18話 ドキドキ!お勉強するの忘れちゃった!

古賀はのんきにスキップをしていた。最近は悪魔の襲来もない。平和な一日だ。

 

「古賀さん、元気だね。」

 

この声は、齊藤だ。

 

「齊藤君だぁ。」

 

「うん、齊藤君です。それにしても上機嫌だね。今日のテスト、自信あるの? 」

 

「テスト? 」

 

「あれ? もしかして忘れてた? 今日は数学のテストの日だよ。」

 

古賀は一旦停止する。今期の中間テストは先日終わったばかりだ。では、なぜテストがあるのか。それは、抜き打ちテスト好きの数学教師が要因だ。そして、古賀はせっかく数学教師が来週はテストすると報告していたのにも関わらず、その存在を忘れてしまっていた。

 

「どうしよう、古賀忘れてた! 齊藤君、古賀、急いでるから! 」

 

古賀はダッシュでその場を離れる。齊藤はいつも通りの古賀に目を細めた。





キーンコーンカーンコーン


翌日、授業が始まり、テストが返ってきた。のっちぃは古賀の答案用紙をこっそり覗く。どうせ、テストの結果はさんざんだったに違いない。

 

「えええ! 」

 

のっちぃは答案用紙を二度見する。右上には、百点満点の文字が記載されていた。

 

「まさかの、満点…。」

 

あんだけ、急いで勉強していたのに、満点。のっちぃは古賀を凝視する。まさか、古賀がこんなにも優秀だったとは。人は見た目に寄らないというのは、よく言ったものだ。

 

 

「今回のテストで満点だったのは古賀さん一人だけでした。みなさんも古賀さんを見習って、復習に励むこと。以上。」

 

数学教師が古賀を褒めたたえる。古賀は鼻を高くして、えっへんと胸を張っている。そのすぐ横で、九十八点の解答用紙を握り潰す少女がいた。


 

「古賀、すごいや。」

 

休み時間。

丹心川は古賀の机に一直線に向かった。会話の内容は勿論テストの件だ。古賀はいつだって優秀だったが、今回はクラスで唯一の満点。すごいの一言は純粋に出てくるものだろう。

 

「ただのまぐれでしょ。」

 

古賀に鋭い言葉を告げるのは、自信を持って、テストに挑み、敗れたもの。隣に座る古賀が当日必死になって勉強をしているのを見て、影で笑っていたのに、実際にはその古賀の方がよい点数を取ったこと知り、醜い程の嫉妬にまみれたものしかいないだろう。

 

「ちょっと! みっともないよ。川北さん。まぐれで満点取れるテストじゃないって分かってるでしょ。」

 

「うるさい。あなただって悔しくないの? こんな当日になって必死に勉強してますアピールしてた奴に負けてさ。影で勉強して、もし悪い点数とったら、言い訳出来るからいいよね。本当にムカつく。」

 

「そんなこと…。古賀も何か言いなさいよ。」

 

「えええ? 古賀、本当に必死に勉強してたよ?」

 

「その態度がムカつくって言ってんのよ! あああああ、もう嫌。大っ嫌い。あんたの態度本当にムカつく! 」


川北はイライラしたまま教室を出ていった。古賀とのっちぃは目を合わせる。いつものパターンだと、ここで悪魔に落ちてしまうだろう。

 

「古賀、気にしなくていいからね。」

 

「ん~、ちょっと様子見てくるね。」

 

「え、古賀! 」


古賀は川北を探す。どこにもいない。もしかすると、もう手遅れなのでは…。

 

「古賀! あそこ。」

 

誰もいない空き教室。そこには無傷の川北がいた。ホッと胸を下す。

 

「良かった、ここにいたんだ。」

 

「古賀さん、何? 私のこと馬鹿にしにきたの?」

 

「そんなことしないよ。だって、古賀、悪いことしたかなって思って謝りに来たんだ。」

 

「悪いことって? 」

 

「えっと…、その、勉強してますってアピールしたこと? 」

 

「空っぽな謝罪ね。そんな謝罪無意味よ。謝れば私の怒りが無くなると思うの? そういうとこよね。それが一番ムカつくのよ。いつだって、勝手に怒って喚いて、そんな人間が嫌われるの。そして、とりあえず謝った方をみんな庇うの。そんな上辺だけの謝罪をどうしたら許せると言うの。それで許したら、怒った損じゃない。」

 

川北は、天井を見つめる。

 

知ってる。怒ってるのは、ただの嫉妬。だから今回に関しては私がすべて悪い。古賀にはなんの罪もない。だけど、それでもイライラする。この前、お母さんは元キャバ嬢ってだけで馬鹿にされているのを聞いた。きっと私がテストでいい点とったら、みんなお母さんを認めるはず。だから、必死に勉強してたのに、テストの存在すら覚えてない人間に、点数を追い越されるなんて、そんなの認めたくなかった。

 

「川北さん。」

 

「何よ。」

 

「ごめん。」

 

「だから、それが…! 」

 

言いかけた言葉を止めた。古賀が真剣な目でこちらを見つめていたからだ。

 

「意味もなく、謝ったりして、ごめんね。だから、ごめんなさい。古賀、なんで怒らせちゃったのか、分からなかった。だから、適当に謝ったりした。それ、失礼だったと思う。」

 

「古賀さん…。いや、ごめん。私の方こそ。古賀さん、なんにも悪くないのに、八つ当たりしちゃったの。ごめんなさい。」

 

「うん。これで仲直りだね。」

 

「仲直りって…。」

 

呆れたように川北は笑った。何、やってるんだろう。本当に、古賀は何も悪くないのに。古賀を悪者にしようとしてた。馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ。なんで、古賀が謝ってるんだ。

 

「古賀さん、本当にごめんなさい。どうかしていたわ。」

 

「ううん、大丈夫だよ。」


「少し、頭冷やすから、先戻ってて。丹心川さんにも、後で謝罪するから。」

 

「うん! 」


「一件落着だね。」

 

ふよふよと飛ぶのっちぃの言葉に相槌をうつ。先に誤解を解いてしまえば、彼女達も悪魔になんか耳を貸さないはずだ。古賀は、一足先に仕事を終えた気分で、その場でスキップをした。



 

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