第4話 思い出は月に異に 中編

5月28日(土曜日)9:45


ピピピピピピ


いつもの携帯のアラームで目が覚め、電子タバコに手をかける。

ボーっと外を見ながらタバコを吸っていると陽から連絡が入ってることに気が付いた。


【お湯沸かしたけど味噌汁飲む?】


最高だ。こないだ寝起きが悪い話をした時、朝味噌汁だけでも飲みたいと言う話をしたのだ。


【行く】


返事をしてタバコを吸い終え、着替えと歯磨きを済ませる。再び携帯を見ると陽

から返信が来ていた。


【玄関開いてるからいつでも入っていいよー】


携帯と財布とポケットに必要最低限のものをポケットに入れ、部屋をでて隣の玄関のドアノブに手をかけた。

驚かそうとゆっくり玄関を開けていくと、ドライヤーの音が聞こえた。そういえば、陽は朝もシャワーを浴びていると言っていた。朝シャワーをあびているからか、香水をつけているからか、陽はいつもいい匂いがしていた。実は、最初ちょっと匂いきついなと思っていたけど、慣れたら甘い匂いに包まれ安心するような陽らしい香りだなと思う。


陽は玄関に背を向け、小さな鏡越しに髪を乾かしている。どうやって驚かそうか。大声を出さずに驚かせた方が芸術点が高いと思い、なんとなく頭に銃口をつける構えをして、鏡越しで陽に目が合うようにヌルっと顔をだした。

そうしたらーーー


「わっしょーーーいい!!!!!」


「うわ、びっくりしたー。心臓止まるかと思った」


「いやいや、僕の台詞。ほんとびっくりした」


陽は、椅子から転げ落ちる勢いで、鼓膜を突き破る大声でリアクションをしたのだ。死ぬほど驚いた。今も心臓がバクバクしている。………驚かしたのは俺のはずだが??


「もー、普通に入ってきてよ」


「ごめんごめん」


「味噌汁準備するからベットにでも座っといて」


「うい」


「淹れたてはまだ熱いから1曲だけでも歌う?」


「あり」

「何歌おっかー」


「 「チェ◯ー」」


「海ならそういうと思った」

陽は微笑みながらそう言った。


「じゃあ、1曲歌ってから味噌汁飲んでから出よっか。時間ギリギリだけど」


「あり」




11:00


「コロッケ買おう。コロッケ!」


「ちょっと天ちゃん待ってー」


「僕ら先トイレ行って置くわ」


「私たち、あそこの売店入れと思う」


「じゃ、また後で」


「はーい」


俺たちは、今福知山と京都の間のパーキングエリアに来ていた。

ちなみに行きは、陽が運転をした。


「陽、どうしたの?」


「え、何が?」


「何か元気ない感じがしたから」

年齢の近い男女でドライブ盛り上がらないわけがないと思いきや、どうも陽の返事があったりなかったりで盛り上がらなかった。


「えー、そう?」


「うん。あんま喋ってなかったし」


「あー、ごめんごめん。なんかあの車、運転席だけ異様にスピーカーの音が響くから全く音が聞こえないんよ」


「なんだ。そんなことかよ」


「あの子たちにも気を遣わせたかな」


「うーん。ちょっと気まずそうやったよ?」


「謝っとこー。ありがとね、おしえてくれて」


「あいよ」


お手洗いも済ませ、天と瞳たちと合流した。


「メンチカツ美味しいよ!ほら」

天が食べさせてきた。


「うん。これ美味しいな」

よくあるパーキングエリアのコロッケの味だった。あれ、おいしいよね。遠出すればするほど味が美味しくなる気がする。


「陽も食べてー」


「僕、自分で買うから大丈夫だよ」

天も陽に食べて貰おうとしていたけど、断られていた。上手いかわし方だ。陽は、潔癖症だ。飲み回しや食べ回しはできないらしい。最近、温泉に入れるようになったようだ。


「えー、これ上げるのに」


「それじゃあ、少ないかなー」

天は、何でも共有したがりで食べ物や飲み物をよく食べさせてくる。子供みたいで可愛い。4人でパーキングエリアをある程度散策をした後、車に戻った。


「海、運転しとく?」


「おう、代わってや」


「おけー」

そこから俺が運転になった。運転するのは好きだ。陽ほどではないけど。陽はいくら長時間運転しても疲れないらしい。俺は、体力がないから割とすぐ疲れてしまう。久しぶりの運転に心躍らせながらサイドブレーキを上げた。


