第5話 おばあちゃん


「花澄、本当に大丈夫?また無理そうなら言ってね」


「心配してくれてありがとう、鈴ちゃん。私は大丈夫だよ」


「そう言われても不安なのよね……。無理な時は誰かに相談するのよ」


「鈴ちゃん、本当にありがとう」



 入学式があった日の帰りに、私は鈴ちゃんと話をしていた。それは、入学式の後の話だった。


 なお、私は入学式で言われた諸連絡を後日言われるとの事。



「それにしても、今日はごめんね、花澄」


「ううん。気にしないでいいよ。なんか鈴ちゃんがしゅんとしているの似合わないからキリッとしている鈴ちゃんに戻って?私そっちの鈴ちゃんが好きだから」


「花澄……。わかったわ。でも、すぐには切り替える事は無理よ」


「分かってるよ。でも、少しずつでも笑ってほしいなぁ」


「……ねぇ、花澄。私は花澄が転校した理由が分からなかったけど、触れられたくない話題は触れない方がいい。私はそう思っているのよ。でも、今回みたいな事が起こらないためにも、私に共有してほしいよ。触れてほしくない所を教えてくれたら、話題をそらすから」


「鈴ちゃん……。私は、鈴ちゃんの事は信用しているよ。鈴ちゃんの言葉が本気な事も分かる。でも、私が前に進まないとダメな気がするんだ。今はまだ話せない。それが私の答え、でいいかな?」


「……今はまだって事はいつか話すって言うことね?」


「うん。私が前に進めたら、話す時だと思う」


「……じゃあ、待つわよ。その代わり!絶対話してね!」


「うん。分かってるよ、鈴ちゃん。……じゃあそろそろ帰ろうかな」


「こんな時間までごめんね。次は、気をつけるから。じゃあ、またね」


「うん。またね」



 私は家に帰る。しばらく歩いて、家の明かりが見えた。家の前まで行くと、玄関前で人の影があった。



「花澄ちゃん、大丈夫だった?」


「おばあちゃん?大丈夫って、何が?」


「入学式の事よ。学校から電話があってねぇ、花澄ちゃんが倒れたって聞いたからあたしゃびっくりしたよ」


「あー、ごめんなさい」


「まぁ、無事そうで良かったわ。花澄ちゃんまでいなくなると……。って考えただけでゾッとするからねぇ」


「心配かけてごめんね、おばあちゃん。……そうだ、おばあちゃんのおすすめのお菓子って何かある?今日倒れた時に、クラスメイトに手当をしてもらったから、そのお返しの菓子折りを持って行きたいの」


「うーん、あたしのおすすめのお菓子ねぇ。花澄ちゃんちょっと待ってくれる?」


「?うん」



 そう言うと、おばあちゃんはどこかに電話をかけ始めた。その間に、家の中に入って手洗いうがいをした。再び家の玄関前に戻るとおばあちゃんはまだ電話をしていた。



「そう!そうなのよ!だから、どら焼きをお願いしてもいいかしら?」


「〜〜〜ー、〜〜」


「ありがとうねぇ。後でお代払うから」


「〜〜〜〜〜ー、〜〜〜〜ー」


 ピッ


「あっ、ちょっと!払うって言ったでしょ?!」


「おばあちゃん、揉めてるの?」


「あら、花澄ちゃん。違うのよ。きねやのどら焼きを予約しようとしたら、何故かお代はいらないって言われて切られたのよ。代わりに花澄ちゃんの話を聞きたいって」


「え?きねやって、高級どら焼き店じゃなかった?それをただでくれるって、おばあちゃん、どんな人と知り合っているの?」


「あら?高級品なの?きねやの知り合いは、きねやの会長様の奥様と知り合いになっているけれど、どら焼きは安いって言ってたわよ?」


「1個1200円するどら焼きは決して安くない。その上、1度ハマると沼のように抜け出せなくなるって、聞いた事があるのに、よくそんなお偉いさんと知り合えたね……」


「やっぱり、払った方がいいかしら?」


「個数にもよるけど、払った方がいいかも。さすがにそんな高級品が私の話題だけでチャラにできるほど世の中甘くないし」


「そうねぇ。それなら、話が平行線にならない限りは払う事にするわ」


「おばあちゃん、そこは何としてでも払って?確かに、お金いらないって言われた時におばあちゃん、お金返されがちだけど」


「何をしても返されるのよねぇ。まぁ、今回は粘ってみるわ」



 おばあちゃんは、毎回とんでもない人と知り合いになっているのだが、今回も判明したのは、きねやの会長の奥様と言うとんでもない人だった。


 私達は一般人だけれど、おばあちゃんは財閥の知り合いが何人もいる。生活に必要な物も、おばあちゃんがいなかったら全部実費で払わないといけない。


 それが当たり前だけど、おばあちゃんがいるから、むしろ冷蔵庫とか洗濯機は買わないでもらう方が当たり前だと思っていた。


 ……まぁ、一般の感覚を身につけている今、おばあちゃんが以上なだけだとわかった。

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