第3話 光風霽月 前編

2022年5月20日(金曜日)


いつもより静かな車内から外を見る。

夏に近づくに連れ、外が明るい時間が長くなってきたが今日はいつもより暗く感じる。

ここ1週間、仕事の帰り道も夕飯もいつもかいと一緒だった。


ピコン


LINEの通知音がなった。

海から天と瞳とご飯を食べている写真が送られた。天は言わずもがなあの元気っ子ガールだ。赤渕メガネと歯に銀のワイヤーがトレードマークの18歳の女の子だ。


いつもテンションが高く、周りを元気にする、ショートカットの19歳の女の子だ。そして、もう1人は八方瞳。天から「美人だ、美人」と慕われている。僕たちの2個上でおでこを出したオールバックのポニーテールの髪型をしている女の子だ。なんでも褒めてくれる優しい子だ。


とりあえず【羨ましー!とにかく楽しんできな】と返信しておく。



眼を閉じ、海のことを思い浮かべる。最初、一目見た時からこの子絶対おもろい子だと直感で思った。珍しく僕の勘が当たった。1日目の海は、人見知りが激しくて少し会話に苦労した。けど、2日目あたりからどんどん素を見せてくれるようになって冗談も言い合えるような仲になった。僕のどんなしょうもないボケでも乗ってくれるし、海は天然な部分もあるから話すのがとても楽しい。まだ出会って1週間しか立ってないが、もはや親友と言える仲ではないだろうか。



僕は、色んな人と話した上で人と人との相性がすぐ分かる。だから、昔から友達の恋を叶えるお手伝いをしたり、友達と友達を繋げることが多かった。その友達同士が僕より仲良くなったりすることに少し寂しさは覚えるのは内緒だ。

職場の人とあらかた話してみると天と海は相性が良い気がした。我が親友の面白さを他の人にも知って欲しいと思い、どうやったら天と海が仲良くなるか考えていた。職場で相性が良い人同士がいると全体の雰囲気が話しやすくなるので仕事の風通しも良くなると思う。


相性が良い者同士でいるのが1番いいと思うのだ。自分が1番相性が良いと思わなければ、そっと距離を置いてしまう。我ながらめんどくさい性格だと思う。


そんなことを考えていたら今週の月曜、つまりは4日前の月曜日ちょっとした転機が訪れたのだ。職場で業務を覚えて行く際、3人1組に別れた。その時に、海と天と瞳が同じグループになった。

それをきっかけに、4人でご飯に行こうと誘ったのだ。この日から海と天がよく話すようなった。初めて4人での食事は楽しかった。店に向かう時からホテルに戻るまでずっと笑っていた気がする。天も少し阿保っぽいところがあるから天然な海との会話はすごく面白かった。


それで今日だ。なぜ僕を差し置いて3人でご飯を食べているかだ。それは、僕が日曜にFP3級の試験を京都駅の近くで受けるため、今日から前々泊することにした。そのため、今日の夜、ご飯を食べる相手がいなくなる海を心配し、天と瞳と夜ご飯を一緒に食べたら?と提案した。


3人とも仲良くなって欲しいなと思っていた。

そうこう考えていると京都に着いた。



改札を抜けたら、見渡す限りビル、ビル、ビル。山口とは全然違う景色が広がっていた。携帯でマップを見ながら宿泊するホテルに向かった。

実は、ホテルに泊まるのがすごく楽しみなのだ。福知山のホテルのベットは横幅も狭いのだ。178cmある僕では、寝返りも打てないくらいだった。極めつけには、枕がなんか合わない。寝むり辛い環境な為、前々泊から前乗りすることに決めたのだ。


 久しぶりの1人のご飯に何を食べようか迷う。時間も20時を過ぎている為、気合を入れてご飯屋を探すのもめんどくさい。頭を悩ませながら、とりあえずホテルに荷物を置きにチェックインをした。



1人で食べる夕飯はピザに決めた。ホテルの中でくつろぎたかったから持ち帰りできるものにしたのだ。ちょうどホテルの近くのピザ屋がお一人用の小さいサイズを売ってたのでそれを買った。Mサイズとかは到底1人で食べきれない。3切れくらいでおなか一杯になってしまう。それから、ピザの相棒であるコーラを買った。これで夜ご飯は完璧だ。