「あと京都までどのくらいー?」


「1時間くらいかな。瞳は時間大丈夫?」


「うん。友達も12時30分くらいに四条駅に着くって」


「なら結構時間あるね。ス◯バ行こ、スタ◯」


「あり、陽どこあるか調べてー」


「うーん。しばらくないから京都に入ってからやなー。少なくとも1時間弱はないな」


「なら、皆で◯タバいってから瞳送ろー」


「了解」

「そういえば、ひーちゃんが合う人って男?」


ついに会話の延長上で天が聞いた。昨夜のじゃんけんの敗者は、天だった。


「いや、女の子だよ。ワーホリで仲良くなってたまに会うんだ」


「へー。相当仲良くなったんだね」

とんだ肩透かしだ。けど、少しだけほっとした自分がいた。


「そうなんだー。そういえば、まだお互いのこと全然知らないから雑談しようよ。雑談!」

天が声高らかに提案した。話の振り方、雑だなぁと思いつつ、気になっていたことを瞳に聞いた。


「そういえば、瞳って清さんと仲が良いよね」


「そーね。清ちゃん可愛くて、面白いんだよ?」

そう。瞳と清さんは仲が良いのだ。


 清あかり。俺たちの3つ上の27歳の女だ。肌は陶器のように白く、髪は後ろで一つ結びに束ねている。文学少女のような見た目だ。

しかし、その見た目とは裏腹に気が強く「私、敬語使えないので」と言って、初対面の時から全員にタメ口だった。それに加え、社員である田山さんにもタメ口である。

気にくわないことがあるとすぐに口にする為、よく業務のことで田山さんに口を出している人だ。この人のことを紹介するのに自己紹介の話は欠かせない。


「清あかりです。27歳です。えっと、私重たいものとか持てないので、重いものは他の人たちでお願いします。」


これだ。自己紹介で言うことか?俺は逆に自己紹介で何も言えなかったからケチとかはつけれるわけではないけど、陽はあの清さんの自己紹介は強烈だったと言っていた。

 ちなみに俺と天と瞳が仲良くなった3人1組別れて業務を行う時、陽と清さんが一緒になった。その際、陽と清さんは少しだけ話したそうだ。

「清さんって下の名前なんていうの?」


「清です。苗字で呼んでください」

下の名前で呼ばれるのは、拒否されたそうが。


以上の説明が俺から見た清さんだ。



 瞳との会話に戻る。


「よく清さんと話してるけど、何の話してるの?」

瞳と清さんは職場で前後になることが多く、仕事中でもよくコソコソ話している。コソコソ話してるのが少しでも視界に入ると少し目障りなのだ。


「占うの話かな。清ちゃんも私も占い好きだから」


「占いの話するの?かわいい」

陽が瞳に言った。


「あと、一昨日くらいに田山さんと何話したん?」

一昨日、仕事終わり、駅とは反対側の方向のコンビニに行った。コンビニで唐揚げを買い、陽と2人で駅に向かう時に、職場の建物の裏で田山さんと清さんと瞳が何やら話しているのが見えたのだ。何を話していたのか気になって聞いて見た。


