第4話 既視感と親近感の狭間に
「……」
「どうだ?」
「…………」
「ど・う・だ?」
「………………ん?」
耳を疑った。とても疑った。非常に疑った。半端なく疑った。
「……軍?」
「そうだ」
「……軍?」
「そ・う・だ」
「……軍?」
「やっぱり耳の病院行く?」
「それは大丈夫です」
「じゃあ質問に答えて欲しいなぁ」
「……ちょっと待って?」
「質問で返さないでよ……いや質問じゃないかな。『?』が付いてるだけか」
「それ『はてなまーく』じゃなくて『くえすちょんまーく』って言うんですよ」
「いいから質問に答えて……」
軍――か。
既視感というか、親近感が湧くような気がした。
有り得ない。過去に軍に触れたこともないし、触れたくもない。なのに、なぜ。――いや、きっと気のせいだ。そう信じたい。
「一旦聞いていい?」
「仕方ない。いいよ」
「なんで……なんで私なの? 軍とか、わからないんだけど……」
「そうだね。それを先に伝えなきゃね」
正直言って、本当にわからない。
なぜ自分なのか。実力も伴っていないだろうに。そもそも軍とはなんなんだ。私が入っても……できれば入りたくないんだけど。
妙に感じるこの気持ち。もやもやが止まらなくて。頭痛は起こらなかったから、それはまだ良かった。
「君は、帝立魔剣術養成学院の入学試験を受けたよね。結果は聞いた?」
「はい。私は特別不合格者だって……」
「そう、正解。じゃあ、特別不合格者の意味は知ってる?」
「意味?」
「そう、意味」
「知らないよです」
知らないよですってなんだよ。……そんなことはどうでも良くて。
意味なんか聞いたことがない。ただ単に特別不合格者だとだけ告げられ、その詳しい詳細は聞いていない。
いや、聞いてたかもしれない。その場合は忘れた。
名前に〝特別〟と入っているから、何が特別な意味があるんだと思うけど……何もわからない。
「知らない方がいいのかもしれないけどね……」
「え? 今なんて……?」
「いや? 何もない」
考えてたら聞こえなかった。気になるけど仕方ない。
「やっぱり軍に入る君には言っておいた方がいいか。特別不合格者の真意ってのを。いい? しっかり聞いてね」
どきどき――しない。
わかってます。私が弱いからですよね。そんなことなのにわざわざ城に呼ぶ必要ありますかね?
「実はね……特別不合格者はね……その年の一番可愛い人に与えられる称号なんだよ」
「やっぱりだよね……って、え?」
その年の……一番可愛い人?
有り得るなら一番強い人か、一番弱い人かなと思ってたけど、一番可愛い人?
「いやいや、おかしいでしょ!」
「そう?」
「そうだよ!」
おかしい。おかしいんだ。そんなわけがないんだ。
これこそ何か隠してるだろ。怪しいだろ。
まあ、可愛いことに関しては否定しないけど。いや否定したいけど。
「はぁ……まぁ、言いたくないならいいけどさ」
てか自然に話し方が楽な感じになってる。相手は陛下だよ。女帝陛下だよ。こんな話し方でいいのかな。相手が了承(むしろ勧めてくれてる)っぽいし、気にすることでもないか。
「言いたくないわけじゃないよ。だってこれが本当だからね~」
「はぁ……わかったよ」
ため息しか出ないんだけど。
ほんとに。
「じゃあそろそろ軍について説明するかね」
「……聞かない」
「えーなんでよ」
「聞きたくないの!」
「……お金貰えるよ?」
「聞きた……いです」
「ちょろ」
「ねえ陛下、戦わないけど軍に入ることってできる?」
「できないことはないけど……嫌だよ」
「なんで!?」
「なんでって、私は君の実力を評価して軍に勧誘したからだよ。……いや軍師でもいいか?」
私の実力的にぎりぎり合格予定だったはず。そんな私の実力を評価して……?
可愛い以外の理由があるとして、私は特別不合格者になったからそれが何か関係しているのだろうか。軍に入れるほどの何かがあったから、名目上だけ特別不合格者になって入学させないようにしたのかな。
わからない。
「給料は、一般兵の数倍は出す。お金の心配をする必要はない」
「だとしても戦わなきゃなんでしょ? だったら学院に合格して寮に入ったほうが良かったよ」
「大丈夫。軍にも寮はある」
「そうじゃなくて……まぁ、いいか。住む場所とお金さえ準備してくれれば」
……あれ?
嫌だったはずなのに。入りたくなかったはずなのに。なんか、口が滑っちゃった。
取り消し! って言おうとした時には遅かった。
「よく言った! 歓迎するよ。ようこそ、リーセルカ帝国軍へ!」
陛下――ことヴァルトニアは思った。
――この子は絶対に手放してはいけない、と。
そう、彼女だけが、特別不合格者に交わされた秘密を知っていた。
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