久しぶりのピザに心を躍らせながらホテルの部屋に戻った。


プルルルル


ピザを優雅に食べていると電話がかかってきた。


「どうしたの?寂しくなった?」


「よ〜う。俺もう帰るかもしれない」

海からの電話だった。


「何があったの?」


「天達に海は優しくないって言われた。特に陽といる時はって」


「あ〜、なるほどね」


「あと、◯S4が壊れた。テレビに繋がらなくなった」


「帰りたいのP◯4が主な理由だろ?」


「ばれた?けど、天達にそう言われたのショックだった」


「う~ん。女の子達に僕らのノリは少し合わないのかもね」


「そんなもん?」


「ツッコミのお前!とかアホか!とかでも、人によっては不快に感じるからそこらへんは人選びながら言わんとな」


「俺、男子校だったからその感覚わからんわ。 あと、陽はすごく優しいから陽を見習ってとも言われたわ」


「僕、褒められてたんや。嬉しいわ。とにかく暫くは優しめに接してみたら?ノリさえわかってくれればもう自然体に接していいと思うよ?」


「そうしてみるわ」


「あとP◯4はテレビ側が悪いかもしれんやろ?僕の部屋のテレビ貸すから帰るのはほんまやめてくれ」


「わかった。それでつくようになるかな〜」


「つくようになるって。そういえば、明日何するの?」


それから小一時間位電話した。やっぱり友達からの電話はいいものだなと思いつつ、お風呂に入った。ひとまず、親友の悩み事は置いといて試験に頭をむける。ここ一週間海と過ごしてたこともあり、全く勉強していない。とにかく一夜漬けのようにこの日の夜と次の日はしこたま勉強した。


2022年5月22日 (日曜日)


無事試験が終わり、京都を少し観光してから福知山駅に帰る。


ピコン


「何時に帰ってくる?」


海かLINEが来た。


「17時30分」


「福知山駅行くからそのままご飯食べに行こー」


「了解よー」

どうやら海がお出迎えしてくれるようだ。


改札をでたら海がいた。


「なんか久しぶり〜。背伸びた?」


「いや、それたまに会う親戚のひとぉ。ほんとたった1日ぶりなのに久しぶりな感じするな」


海は小ボケも拾ってくれるから好きだ。最近、僕らの間で粗品のツッコミの真似ブームがきている。面白くないイきり大学生の様で周りからも冷ややかな眼があるかもしれないが当人たちが面白ければいいと思ってる。


「今日は何系食べよっか」

携帯で世界地図を見せながら海に聞く。


「中国かな」


「じゃあ中華かぁ」


「中華かちゃうねん!どこに世界地図広げてご飯決めるやつがおるんや」


 何にでもツッコんでくれる海は優しいなぁと思いながらこの日は和食を食べた。


「お腹一杯や。やっぱり和食は最高やな」


「そうやね。ここなら週7でこれるわ」


帰り道、いつものように海は電子タバコを吸っている。僕が食べるの遅いから本当は早く吸いたいんだろうなとは思う。けど、律儀に食べ終わるのを待つ彼は「かわいいとこあんじゃん」って思う。


「そういえば、女の趣味のカフェ巡りって謎じゃない?」


バカリズム見たいなこと言うじゃん。

海が帰り道にあるカフェを見ながら言った。


「雰囲気が好きとか、話す場所が欲しいとかやない?知らんけど」


「そんな話すのが好きかね。 ほぼ無趣味じゃないんそれ」


「自己紹介で固まってたやつのセリフとは思わないね」


「うるさ。けど、男同士でカフェ行くことってなくね?俺の周りはすぐタバコ吸いたくなって店出るし、飲み物も秒でなくなるし」


「うーん。確かにタバコ吸う人にとっては辛いかもね。百聞は一見に如かず。カフェ入ってみない?」


「あり」


こうして、某macb◯okを開いて飲み物を飲みたくなるお店に入った。


ちなみに僕の地元、山口市では2017年に某、注文がやたら呪文のように聞こえるお店は2017年に初めてできた。県庁所在地最後の出店が山口県だったそうだ。どれだけ田舎なんだ。 その当時は忘れない。大学生1年生の夏休み実家に帰省している時だった。この時まだ某チェーン店1回も行ったことがなかった。


山口市内初の出店、しかも実家はその近く、1番最初に行かない手はないと友人4人で初入店をする計画を立てた。開店は7時30分、余裕をもって5時に並ぶことを決めた。問題はその時間に起きれるかどうかだ。この時、集まった友人4人は僕含め、中学時代は遅刻ギリギリ常習犯だったため、早起きは無理だ。そのため、友人の家でオールすることになった。


ゲームをしながら時間を潰し、5時にお店に車で向かった。5時なのに薄っすら空が明るくなっており、夏を感じた。5時5分、お店の隣の公園の駐車場に車を止める。お店の前を既に10人以上の列が出来ていた。


「いや、こいつら暇かよ」

並んでいる人を見て捨て台詞を言う。


「1番じゃなきゃ、意味ないよな」

2位じゃダメなんですか?


