22話 どきどき!イケメン少年の正体

そこには、齊藤の姿があった。

 

「ニシちゃんから離れて! ラブ・サンダー‼ 」

 

古賀の放った攻撃は、齊藤目掛けて、一直線に走る。しかし、齊藤はその攻撃を交わした。その姿を見て、古賀は確信した。

 

「あなた、齊藤君じゃないでしょ! あなたは一体だれなの! 」

 

齊藤から張り付けられた笑みが取れる。ゆっくりと黒いモヤが溢れ、渦巻いていった。徐々に齊藤は色を変え、形を変えていった。モヤが晴れた頃には、金髪の少年が佇んでいた。

 

「リーベル…。」

 

齊藤の姿をし、古賀を陥れようとした犯人は、リーベルだった。

 

「なんで、あなたが…。」

 

「よく、齊藤が怪しいって気づいたね。君はもう少し鈍感だと思ったんだけど…。」

 

「ずっと違和感はあったよ。川北さんにも古賀と齊藤が話している姿を見たって話してたし。でも、齊藤君は古賀のことあまり良く思ってないから、影で古賀の悪口とか何か陥れるような言葉を告げててもおかしくないって思ったんだ。だけど、古賀とニシちゃんの喧嘩の仲裁に入ったことで、さらに違和感が増した。だって、おかしいもん。齊藤君は自ら人の喧嘩の仲裁になんか入ったりしない。むしろ黙って静観するタイプなのに。」

 

「ふーん、なら、古賀は齊藤の人格に問題があるの、分かっていたんだね。」

 

黙って頷く。

齊藤は、古賀でからかって遊ぼうとしていた。


それだけでなく、神崎やその他の女の子達にだって酷いことをしてきたような人間だ。最低だと理解していた。理解していたから、あまり関わりを持とうとしなかった。今回はそれが仇となった。仮にリーベルが丹心川に化けていたら、一発で分かった筈だ。

 

「どうしてこんな回りくどいことをしたの? 」

 

「回りくどい? 僕はそう思わないよ。君の周りにはいつも負の感情を持った少女達が多くいる。でも、本当の君の姿を見て、少女達は正気に戻る。だから、正気に戻らせないように、周りの人間に化けて君の評価を落とす方法がいいと考えたんだ。」

 

「古賀の周りの人間に化ける理由は何? そもそも古賀に化ければいいでしょ? 」

 

「僕は魔法少女にはなれない。光が溢れる人間や物体には化けられないんだ。」

 

「で、でも、川北さんは確か、古賀と齊藤君が話してる姿を見たって言ってた。」 

 

「もう一人は僕じゃない。君の形をした置物だよ。その証拠に、川北が見た古賀の姿は後ろ姿だったはずだ。」

 

齊藤に化けた理由と、その方法は理解した。しかし、肝心なことが聴けていない。古賀は頭の隅で理解していた。理解していたからこそ、声を出して聞けなかった。震える手を抑え、古賀はリーベルに問いかけた。

 

「それで、齊藤君をどこにやったの? 」

 

化けたのは、昨日今日の話ではない。恐らく、ここ数週間ずっとリーベルが成り代わっていたはずだ。齊藤は一体どこへ行ったのだろうか。

 

「彼なら、もういないよ。」

 

それは、想像していた通りの言葉だった。

 

「谷口って言ったかな? 彼女も悪魔以上に残酷な子だったけど、齊藤も中々酷い子だよね。僕も、一切罪悪感はなかったよ。ああ、安心して。齊藤は僕らが見えなかった。だから、何が起きたのか理解できないまま即死したから。」 

 

「ラブ・サンダー! 」


古賀の攻撃がリーベルの元に突き刺さる。しかし、リーベルはまたしてもその攻撃を避けた。

 

「いきなり攻撃なんて酷いね。そんなに怒らなくてもいいと思うけど。齊藤は僕からみても恐ろしい人間だよ。何より、僕のことが一切見えていなかった。僕らが見える人間って、君みたいな魔法少女か悲しみ、苦しみ、妬み、恨み、怒りみたいな負の感情に苛まれた人間だけ。つまり、齊藤はそのすべての感情を持ち合わせていないってこと。それは、齊藤自身が行ってきたすべての悪事に対して、罪悪感を一切持たず、快楽だけを享受してきたってこと。そんな人間を殺して、何が悪いの? 」

 

「悪いよ。…悪いよ。殺されていい人間なんてこの世にはいない。例えどんな理由があっても、殺したりしちゃいけない。」

 

「綺麗ごとだ。僕は知ってるよ。人間の世界は悪いものを淘汰して平和を保っていることを。君だってそうだ、悪魔を殺して回っている。人間を護るためなら何をしてもいいの? もしそうなら、君は矛盾だらけだ。」

 

古賀は自分の手にもつステッキを見つめた。確かにそうだ。古賀が魔法少女になったとき、はじめて戦った悪魔を殺してしまった。悪魔だけではない。藤崎を古賀は殺してしまった。殺しをして、一体何になる。そう頭では思っている。しかし、実際、古賀は悪を殺して生きてきた。

 

「古賀は…。」

 

「古賀! 耳を傾けちゃいけない! 悪魔はいつも人間の心の隙間にすり寄ってくるんだ! 」

 

「のっちぃ…。ううん。だめだよ、のっちぃ。」

 

「え? 」

 

のっちぃを見つめて、古賀は笑った。とても苦しそうに笑った。

 

「古賀は、確かに自分の為に悪魔を殺した。自分の為に悪魔になりそうな友達を助けてきた。だから、リーベルの言うことは間違ったことじゃない。でも、でもね、やっぱりだめだ。いくら最低なことをしてきた齊藤君だって、死んでいいはずない。谷口さんもそうだった。みんな未来があったんだ。…矛盾。そうだよ。確かにそうだ。でもね、リーベル。古賀は、矛盾だって分かってるけど、だけど、だけど、小さな世界を護るためにみんなを護るために、やっぱり悪魔を倒さないといけない。」

 

「それは、僕らが死して当然の存在だから言えるの? 」

 

「ううん。違うよ。古賀は、悪魔を護るために倒すんだ。」

 

リーベルはそれを聴き、ふっと笑った。矛盾だ。護るために殺すなんて聞いたこともない。だけど、あながち間違っていない。だって、世界はそうして回っている。このサイクルは終わらない。善から外れたものは淘汰される運命にある。この目の前の少女は、それを理解してそれを実行している。

 

リーベルは目を閉じた。古賀を煽って、戦おうとしてみたものの、本当のところそんな力リーベルには残っていない。


前回古賀と戦い、悪魔の力の源である負の力が弱まった。齊藤に化ける期間も長かった。悪魔にも特別な力が存在する。リーベルの力は人間を喰らい、その人間の姿になれるというもの。しかし、ただでさえ力が枯渇していたリーベルは、化けるだけで限界だった。だから、ブルームを使う必要があった。しかし、ブルームは独りで戦うばかり。リーベルの話など一切聞いてくれなかった。


死ぬというのに恐怖はなかった。古賀に殺されるのであれば、それはそれでいいと思った。そう思えたのは、古賀の持つ光の力のせいだろう。負の力がなくなり、人間と同じような温かな気持ちが芽生えた。だから、リーベルは目を閉じた。

 

しかし、目を閉じる瞬間、リーベルは見てしまった。見てしまったから、リーベルはもう一度目を開き、古賀の前に立った。

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