第4話 思い出は月に異に 後編 

15:00 映画村


「おぉ、ここが映画村かぁ~」

嬉しそうに天が言う。


「う~ん。17時までってあんま時間ないな。だから、入場料だけでアトラクションはその都度払った方が安いと思う」

陽が窓口の上のインフォメーションを見ながら提案した。


「あり」


チケットを買い、中に入った。どんなところなのだろうか心を躍らせながら建物中に進んでく。進んだ先には、まさに時代劇に入ったような江戸の景色が広がっていた。長屋、井戸、周りを見渡しても2階以上の建物はない。

そして、砂の地面。踏み入れた時に気がついた。今はもう、ほとんどがコンクリートで地面が加工されている。もはや高校のグランドぶりの砂に足も感動していた。


「おぉ、すごいね。 ここが映画村か」

物珍しそうに風景の写真を天がたくさん撮る。それに倣い俺も2人の写真を撮る。 天の影響で写真をよく撮るようになった。さすが少し前までJKだった子は違う。俺と陽は写真を撮るという習慣が一切なかったが、飯の時や部屋で遊んだ時などよく写真を撮る天を見て、思い出を残す意味で写真は大切だと思った。そう思って以降、飯を一緒に食べる時は、毎回写真を取るようにしている。


この仕事が終わって写真を見返したらきっとこの日々が恋しくなるんだろうなと思った。


ちなみに陽はその影響を受け、今日福知山を出発する前に家電屋でチェキカメラを買っていた。3万近くしたらしい。影響されすぎだろ……。


「ここすごいいい感じやん。2人ともここ立って」


陽がチェキカメラを構えた。それから江戸の街並みを散策しながら映えポイントがあればその都度、写真を取っていった。


「エ◯ァンゲリ◯ンこっちだってー」

受付で貰ったパンフレットを見ながら陽が案内をしてくれた。ちなみに俺はパンフレットとかそういう類のものを見ない。ゲーム機についている説明書は見ないタイプだ。読む暇があったらすぐゲームがしたい派だ。


「壱号機でっかぁ。ってか粗品のツッコミのポーズしてんじゃん」

目的地には建物4階建て分くらいの壱号機がいた。上半身だけでその大きさでなぜか手のひらを上にして片手を突き出していた。


「エ◯ァと記念写真取れるって。取ろうよ」


「えー。 嫌だよ」

天の提案を断った。写真を取る習慣が出来たとしてもやはり恥ずかしさはある。


「いいじゃん。せっかくだからとろうぜ」

陽は乗り気だった。無理やり俺らの手を引き、写真撮影することになった。


「じゃあ、写真撮りますねー」

映画村のスタッフが声をかけてくる。


「せっかくだから◯ヴァと同じポーズで取ろ」

陽が提案した。


「あ、いいですね。はい、チーズ」



その後、エヴ◯に乗った。体力がない俺はこの時点でだいぶ疲れていたが、 何より楽しかった。こんなにアクティブに外に出ることも少なかったし、気の合う友達もいる。まさに理想の休日だ。


俺が疲れていたこともあり、とりあえず3人でカフェに入ってまったりした。


「楽しい時間はあっという間だね」

そう笑いながら陽が言った。


「こっちにきてよかったよ。親には反対されたけど」

天が返事をした。


「親はやっぱり心配しちゃうよ。女の子1人で住み込みの仕事なんて」


「そんなもんなのかな~」


「そうだよー。ってかもう16時じゃん。あと1時間しかない!時間ないけどどうする?」


「さっき通ったお化け屋敷行こ!」



お化け屋敷 in映画村


「「……」」


お化け屋敷に反対してた陽が動けなくなるのはわかるのだが、お化けを提案した

さえも暗闇でビビって動けなかった。


「あー、暗いい働きたくない」

陽がぼやくように言った。


「ほんと誰一、お化け屋敷入りたいとか言った人!」

天は怒っていた。いや、提案したのお前だろ。


「ちょっとこっちきて」

天を真ん中に左に陽、右に俺と3人で腕を組んだ。天は怖いのかかなり強く俺の腕を掴む。左腕に柔らかい感触に胸の鼓動が早くなった。耳にまで聞こえるような心臓の脈拍はお化け屋敷の怖さのせいだと思うことにした。


