水の滴りは苦難の印
深呼吸を行い目を擦る。披露した目を熱として感じつつパソコン画面に集中する。が、それを阻害するかのように扉が三度叩かれた。
「いいですよー」
「あの、やっぱ……私は大丈夫ですよ……?」
「いいから黙って入ってくださいよ!」
扉を開けてきたのは天使だった。しかしいつもの彼女ではない。ネクタイは緩くほどかれ、ベルトも外すのに苦戦したのか少し緩くなっている。
恥ずかしいのか、苦戦したストレスか、普段の彼女からは想像もできない程顔が真っ赤になっていた。
「こういうの聞いていいのか分かりませんが……」
「私の性別ですか?」
「そうです! 失礼、ですよね……」
「べつに構いませんよ」
そういうと彼女はなぜか、ネクタイを正しく結び始めた。
と言うのも私は天使をお風呂に入れようとした。天使は「大丈夫」だの「天使だから」だの言い訳を連ねたが、逆に天使だからこそ体は清潔でいてもらいたい。
そう思い無理やり入らせようとしたがやはり失礼だっただろうか?
「私たちには性別という概念はないんです」
「やっぱそうなんですね!」
「どうしてちょっと嬉しそうなんですか……?」
天使は軽く頭を掻く。なんとなく天使の匂いを感じ取ろうとするが空振りする。
今度はベルトを正し始めた。このままでは天使を風呂に入れて清潔でいてもらいたいという私の考えがが空中分解に終わってしまう。
「どうして入ろうとしないんですか? 理由があるんですか?」
「理由も何も私たちは入らないんですよ?」
「え、ハイラナイ? 貸すと言ってる服が嫌とかでもなく?」
「だいたい私たち下着とか付けないので」
「ツケナイ?」
とうとう頭が混乱してきた。
下着をつけないというのはどういうことだろうか? もし文字通りの意味の場合あの硬そうなズボンの下では……
「やっぱ絶対入ってください! てか痛くないんですか!?」
「どうしてそう顔を赤くしてるんですか? 痛いも何も我々仕事だから服を着てるのであって本来は着ないんですよ」
「キナイ……?」
意識がもうろうとしてきた。確かに言われてみれば絵に描かれる天使は基本裸だし来ていることがあればそれは布一枚だったりする。
と言うことは服を着てる理由はただ人間と馴染むだけであり実際他に着る理由と言うのは……
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫。魂を回収するなら今だよ」
「ほんとに大丈夫ですか!?」
やはり人間の常識と天使の常識は違うらしい。
天使がそばに駆け寄ってくるのが分かる。
覚えていることと言えば意識が無くなる寸前、天使が必死に私の肩を揺さぶっていた事だった。
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