由だ。」

「だけど一つだけ覚えて置いて欲しい僕達は君の味方だ。」


俺は彼のペースに完全に飲まれていた


「ふむ…時間か…何か聞きたい事はあるかい?」

「一つだけ……分かることならなんでも答えてあげよう」


なんでも…か…


正直聞きたい事はいくつもあるが…


「なら教えてくれ…次はいつ会える?」


普通ならこんな質問はしないだろう。

だが俺にはこの時彼の事が猛烈に気になってしまった。


「ふむ…それは君次第だね…早ければ近いうちに会えるよ……」


彼はそう言うと思い出したかのように


「そうだ!次会った時にこう言うといい『霧の奥にある真実を知りたい』」



「『霧の奥にある真実を知りたい』?」


どういう意味だろうか何か重要な意味があるような気がする。



「なーに、細かい事は気にしなくていいただの合言葉さ」

「それじゃ悪いね。呼び出しといて何だけど時間が来ちゃった。」



「あ、あぁ……」


俺はそんな気の抜けた返事しか出来なかった。


そんな俺置いて彼は小屋の扉に向かっていった。

そして扉の前で止まったかと思うと顔だけをこちらに向けて。


「頑張ってね…」


ぽつりと一言彼はそう言うと小屋から出ていった。



俺はしばらく動けなかった。

あまりにも信じ難い話だった

頭の中で感情と思考が錯綜してまとまらない。


しばらく呆然自失としていた。


どれくらい時間がたっただろうか

俺はようやく冷静になってきた。


「とりあえず宿に戻るか……」


道中色々考えたが結局どうしたいのか。

そして何が正しいのか分からなかった。



確かに俺は復讐したい……

でもそれは彼等を殺したいほどなのか?


少なくとも苦楽を共にした仲間だったそんな彼等を殺せるのか?


殺す場面を想像する。

手が震え呼吸が荒くなる。


未だに俺は覚悟を持てなかった。



気が付くと俺は宿に戻ってきていた。


そして俺は風呂に入り寝る準備を進める。

ただそんな状態でも頭から占い師の声がこびりついて離れなかった。



「どうしたら良いんだよ…」


彼は数ヶ月後と言った。


もしかすると最近魔物が活性化しているのもその前触れなのかもしれない。


俺はそれまでにどうするか考えないといけない


ただ今日はつかれた


「まだ時間はある…か……」


俺はそう言い聞かせ眠りについた……

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