「よし!行こう!!」

天が意気込んで言った。


まだ入口なのに暗いだけで1歩も進めない。かく言う俺も2人に負けず劣らずとも怖かった。


「先へお進みください」

デスゲームの主催者のような声が聞こえた。そう、いつまで経っても進めない俺たちについに運営から急かされてしまったようだ。

もうしょうがないな。俺はなく繋がれている腕を引っ張りながらお化け屋敷

の中に入った。


入口に長く居たせいか暗闇に目が慣れていた。だが、ずかずか進んでいくのも怖いのですり足でお化け屋敷を進んでいく。もちろん先頭は俺だ。後ろの2人はテクテクと俺についてくる。カモの親子みたいだった。


俺は別に暗闇に恐怖はない。けど、急に驚かされるとびっくりする。もはやびっくりを通り越して殺意が湧く。故に殺意を振りまきながら暗闇をすり足で進んでいく。 無音の中、人が1人しか通れないような細い道をゆっくりゆっくり進んでいく―――プシューー


いきなり背後から風が思いっきり吹いてきた。


「うわーーー、なにーーー」

びっくりするあまり走り出す陽。


「きゃぁぁぁぁ!!」

陽のびっくりした反応にびっくりする天。そして陽を追いかけるように走り出す天。


阿保みたいな反応をする2人を見て恐怖心など消し飛んだ。そのままゆっくりお化け屋敷を進んでいくと2人は井戸のある2畳くらいの部屋の所にいた。


なんでそこで待ってるんや。余計怖いやろ。と思いつつ2人と合流した。


「この障子開けないと次にいけない」

おびえながら天が言う。ここにいたのはそういうわけか。2人の代わりに障子をあけようとすると後ろの井戸からなんか出てきた。


「きゃぁぁぁー!」

もはやテンプレ通り叫ぶ天、思わず声も出ずに耳を塞ぎながらしゃがむ陽。


そんなに驚く?俺自身、初めてのお化け屋敷だったがここお子様も入れるようそんなに怖くない設計の気がする……。もはや全力で楽しめてる?2人に感心する。


「よし!歌いながら行こう。全然怖くないよ。陽行くよ、ほら」

天が突然俺と陽の腕を掴みずかずかと歩き出した。


「「ずるしてもまじめにも」」

大きな声で歌いだす天、それに続くように震えるように歌う陽。 正直恥ずかしいからやめて欲しかった。ってか、ラスサビから歌うんかい。それにしても急に天が頼もしくなった。あまりにも怖がっている陽を見て母性がでてきたのだろうか、陽を良くフォローしていた。


「やっと、外でれたねー」

天が笑いながら言っていた。急に明るい外の景色が広がるもんだから思わず目を細めた。陽は、もう疲れ切った顔をしていた。


「すっごく汗かいたわ。カフェに行こ。カフェに」

くたくたな声で陽は言った。


それからカフェでの休憩part2に入った。時間ももう16時45分と閉演時間に迫っていた。


「嵐山ゆっくり見るの厳しいかもなぁ」

お化け屋敷の疲労から回復した陽が言った。


「えー。そうなの?」

天がオレンジジュースを言いながら不満げに言った。

ここから嵐山は車で30分かからず着くとは思うが、車を返す時間を考えたら最低でも18時30分に京都をでないと行けない。混雑具合もわからないのでもっと早く出た方がいいか。とにかくあんまり時間がないことを話、代わりに虹色のわたあめを食べに行くことになった。ちなみに帰りの運転は陽にしてもらうことになった。





「どやぁ」

天が可愛らしくわたあめも突き出しポーズを決めていた。その姿を陽がチェキカメラでとらえていた。わたあめはとっても大きかった。天の2、3倍もの大きさがあるわたあめは3人で分けながら食べることにした。