「あ〜、あれはね。まず、清ちゃんに瀬戸くんの匂いがキツすぎて席の配置を変えたいって言う話をしていたら、清ちゃんが田山さんに言ってくれたの」


「だよね!瀬戸さん、すごい強い消臭スプレーみたいな匂いの強さだよね」

利樹は休憩時間の度に紙煙草を吸う。恐らくその匂いの対策をしているようだったが逆効果のようだ。



「そう言えばさ、新人ちゃん達とはどう?いっぱい話せた?」

陽が少し話を変えた。恐らく、悪口っぽい空気になるのが嫌なんだろう。


「しゅーちゃんはね。素直で良い子だったよ」

瞳は新人、坂本朱里にもうあだ名でつけて、しゅーちゃんと呼んでいるらしい。


「陽くん達は?瀬戸くんと話した?」


「話したよー。可愛がられる後輩って感じで笑顔も可愛かった」

陽が答えた。


「俺はなんか男に声かける気がしなかったんだね」


職場やプライベートの話をしていると四条駅に着いた。楽しいと時間が過ぎるのがあっという間だ。


京都の街を運転してわかったが、なんか運転が変な人が多い。路駐する車がたくさんあって、そのせいで左車線に入れない。運転の時はほど、真ん中の車線にいる。ここでは、それが当たり前なのだろうか。


「じゃあね。瞳楽しんで来て」


「送ってくれてありがとねー」


四条駅で瞳と別れた


「それじゃあ、映画村行くかー」


「その前にご飯食べようよ」


「昼ごはん何食べる?」

陽が聞いた。俺は何でもよかったのでマクドナ◯ドと答えた。


「えー。どうせならチェーンじゃなくて京都っぽいところにしようよ」


「京都っぽいとこが良いよね。最近ネットで食べたいところ回ってきてん。あっ、ここら辺かも」


天が指をさした。運転をしながらその方向を見るとたくさんの人が並んでおり、列が出来ていた。


「流石にこの列は辞めね?」


「お腹すいた状態で並びたくないな。」


俺と陽は列があまり好きではない。特にお腹がすいている状態では。天は少し不服そうだった。許せ。


「あっ、この辺ご飯屋多いからとりあえず駐車場に止めようよ。そこ左曲がって」


「おけ」

陽が携帯を見ながら飯屋と駐車場の位置を教えてくれた。

その後、 駐車場に車を置き飯屋に向かった。


「京都めっちゃいいね。初めてちゃんと京都を観光するわ」


「あれ先週は?」


「試験だけ受けにいったもんだからあれはノーカウント」


陽は物珍しそうに周りを見回しながら歩いていた。陽の中学校は関西に修学旅行だったらしいが、陽はちょうど病気が発覚して入院し、行けなかったらしい。ちなみにその時のリベンジとして、2週間後に中学の友達とユ◯バに行くみたいだ。中学の友達とまだ繋がりがあるのはすごいと思う。


そんな理由もあり、陽はとても今日の観光をとても楽しみにしていたようだ。陽の楽しそうな表情や天の明るく元気な姿を見て。俺自身も楽しくなってきた。



ここ最近、2人と過ごしてきて自分の感情の純度が上がってきている気がする。 陽と天は楽しいものは楽しいと受け止め、好きなことは好きといい、今の状況を全力で楽しむ。自身のことをそのまま素直に表現する2人は俺にとってとても眩しい存在だ。


「ここのご飯屋さんどうー?」


そう考えていると陽がご飯屋を見つけたようだ。

「あり」


「天、俺の返事の仕方パクるなー

「ハハハハッ」


この3人でいるといつも笑顔でいれるような気がした。仕事が終わるまで残り3か月弱。福知山に来て2週間とちょっと。俺にとってこの2週間はとても濃い時間であった。そして短くも感じた。仕事が終わるまで残り3か月弱。始まるときは3か月間もめんどくさいなと思っていだが、案外あっという間に時間が過ぎていくだろうなと思った。今もこの一瞬一瞬を大切に生きていこうと思った。


「「はやく来てよー」」


俺は、2人の背を追いかけるように足を動かした。

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