第3話 いざ帝城へ

 今、目の前に女帝陛下ナウ。

 ……これって意味重複してるますよね? 間違えました。繰り返します。

 今、目の前に女帝陛下がいます。緊張がやばいです。やばすぎて心の中の声も敬語になっています。重複した意味の言葉も使っちゃってます。


「へ、陛下がなぜここに……?」

「なぜかって? 簡単じゃないか。君を迎えに来ただけさ」

「私を、迎えに?」

「そうだよ。私が呼んだ客人だからね。人の上に立つ者として当然の行いだよ」


 美人で優しいとか、完璧超人すぎませんかね。天は人の上に人を造らずっていうけどさ、さすがにこれは例外ですよ。


「私だって君と対等に話したいんだ。敬語は使わなくてもいいんだよ」

「わ、わかった」

「うん、それでよし」


 わかったんだけどさ、女帝陛下に対して敬語を使わないって、ちょっと気まずいというか、申し訳ないというか、視線が痛いんだよね。


 ひそ。

 ひそひそ。

 ひそひそひそ。

 ぴよぴよぴよぴよ。


 ……ってもう、うるさいうるさい、何この階段。それと『ぴよぴよぴよぴよ』って何? ひよこでもいたのかな……あ、そういえば私は何も知らないひよこでした。私の声じゃなかったから、きっともう何人かひよこが混じっているのだろう。

 と思っていたらいました。坊主頭の上にひよこが。


「黙れ」


  一瞬で場が凍り付いた。ひよこも小さくなっちゃった。物理的にじゃなくてあれね、比喩ね。

 続いて陛下がギロ! と睨む!

 キター! 陛下の鋭い目!

 あとちょっと〝えくすくらめーしょんまーく〟ってやつ付けすぎたかな。


「さ、行こう、リアナ」


 陛下が手を伸ばしてくる。

 そして私は流されるままに手を取った。

 そして……何もできずに引っ張って連れていかれた。


 今は城に向けて一緒に歩いてます。


「えっと、なんで私の場所がわかったの?」

「話すと長くなるけど、大丈夫かな?」

「いややっぱやめときます」

「そっか。……手紙に自分の魔力を混ぜて……」

「だから、やめときますって」

「あはは、ごめんごめん」

「あはははは、はは」


 ごめん。話についていけないんだ。どう接したらいいのだろうか。そして私は苦笑い。

 本当に気まずいんだけど。陛下と肩を並べて歩く。この行為自体有り得ないことだった。

 そういえば、陛下ってどんな名前なんだろう。聞いたこともなかったし、聞いてもいなかったし、今暇だし。タイミング的にはぴったりなはずだ。


「あの、陛下」

「なんだ?」

「陛下の名前を聞いてなかったなと思って。教えて……ほしいな?」

「……」


 黙ってしまった。教えたくないのだろうか。もしそうなのだとすれば、何か理由があるのだろうか。

 別に強制したいとは思っていない。ただ親交を深めるためにと思って言ってしまった。良く考えてみれば、相手は女帝陛下だ。少しは口を慎まなければならないのだろう。

 正直に言うと、初めはそのつもりだった。ただ、会ってみるとすごく可愛くて、若くて、話しやすくて。だからうっかりしてしまった。


「ごめんなさい……言いたくないのに無理矢理聞こうとしちゃって……」

「何を言ってるのだ? 言いたくないといつ言った?」

「あ……」


 確かに、少し黙っているだけだったけど。


「じゃあ、また城に着いたら教えようかな」

「あ……ありがと」


 陛下がにこっと笑った。

 そして、遠くにあった城がどんどん近くなってきた。ちょっと足が疲れてきた。馬車とかなかったのかな。



 ◇



 お城に到着した。今は大きな扉の前。でかい。豪華。お金持ち。


「おかえりなさいませ。陛下、そちらは?」

「ああ、この子はリアナ。リアナ・フィアローズ。私が招いた客人だ」

「この前言っておられた方ですね。お入りください」


 少しあたふたしながら流されるままに中に入る。

 煌びやかだ。一つ一つの家具や置物全てに気品さを感じる。廊下に敷かれた赤いカーペットや、天井で輝くシャンデリア。こんなところに来てもいいのかな。


 その後、応接室に案内された。


「さ、座って座って」

「はい」


 この椅子もふっかふか。さすがお城。皇帝の城だから帝城かな。

 陛下の顔と雰囲気が急に真面目なものになった。そろそろここに呼ばれた理由と名前を教えてくれるのかもしれない。

 ごくりと息を呑む。


「まずは名前だね。……時が来たら教える」

「は? はぁ……わかった。それで、私をここに呼んだ理由は?」


 結局教えてくれないのかよ。

 少し考えてから、陛下は口を開いた。


「本当に短く言うよ。私は、君の才能に驚いたんだ。私よりも凄い才能を秘めている。ここで提案だ。――軍に、入らないか?」

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