第4話 手当


 私が倒れた後、私は夢を見ていた。


『花澄は友達が多いのね。その方が良いと思うわよ。友達は、多いに越したことはないから』


『そうだな。花澄は俺たちの自慢の娘だな』


『じまんって、なあにー?』


『自慢って言うのは、すごく良いって事よ』


『そっか!じゃあ、わたしにとっては、おとうさんとおかあさんがじまんー!』


『あらあら。嬉しい事言ってくれるのね』


『そうだな。俺ももっと頑張るか。天使の笑顔が見たいしな』


『うー!』



 ああ、あの頃は楽しかったなぁ。でも、もう遠いなぁ。


 場面が切り替わる。あれは、我が家に入ってきた空き巣だった。


 空き巣は、何故か分からないけれど、包丁を持っていた。どうやら、我が家の包丁らしい。


『え……』


『おい、ガキ。殺されたいか?』


『花澄、逃げろ!』


『花澄、あの窓から警察の人達の所に行って。早く!』


『おかあさんたちは?』


『大丈夫よ。あとから追いつくわ』


『うん、わかった』



 幼い私は、ただひたすらに走って、警察署に行き事情を話した。そして、警察が動いて、家の前に着いた時は遅かった。



『お、かあ、さん、おと、うさ、ん、へんじ、してよ』


『犯人確保しました』


『うっ……。ううっ……』



 こうして、私の楽しかった日々は、突然終わりを迎えた。この事は今でもたまに思い出す。


 そこで私は目を覚ました。よく分からない場所にいた。


「あれ……。ここどこだったっけ?」


「目が覚めましたか?」


「賢くん?……そうだ、私鈴ちゃんと話してて倒れたんだった。あれ?どうして賢くんがいるの?」


「運ぶ時に呼ばれたので、北村さんと一緒に運びました。何か怖い夢でも見ていましたか?」


「……ううん。見てないよ」


「そうですか?有村さんが心配していたので、声掛けに行っていいですか?」


「うん」


「わかりました。では、一旦退出します」


「ありがとう」



 私は、やっぱり賢くんの事をどこかで見たような気がした。どこで見たか、覚えてない。覚えていたら、良かったのにな。


 しばらくして、鈴ちゃんがやってきた。心配している顔だった。


「ごめんね、花澄。私無神経な事言ったんだって、花澄が倒れて気がついた。ホントはもっと早く気がついた方が良かったのに」


「ううん。私だって倒れたからお互い様だよ。それに、誰にも話してなかったから、鈴ちゃんが知らない間に傷つけたって思ってもおかしくないし」


「花澄……。わかった。許してくれてありがとう」


「うん」



 私が倒れていた間に、鈴ちゃん達新入生で入学式をやった。その間、賢くんが手当をしていたらしい。


 腕を打ったらしく、包帯が巻かれていた。利き腕の左腕じゃなくて良かった。後で賢くんにもお礼しないとな。



「ん?じゃあ、賢くんって、入学式……?」


「参加していないよ。教師が忙しくて、手が空かないからって、生徒に白羽の矢がたったけれど、交代制にしようとしていたよ。でも、色々来ると休めないだろうから、生徒に立候補制にしてもらって1人に絞った結果、小西しか手を挙げていなかったから」


「ヒェッ。申し訳ない事したなぁ。賢くんの親御さん用にも菓子折り持って行こうかな」



 そんな会話をした後、私達は建物を出た。途中から察してはいたけれど、私達がいたのは病院ではなかった。


 なんでも、入学式は別の建物を借りたのだが、その建物の空き部屋だった。

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