エピローグ

 黄昏の空を右肩に。私は自らの強欲さを呪った。

 彼女はいなかった。可能性は、運はいつも味方をしてくれる。そう思っていたのに、神と言うやつはなんて酷い者だろう。

 よくよく考えれば、この世界に来てから。いや、来る前から、賽は投げられていた。

 この運命は、彼女が胎動を起こした晩には決まっていたのだろう。

 私がどう足掻こうが、彼女は天使によって殺される悲劇のヒロインであることに変わりはない。

 彼女は何を感じただろうか。

 天使に殺される喜びか? 信用したものに殺される屈辱か? 裏切りによる憤怒か? あるいはもう何も考えたくなかったか。

 彼女以上のバッドエンドを見る者はいないだろう。私はこの生々流転する命を得てから、またはこれからの生を受けてからこれ以上のエンディングを見ることは無い。

 そもそも新たな生を受けることが今後あるのか? 苦笑する。

 私はそっと机の上に置かれた紙をめくる。そこには、達筆な字でこう書かれていた。


「お疲れさまでした。

貴方様の担当であった『一之瀬 静』は悪魔だった為早急に預かり今後適切な判断のち、対処していくことになりました。

こちらの判断が遅れ申し訳ありませんでした。こちらにお戻りになられた際、長らくの間休暇を与えます。

以後、このような判断ミスや確認の怠りが無いよう、厳かな対応を適用すると考えております。

身の回りの整理と確認。関わった方達への配慮や適切な処置の上、帰還されることお願いします。天使 レラジ」


 これ以上は濡れていて読めなかった。

 私は大天使を二人。天使を七人殺した。もう、私の心に慈悲は無いだろう。

 私の愛おしい羽根も、今となっては墨汁をかけられたように汚く惨めだ。

 これからどうしようか。革命でも起こそうか。

 彼女が言うには神は絶対的な存在らしい。それを覆すことが出来たらどんなに哀れな事だろうか。


「――」


 笑みがこぼれる。頬が熱い。耳も熱い。目も、胸も熱い。

 今の私にはどうすることもできない。何もできない。

 だから、もう少し待ってみよう。


「頼みました」


 私はそう言ってベランダから飛び降りた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使による悪魔の為の堕ち方 和翔/kazuto @kazuto777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