跋文、今回の振り返り
家に帰ってから、夕食を作って食べて、その後順に入浴して、歯を磨いて、でその後。彩理が二つ横並べになったベッドの窓側にある方に寝転んで、静かな寝息を立てながら惜しげもなくその珠の寝顔を晒しながら(盗み見るようなことはしないが。何故なら珠だから。僕のような下賤の人間が簡単に見れていいようなものではないのだ、彩理の寝顔は)眠りについた後、僕にはやることがあった。これは日課であった。
ちなみに家には僕と彩理の二人だけだ。一応、保護者──肉親ではないので、こういった表現になるのだが、別にそれは僕たち二人が悲痛な境遇に置かれている、とか言うわけではなく(まあ悲痛と言えば悲痛、悲惨と言えば悲惨だが、それは今この家に両親がいないこととそこまで関係はない。僕は彼らにも責任の一端があると思っているが、彩理はそうは思っていないだろう)、僕たち二人は、故郷の方針で、高校入学と同時に、僕の叔父さんの家──つまり、ここ、に預けられていた。
故郷の、ふざけた山奥の寒村。そこで生まれた子供は、しきたりとして、少なくとも高校三年間、街に出て親元を離れた暮らしをする、ということになっていた。
で、そういう経緯で今、僕たち二人の保護者、という立ち位置に置かれた人間である叔父さん。彼は一応、名目上存在している。──ただ、事実上、僕たちの生活において、その影響力は、ほとんど皆無と言って差し支えはない。つまり、彼は、ほとんど家に帰ってこないのだ。それで、家には僕と彩理の二人だけ、という部分に帰結する。
職業すらよくわかっていないのだが、冒険家だとかなんとか言われているのを、以前小耳に挟んだ気がする。それすら本人が自称したわけではなく又聞き、噂、流言飛語の類なので、まあつまり本当に信憑性は無い。正体不明。それが、僕が叔父さんに対して抱いている印象であり、おそらく大抵の人間にとって事実となる、彼のステータス、魅力と言えなくもないが、それ以上に、原義、社会的地位、というものであった。
──それはまあ、さておいて。僕の日課の話に戻ろう。日課。日記だ。日課が日記です、なんてダジャレみたいであまり言いたくはないのだが、とはいえそれが僕のステータス、男子高校生が毎夜日記をつけているというのを魅力、と捉えるかどうかは割と個人差が出そうな部分ではあると思うが、それはそれとして、状況、現状、であった。
僕は毎夜日記をつけている。それがどう言った内容なのか──それこそが、今回の本題。今日起こった数々の出来事を振り返って、整理して、そして、そこから何かを見つけ出す、ということこそが、ともすれば僕の人生の本懐、と言うべき事柄だ。
彩理が、僕に、それ以外に、何を聞き、何を話し、何をして、そして何に触れたのか──それを振り返り、整理して、そこから何かを見つけ出そうとすることが、彼女を取り巻く諸問題を、一切合切取り払うための、一助になる。──それを期待して、僕は毎夜、彩理が寝静まった後の寝室の、窓と反対側の壁に沿って設置された、僕用のデスクで、小さな卓上ライトの灯す灯りを頼りに、ちまちま日記をつけているのである。
そしてここでは、僕がつけているその日記の内容を、断片的にではあるが、公開しようと思う。
元来、そういう趣旨の跋文である。
“ 4月 ××日 木曜日
朝。
起きてからいつも通りの挨拶。今日は目覚めが良かったらしく、空を見ると言ってベランダに向かった。
・僕の挨拶
↓
「おはよ……空見てくるね」
↓
朝食ができたら呼ぶ、と呼びかける
↓
「わかった」気怠げに。(僕が思ったより目覚め良くなかった? 寝起きのテンションと行動に相関はない?)
朝食。
いつも通り。
──
──
昼食時。 ↓ほぼ
疑問点はあったが解決済み。
盗み聞き、という表現について→やはり遠慮だと思う。
──
──
放課後。
大事!→→「私たちが見つけたあの星もいつか誰かの救いになってくれるかな」→何か(怪異に襲われるようなことが)あったのかと聞く→「そういうことはなかったよ」「ただ」←何かを続けようとしていた。
脱出後、依頼を知っていたことと繋がる?
依頼を知っていた=依頼を受けてと頼もうとした? けど遠慮? 一度言わないことを選択した?=「なんでもない」んん、と迷うようなうめきと同時。
遠慮して直接頼めなかった=その発散として「あの星が救いになってくれるかな」を言った?
頼みたくても頼めなかった? 頼まないようにした?
誰にも頼れないから、助けたい誰かを、「星が助けてくれる」と信じ込むことで受け入れようとしている?←引き続き要考察
“可能性“彼女の妄信は、僕が依頼を受けないことを受け入れるための代替?
脱出後、依頼を受けてと言い直した(? ただの後に本当に頼もうとしていたのだとしたらそう)ことについて→怪異の脅威を改めて目の当たりにしたことで感情移入度が高まったから気持ちが抑えきれなくなった?
逆説的に→一度は、或いは僕が気付けていないところで何度も、我慢している? ←だとしたらそれは僕のせい
彼女だけを助けることは、彼女を救うことに繋がっていない?
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