19話 どきどき!すれ違いと怪しい影?

「なんで、どうして? 」


 夕暮れの時。


生気のない川北が、教室にいた。そして、のそりと立ち上がると、古賀に襲いかかった。

古賀は急いで変身する。魔法ステッキを片手に、古賀は川北の攻撃を防いだ。



「どうして? 仲直りしたのに…。」

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 」

 

怒りに狂っている。もはや声をかけても届かないだろう。一度、目を覚まさせないと。

 

「川北さん! 目を覚まして! 」

 

「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い、お前が憎い。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。壊してやる、全部。殺す殺す殺す。」

 

川北の怒りは底知れず、会話にすらなっていない。

 

「のっちぃ、どうしよう…。」

 

「とりあえず、光の魔法で、浄化するんだ。いま、彼女には瘴気が渦巻いてる。それさえ取り除けば、少しは話をすることも出来るかもしれない。」

 

「うん。」

 

古賀は暴れ回る川北の攻撃を上手く避けながら、聖なる力をステッキに貯める。

 

「マール・アモーレ! 」

 

光は直接川北へと突き刺さる。避けないということは、そこまでまだ闇に落ちていないということ。今なら、川北を救えるはずだ。

 

「川北さん! どうして? どうして、こんなことになってるの? さっきまで、仲直り出来たと思ってたのに。」

 

「ぅるさい、うるさい、お前、お前! お母さんを馬鹿にして、私も馬鹿にして、許さない許さない。」

 

「何言ってるの? 馬鹿にしてなんか…。」

 

「した! したのよ! 聞いたもの。私、聞いたもの。」



 

***

川北は、自身の醜い心を収め、今度はもっと頑張ろうと意気込み、立ち上がった。

 

「授業さぼっちゃった。」

 

こんなんじゃ、誇れる娘になれないじゃん。

 

「あれ? 古賀さん? 」

 

空き教室。どう考えても、古賀と見られるツインテールが窓から見えた。齊藤と話しているようだ。サボり? なんて、自分も責められる身分はない。

 

静かに通り過ぎようとしたその時だった。

 

「あれ、本当になかったよね。」

 

「本当、古賀、なんにも悪くないのに、言いがかりにも程があるよ。」

 

ぷんすかと怒る姿。そりゃそうだ。影で悪口言われても文句は言えない。

 

「知ってる? 川北さんのお母さんってキャバ嬢だったらしいよ。そりゃあんなキツイ性格になるよね。それに、古賀さんより頭悪いし。」

 

「え、そうなの? そんなこと言ったら、悪いよ。でも、そっか、だから、川北さんってあんなのなんだぁ。キャバ嬢の娘ってことは、川北さんも売ってたりするのかなぁ。」

 

「なに…。」

 

そんなこと、言わなくていいじゃない。関係ないじゃない。私のお母さんは、確かに水商売してたけど、必死に私を育ててくれた。たまに常識ないななんて思うけど、でもちゃんと私を育ててくれる優しいお母さん。私が苦労しないように、夜も寝ずに働いてる。私が将来高校に通えるように頑張ってるのに。酷い、酷い、酷い。私は、私は、信じたのに。さっき、悪くもないのに謝って、ああ、私は馬鹿だなってそう、感じて、でも、影で笑ってたんだ。ほら、お前が勝手に怒って、謝ったらすぐに許して、単純で馬鹿なやつって。

 

あああ、あああ、あああ、馬鹿なのは私だ。私だ。わたしだ…。

 

「あっ、川北さんだ」

 

振り返った古賀は、三日月のように目を細め、笑っていた。

 



***


「古賀、身に覚えないよ。古賀、そんなの知らない。そんなこと言ってないよ! 」

 

「嘘よ! だって、私、聞いたの! 」

 

川北はふらふらになりながら、訴える。確かにこの耳で聞いたことだ。しかし、勿論古賀には身に覚えがない。どこか、おかしい。聞き間違いや見間違いにしては、川北の怒り方は異常だ。もしかすると、悪魔の仕業なんじゃ…。


「古賀! 彼女はまだ悪魔化も進んでない。分からないことも多いけど、今は浄化に専念しよう! 」

 

「うん! 」

 

古賀は大きく息を吸い、吐いた。

 

「川北さん! 川北さんの頑張り、古賀はよく知ってるよ。少し前まで、川北さんはよく授業中お昼寝してた。でも最近は熱心に授業を聞いてる。分からないところは先生に聞きに行ってる。全部、全部古賀は見てたよ。古賀は川北さんのお母さんのこと、よく知らない。だけど、川北さんを見れば分かるよ! 川北さんのお母さんはきっと、とっても川北さんみたいに頑張り屋さんなんだって! 」

 

「嘘よ! また、私を騙そうとしているんでしょ! もう絆されたりなんかしない! 私は、私を馬鹿にした人を許したくなんかない! 」

 

「川北さん…。」

 

泣き叫ぶ。モヤが広がっていく。古賀の手が震える。掠めていく嫌な記憶。ドクドクと心臓の音が聞こえる。呼吸の音が響く。

 

「すぅ…。」

 

古賀はもう一度大きく息を吸った。川北を助けるんだ。古賀は前を向きなおした。

 

「古賀は、川北さんのお母さんの悪口なんて言わないよ! だって、古賀のお母さんも、川北さんのお母さんと一緒だもん。だから、川北さんのお母さんの悪口なんて言わない。言えない。だから、川北さん、川北さん。古賀を信じて! 古賀は、川北さんを救いたいの! 」

 

川北の黒いモヤが揺らいだ。それを見て、古賀は叫んだ。

 

「マール・アモーレ‼ 」

 

ステッキから飛び出た光が、川北の身体に当たった。そして、川北は無傷のまま、その場に放りだされた。

 

いつもなら、後遺症のように傷が残る。しかし、彼女の身体は至って健康だった。

 

「古賀の力、少し上がった? 」

 

「本当? やったぁ! 」

 

ぴょんぴょんと跳ねる古賀は嬉しそうに笑っている。のっちぃもそんな古賀の姿を笑って見守った。

 

「それより、川北が言っていたことってなんだったんだろうね。古賀の訳がないし…。もしかして、悪魔の仕業かもしれない。」

 

「悪魔にはそんな力があるの? 」 

 

「分からない。一度天界で聞いた方がいいかもしれない。古賀、ちょうどいいから一度天界に戻ってみるよ。すぐに戻るから。」

 

「うん。古賀は大丈夫だよ。のっちぃ、宜しくね。」


のっちぃは古賀と別れ、そのまま天界へと昇っていく。何か、悪魔について手がかりが掴めるように、そう願って。

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