「ってか俺たちここの公園に野球しに来ただけだし」

精一杯の言い訳


「並んでるやつは馬鹿だよ馬鹿」

負け犬の遠吠えだね。


こうして、小言を言いながらもなぜか車に積んであった野球道具を持って公園で朝5時から野球をした。


それから家に帰った時、山口に初のス◯バができたことがニュースになっていて、あの行列の1番最初に並んでた人がインタビューされていた。


高校時代の後輩だった。

急いで後輩に連絡をして何時から並んでいたか聞いた。


【2時からです】


そりゃ勝てるわけない。こうして僕の初スタ◯が延期した。ちなみにこの1年後、好きだったサークルの先輩と初◯タバに行くのはまた違う話だ。



余談はさておき海とス◯バに入った。僕のお気に入りは甘々なやつだ。王道のフラペチ一ノ+チョコシロップを追加、クリーム多め、アーモンドミルクに変更。そして、サイズはもちろん1番大きいやつだ。皆にこれ頼んだら引かれるけど大は小を兼ねるからいいと思う。いちごにつける練乳をそのまま直で一本飲めるくらいの甘党なのだ。砂糖しか勝たぁん!


そして、海は注文にすごい手間取っていた。かわいい。

メニューの覧、横文字がいっぱいあるねぇ。どれ注文したらいいか分からないねぇ。サイズもなんて読むか分からないねぇ。かわぁいいねぇ。


「コーヒーブラックありますか?サイズは1番小さいので」


こいつ逃げやがった。


注文を受け取り二人でソファに座った。


小1時間話した頃だろうか海は、言葉をタメ言った。


「カフェも楽しいもんだね」


「悪くないでしょ」

僕は、ドヤ顔で言った。人とおしゃべりするの楽しいよね。同じ気持ちで良かった。1時間話しても、話足りないものでその後も話をしていた。


「そういえば、明日新しい人くるでしょ、2人」


「そうだったっけ?」

海は、あんまり周りに興味がないからか、田山さんの話を聞いてないだけなのか、その情報を知っていなかった。


「若い子が男女でくるんだって、仲良くなれたらいいね。第1印象大事よー。シコ紹介失敗しないようにね」


「自己紹介いじんな」


「服交換していく?僕が海っぽい黒Tみたいなので行って、海がスーツで行く、みたいなのどう?」


僕は面接の時、田山さんにオフィスカジュアルくらいの服でっていわれたからスーツや綺麗目な服で職場に行っていた。海は服装のことは何にも聞いていなかったらしい。だから黒のスラックスに黒のTシャツととてもラフな格好をしている。スーツと黒Tと印象が真逆な為、新人2人に海は真面目キャラで僕は不真面目キャラで覚えて貰おうぜっていうしょうもないいたずらだ。


「あり。それめっちゃおもろいやん。そしたら伊達メガネも欲しいな。」


「そこのユニク◯行こ」


「よっしゃ、行こう」

こういうしょうもないイタズラにノリノリなところが親友たる所以なのかなと居心地の良さを感じる。


ユニクロの店内を散策すること10分。黒淵のメガネ兼サングラスを買った。どうせなら日常使いができるものな上、海は日光に弱いためサングラスを買ったそうだ。ちなみに僕も日光に弱い。


明日の皆の反応が楽しみだなと思い、ホテルに帰った。


5月23日(月曜日) 12:00


お昼いつもの公園で海と石田さんとご飯を食べていた。

男は田山さんとこの3人しかいなかった為、1人にするのも悪いなと思って声をかけたのがきっかけだ。初日のご飯が断られたので声かけるのは迷惑かなと思ったが、意外なことにノリノリでキャッチボールに参加してくれた。


石田正さん。42歳。

スゴク クチョウガ テイネイ タイイクキョウシノミタメヲ シテイル

セイタイシ ポケモン 


派遣は実に2回目らしい。本職は整体師の方で大阪にお店もあるらしい。自身の体も整えるのが得意なのか30代前半に見える若々しさだ。目もギラギラしている。少し癖が強い人だ。


「そういえば、井上さんの自己紹介おもしろくなかった?」


「あぁ裕子さんの?すごかったね」


「井上さんね、びっくりしたね」


海が僕と石田さんに尋ねた。話題にでるほど井上裕子さんの自己紹介はびっくりした。今日の10時30分頃、西村さんが新人を引率して職場に来たのだ。そこから福知山にきて2回目の自己紹介が始まった。


まずは、新人2人から

「坂本朱里です。今年で21歳です。好きなものは、ダンスと辛いもので、2年間韓国でダンス習っていました。よろしくお願いします」


名前も髪色もきれいな子だった。髪は綺麗な銀髪でショートカットの女の子だ。 職場にド派手な髪色で来たなぁ、と思ったけど綺麗なのでセーフだ。韓国について後で聞いてみよ。