今日の京都観光はこれで終わりだ。時間も迫っていたため、綿あめを持ちながら駐車場に向かった。


「うっわ、気持ちわる!」

わたあめを持っていた陽が声を上げた。陽が持つわたあめに目を向けたら、黒い点々がいっぱいついていた。よく見てみるとそこには大量の小さな虫がついていた。



「うっわ、気持ちわる!」

陽と全く同じリアクションをしてしまった。ここで1つ学んだ。虫が多い季節にわたあめを持ち歩いてはいけないと。



「今日ほんとたのしかったねー」

「ほんとそう!楽しかった!」

京都からの帰り道今日の感想を含めいろいろなことを話した。仕事の話だったり、恋バナをしたり、思い出の曲の話をしたり......。


街灯が目で追えないスピードで流れていく。車に流れる音楽、天と陽の話し声を BGMにぼんやり外を眺める。

次々流れていく街灯は、線のように光がつながっていった。車内から見上げたその光はまるで流れ星のように見えた。


「今日はすごく楽しかったな」


外に見覚えのある福知山の景色が広がりとても寂しくなった。



名残惜しいと思う帰り道ほど楽しいお出かけだと思う。



5月29日 (日曜日)

「ピッチャービビってる、ヘイヘイヘイ」

声高らかに社員の田山さんを煽っているのは陽だ。


今日は、職場の人たちで野球をしている。発案者は田山さん。 メンバーを集めないといけなかったのは陽だ。陽は、メンバー集めのストレスを田山さんにぶつけるかのようにバカスカ田山さんの投げたボールを打っていた。


「あの子うまいね」

陽を褒めてくれているのが我らが石田さん。昨日は、大阪の方に帰っていたそうだが野球に合わせて福知山に早めに戻ってきてくれたそうだ。どれだけ野球楽しみだったの?


「あつ〜い。コンビニ行ってくる」

暑さにうなだれているのは天だ。今日は、特に日差しが強く寝不足も重なり少し体調も悪そうだ。ちなみに俺も少し寝不足だ。


野球に集まったのは、職場の12名中5名。陽は一応全員に声をかけたようだ。 だが、野球を誘ったのが金曜ということもあり、きてくれる人も少なかった。来てくれそうなメンバー、瞳と新人の朱里はこの土日実家に帰るということもありダメだった。ちなみに他の人たちは、若いと元気だねぇって遠回しに断られたらしい。ちなみに利樹は今朝誘ったが駄目だった。だから、この人数はしょうがないと言えばっしょうがないと思う。


野球はピッチャーとバッターと守備を変えながらやっていた。


「田山さんやっぱ剣道やってただけあって上手いですね」


「スイング綺麗ですよね~」

石田さんが田山さんの情報をいい、陽がそれについてコメントをしていた。石田さんはどこから田山さんの情報を仕入れたのだろうか。


そこから1時間30分くらい野球をしていた。飽きていたな〜と思っていたら


「あっ、やば」

陽が打った球が公園の柵も越え、その先の民家のやねさえも越えた打球を放った。嘘だろ。ボールはあんまり飛ばないプラスチックのボールでバットもプラスチックだったがすっごくきれいなスイングから場外ホームランが出た。飛んだボールを目で追った後、ふと陽の方を見るとメジャーリーガーさながらバットを投げ、気持ちよさそうな顔をしていた。


「ちょっと探してきます」

打った嬉しそうな表情を隠しながら陽は、ボールを探しに行った。結局そのボールは見当

たらずに野球は解散になった。よくぞ、やった陽。



終わった後、少しだけ公園で田山さん達と話していた。


「あれ、月双さんのケースの裏何?」


「あ〜、これ昨日天と陽と京都観光したんですよ」


「ふ〜ん。いいね」

俺は、昨日陽に頼んでわたがしを持った天の写真をチェキにしてもらい、それを携帯の裏に挟んだのだ。デスフ◯ニックスと交換だ。あまりにもいい写真だったから携帯の裏に保管した。


