第8話 依頼

「警備ですか…」


「えぇ。毎年の事ですが人手が足りなくて…ただ無理にとは言いません。リオさんとの事もあるので…」




なるほど…今まで勇者パーティーに所属していたから気づかなかったが言われてみれば毎年この時期は慌ただしかった気がする。




本来なら喜んで依頼を受けるところなのだがリオ達の警備となると気が進まない。




ただ、それを理由に受けないでいるのも宿の手配をしてもらっているので罪悪感を覚える…




そんな風に俺が渡された依頼の書類を見ながら悩んでいると。



ライラさんは


「まだ時間はあるので今すぐ決めなくても大丈夫ですよ?」


「それは助かるが…」



この提案は正直ありがたい


ただ古い付き合いだとはいえ気を使わせてしまったのはものすごく悪い気がした。

流石に受けないという選択肢を取る訳にはいられない。


俺は決心して


「大丈夫、受けるよ…その依頼!」


そうライラさんに伝えた




「本当ですか?!助かります!」


「それじゃあ…荷物の整理等あると思うので


今日はゆっくり休んでまた明日から警備お願いしますね!」


「ありがとう…!それじゃあ…またな。」




――――――――――――――――――――――




そうして俺はライラさんから聞いた宿の部屋に来ていた。




「ふむ…思っていたより綺麗だな…」




その部屋は間違いで取ったにしてはかなり綺麗だった。


広さもそこそこ広い。


少なくとも1人で使う分には充分だろう。




「まぁ…気にしても仕方ないな。」


俺はとりあえず荷物の整理をする事にした。




それはほとんど荷物を整理し終わりに差し掛かった時だった。


「あれ…?これは…」


腕輪があった。




この腕輪は勇者パーティーに居る時に仲間の証として全員にそれぞれに合った装飾品を俺とミラで作った物の内俺の分のアクセサリーだ。




ただ普通のアクセサリーでは無い。


これには破邪の魔法がかけられている。


もし魔族と戦った時に付けていればかなり戦闘が楽になったかもしれない。




俺はそれを鞄の底こら拾い上げ捨てようとしたが…




「…まだ引きずってんなぁ」


捨てられなかった。




情けない…


復讐する事を決めたのに…


未だに心のどこかで引っかかりあってそれがまだ取れなかった。




「どうしようかこれ…」


捨てれないのならどうしようか。

もちろん使うのは無理だ。




売るのはどうだろうか?


これなら捨てている訳では無いので手放せるのでは無いだろうか?



「警備の休憩時間の間にでも売るか…」



荷物の整理を終えた俺はベットの上で腕輪の売り先を考えていた。


ただ本来ならこういう特殊なアイテムはそれ専用の店に売るのだが何となくそれははばかられた。




「まぁ明日考えればいいか…」


俺はそう思い眠ることにした。




今日は色々な事があり、それなりに疲労も溜まっていた。


すぐに寝ることができた。




―――――――――――――――――――――――




次の日の朝




俺は始勇祭の警備に来ていた。


内容は一定区画内で異変がないかを見回るのが主な仕事でそれ以外であればある程度の自由が許される。


ただ警備と言ってもまだ祭りの開始までは3日ある。


なのではそこまで人通りは多くないはずなのだが



「思っていたより人が多いな…」

街の中心はかなりの人が集まっていた。


「まぁ仕方ないか…」


始勇祭は所謂初代勇者の誕生日パーティーみたいなものだがもちろんそれだけは終わらない。


今1番魔王討伐に有力な勇者によるスピーチがある。


その為にスピーチ会場の下見に来ている人や食料を買い込んでる人が集まっていた。

人が多いのも当然だ。


ただ誰がスピーチをするかは極秘にされていて運営を除いて殆どの人には知らされていない。



「それでもやはり人混みは疲れるな。」


俺は人混みがかなり苦手だ。

人混みで普段の倍は疲れてしまう。


ただ今の所は何か事件が起こる気配すら無いのが唯一の救いだ。




そんな風に思いながら街を見回っていた所だった。


「何だ?あいつら…」


見慣れないフードを着けた3人組を見た。


いや色々な所から人が来るので見慣れないのは当たり前なのだが…




普通に見ればおかしな所は無いのだが俺は違和感を覚えた。


少し話しかけてみよう。




「あのーすみません。」


「何か用か?」


俺の問いかけにそう返事をしたのはガタイのいい男だった。


「いえ…ただ少し気になったので…」


「そうか…俺達はただの冒険…」




『冒険者』そう言いかけた彼は俺の顔を見た瞬間言葉に詰まった。


俺の顔に何か付いていただろうか?

少し怪しい。



「どうかした?」


言葉に詰まった彼の代わりにもう1人の華奢な女が答えた。


「…ごめんね。」

「余りにも君が知人に似ていて少し戸惑ってしまったみたい。」



そう答えた彼女は何だろうか。


いや彼女もと言うべきか。


見覚えのあるような…懐かしいような…

そんな感じがする。

いやあったことは無いはずのだが…


ただ顔がよく見えないので分からない。




「そうですか…」


怪しさはまだ抜けないが話し感じ何となくだが悪人特有の嫌な感じは無い。


本当に冒険者なのだろう。

俺はこの3人組の言うことを信じる事にした。


「俺はこの始勇祭の警備の者です何かあれば頼ってください!」


「あぁ助かる。そういえば君の名前は…?」


「おっとこれは失礼。俺の名前はレイです。」


そういえばまだ名前も言ってなかったな。


そんな事を思っていると4人組も軽く自己紹介をしてくれた。




「俺はこのパーティーのタンクのガウェインだ。」

「私はミオ魔法使い…」

「私は治癒術師一般的にヒーラーのアリアです。」




彼等はそう自己紹介してくれた。


何だろうな名前を聞いて1番真っ先に思い浮かんだのがリオ達勇者パーティーだった。

多分名前が似ているからだろう。



「それじゃあ俺は警備の仕事があるのでこれで…」

「あぁ元気でな頑張れよ…」


そう言って俺達は別れた。



そしてしばらく街中の見回りをしていた時だった。

俺はある噂を耳にするのだった。

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