次に自己紹介をしたのは、ザ・後輩感溢れるニコニコした頭を七三分けの頭をジェルでピシッっとしている男の子だ。


「奈良県から来ました瀬戸利樹です。歳は19です。えー、好きなものはラップです。よろしくお願いします」


ラップ好きなんだ。あんまり触ってこなかったジャンルだからおすすめ聞いてみよー。あと、職場に慣れてきたらキャッチボール誘ってみよ、と考えていると元居たメンバーの自己紹介が始まっていった。5人目くらいの自己紹介で


「井上裕子です。と、東京から来ました。年齢はひ・み・つです。」


この時点で何とも言えない空気が流れていた。


「あ、あと精神年齢は21歳なのでお、お二人とも気軽に話しかけてください」


「プハッ」


予想外の自己紹介に吹き出してしまった。裕子さんはあがり症だ。そんな彼女の精一杯の新人へのおもてなしだと思うとすごいと思う。裕子さんの自己紹介で新人も職場のゆるい雰囲気を感じたのか表情が軽くなった。裕子さんは頑張ったなと心の中で拍手をする。


そんな、僕の心と相まって周りはとても苦笑いをしていた。ドン引きに近かった。裕子さんは40代から50代の女性だ。童顔で肌がとても綺麗だからか、はたまた言動が幼すぎて若くは見えるが精神年齢21歳はないだろとでも思っているのだろう。


初回の自己紹介の時も微妙な空気が流れていた。


「い、井上裕子で、です。ね、年齢は内緒です。え、えっとあがり症でこういう場所苦手なんですけど、一生懸命喋ります。しゅ、出身は東京で、東京から来ました。さっき瞳ちゃんがワーホリ行っていたと言ってたんですけど、私も行ってた時がありました。わ、私はオーストラリアに行って―――」


こんな調子で田山さんからのストップがでるまで10分くらい自己紹介をしていた。あがり症ながらも、自分のことを知ってもらいたい、みんなと仲良くなりたいという気持ちから早口ながらも長尺で喋ったのだろう。可愛らしいところもあるなと感じつつ、10分も1人で話すのはすごいなと思った。ふと、周りを見渡していたら引いていた。

僕は、個性が出たいい自己紹介だと思ったが、周りを限りそうではないらしい。僕はこの時、自己紹介は無難であるべきだと学んだ。



以上が回想だ。



「あの自己紹介、度胸ないとできないよ?すごくない?」


「まぁ、そうやけど……」


「そういえば、2人とも裕子さんと話したことあります?」


「僕は、1回追いかけられましたね」 5


「ええぇ、何があったんですか?」


石田さんが衝撃的なことを言った。


「仕事終わりに駅に向かっていたら急に後ろから走ってきて、連絡教えてくださいって」


「まじっすか」


「へー、祐子さん積極的ですね」


「教えれないです。って言っても食い下がらなかったので走って逃げました。それで後ろ振り返ったらあとを追いかけられてましたね」


「恐怖体験っすね」


「教えるって選択肢はなかったんですか?」


「僕、結婚してるんでね。そういう目で見られても困るしね」


既婚者と聞いただけで石田さんの信頼度が爆上がりした。ごめん、石田さんクセのある人って言って。住宅の営業でも店長が言ってた。娘が3人いるっていったら無条件で客から信頼を得られるって。このことだったのか。


「そういえば、整体師やってるんでしたっけ」


「そうそう、奥さんもそっちの関係で大阪で働いていて」


「へー、そうなんですね」


「コロナがなければ今頃、中国で整体をする予定だったんだけどね……」


「え、すごい!」


「中国ってかなり本格的ですね」


「中国に習いに行ったときもあったからね」


「実は、俺最近身体の調子が悪くて」


「じゃあ、一回見てみようか。いつが時間空いてるかな」


「俺たちはいつでも暇ですね」


「じゃあ、明日仕事終わってから見てみようかね。ちなみに今立って貰っていい?」


ご飯食べながらボーっと二人の会話を聞いていたらいつの間にか正さんから海が整体をうける流れになっていた。確かにここ最近、僕もだけど海も体調が悪い時。整体で少しでも海の体調がよくなるといいなと思いながら意識を会話に戻した。


「なんかベットが合わない気がするんですよね」


「あぁ、あのベット悪いよ。真ん中が異常にくぼむから身体が悪くなるよ」


「なんかそんな感じしました。あと、なんか枕が合わないっす」


「あぁ、あれね」

半笑いしながら正さんは答えた。


「あれはねぇ、柔らかすぎて。あれ使うくらいなら枕ない方がマシだと思う」


それを聞き僕と海は顔を見合わせた。やっぱり枕悪かったんだ。もう今日から使ってやんね。


祐子さんの新たな1面も分かったし、正さんのすごい1面も分かったのでとても充実した昼休みとなった。あとはあれをするだけだ。


「よしっ!キャッチボールしましょ!」


ゆったり流れている雲の下、海と正さんとまた1つ仲を深めた。

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