公園での駄弁りもその辺にして18時と夕飯の時間になったので解散する運びとなった。


「今日の夜飯どうする?」

陽に聞いてみる。陽はその日食べたいものがはっきりしているのでご飯はだいたい陽の意見を聞いていた。


「外食ばっかりもお金かかるからさ、自炊しない?」

陽が意外な提案をしてきた。続けて陽が言う。


「天と海と俺とで材料費だしあったらそっちの方が安くなるでしょ。僕炊飯器こっちに持ってきたし」


「え、私もいいの?」


「もちろん、皆で食べたほうが多いし」


今日の飯は自炊に決まった。メニューはこの時間から作り出すということもあって、簡単に作れる青椒肉絲にするらしい。実に3週間ぶりの手作り料理だ。少し俺は楽しみにしていた。3人で材料や紙皿をスーパーに買いに行き、陽が飯を作ってくれている間に各自でお風呂を済ませ、陽の部屋に再度集合する流れになった。



19:45


「おぉ、めちゃくちゃいい匂いじゃん」

陽の部屋には、炊き立てのご飯の匂いと丁度炒めていた肉と野菜の匂いが広がっていた。


「天ももう来てたんだ」


「さっきね」

天は先に陽の部屋に上がっていたようだ。


「よし、できた。 あっ、椅子ないから海の部屋から持ってきて」


「了解」

ホテルの部屋には椅子が1つしかないため、俺が1個持って来ないといけないようだ。ちなみに陽は天に椅子を譲り、ベットを椅子にしてご飯を食べるらしい。 陽は潔癖症なので内心すごく嫌だと思うが何か俺らの為にしょうがなくやっているようで嬉しい。


自分の部屋から椅子を持ってきたときには机の上に飯が並んでいた。湯気がたっている白米に青椒肉絲の素で味付けされたピーマンとたけのこと肉たち。そして、サラダとトマト。野菜だけではなく、即席のお味噌汁まで作られていた。俺は感動していた。


「よし、じゃあ手を合わせて」


「「「いただきます」」

陽の合図で合唱した。


初めに米から食べた。……完璧な炊き具合だ。お米一粒一粒がたっており、米の硬さもちょうどいい。俺の好みそのものだった。まさに焼肉屋にでてくるような米だ。あまりの米の美味しさの衝撃で米だけを口にかきこむ。


「米うますぎる。 これだけでたくさん食べれるわ」


「……嬉しいんやけど青椒肉絲と食べて?」

陽は困惑しながら言っていた。


言われた通り次に青椒肉絲を食べた。


「うっま」

思わず声が漏れた。味のバランスが本当にちょうどいい。切りそろえられたピーマンとたけのこの食感、大きすぎず小さすぎない豚肉。それに豚肉がすごく柔らかいのだ。そして、濃すぎとも薄すぎない青椒肉絲の素の味。今まで食べてきた青椒肉絲の中で一番おいしかった。陽は料理もできるのか。


「すっごくおいしい。陽は料理の天才なん?」

青椒肉絲を口に頬張りながら天が陽に質問した。


「美味しかった?良かった。大学の時は自炊してたからかな?あんまり人に食べて貰うことがなかったから不安だったよ」

照れくさそうに陽が答えた。


「明日は何作ってくれるのー?」


「うーん。明日の気分次第かなぁ」


「そっかぁ楽しみにしてるね」


俺はあまりの美味しさに陽と天との会話に一切触れず、10分足らずで完食をした。不安の中、福知山に来て、陽たちとは仲良くなったものの慣れない環境の中で少し気が張っていた。そんな時にふと人が作る料理の温かさに触れた俺は涙が流れそうだった。


 食べた後、いつものように天をホテルに送った。


「明日もご飯楽しみにしてるよー。2人ともいつも送ってくれてありがと。おやすみなさい!」


「おやすみー」


この時の俺はこの時間がずっと続くと思っていた。


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「そんな悲しい顔はしないでください。ただ、部屋に連れ込むのはやめてください」


 田山さんは釘を刺すように僕らに言い、立ち去った。

 突然の禁止命令で僕たち3人は声が出ない。


 一昨日、自炊を始めたばっかりだっだのになぁ


 まぁ仕方がないか。どこでご飯を食べようかと2人に聞こうと振り返ると


「ねぇ、どこでご『私が男だったらよかったのかなぁ』」


 天は悔しそうにつぶやいた。心からの悲痛の叫びのように聞こえた

 海もうつむいていて天と同じように泣きそうな顔をしていた。


〜第5話 曇そら〜

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