17話 どきどき 例え消えぬ罪としても
古賀は何があったのか聞いた。古賀は、辛くて仕方がなくなった。
「藤崎さん、あなたが行ったことは、間違いなく、悪いよ。」
「あ、あああ、ああああああああ、」
「谷口さんにも、家族がいて、友達がいるんだよ。思い描く将来があって、辛い思いも悲しい思いもして、生きてきたんだよ。確かに、みんなが言う良い子じゃなかったかもしれない。いじめだって、褒められた行為でもなんでもない。それでも、少なからず悲しむ人がいて、傷つく人がいる。ううん、仮にそんな人がいなくても殺しなんてしちゃいけない。」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼ 」
「藤崎さん、藤崎さん! 」
「…、…。…。…、綺麗ごと、言わないで。嫌い、嫌い、嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い! 大っ嫌い! ははは、みんなそうだ。そうだ、そうだ、そうだよ、おかしいよ。だって、だて、私が殺したんじゃないのに! あんな女死んでよかったになあ。あはははっははははは! 」
「藤崎さん! 目を、目を覚まして! 藤崎さんだって、そうだよ! 優しい子だよ。古賀も知ってる。」
「知らないよ! あなたは何も知らない。私がどれだけいじめられて苦しかったのか。知らない。知ってたら、生きていていい人がいるなんて言わない。そんなこと言えないの! 」
藤崎は黒いモヤをさらに放出させる。そのモヤが古賀に触れた。その途端、古賀の腕に激しい痛みが走った。
「古賀! 大丈夫? 」
「なに、これ? 」
「たぶん、悪魔化が進んでる。黒いモヤは人の心の闇も表す。古賀に攻撃出来るってことは、それくらいまで心の闇が広がっているってことなんだ。まずいよ、本当に…。このままじゃ、彼女自体が悪魔になってしまう。」
「私、私…。」
古賀はステッキを捨てた。
一歩前に歩いた。
古賀は、藤崎を抱きしめた。
「え? 」
のっちぃも藤崎も、ブルームも突然の古賀の行動に驚く。
「こ、古賀! なにしてるの? 痛いよ、早く離れてよ! 」
「ううん、だめだよ、だめ。だって、藤崎さんも苦しんでる。古賀もね、悪い子だよ。古賀も傷つけた。藤崎さんを傷つけた。古賀、助けたつもりになってた。でも、それじゃあダメだった。ちゃんと古賀も話せば良かった。古賀、噂されてちょっぴり悲しかったんだよ。だからね、藤崎さんが古賀のために行動を起こしてくれたことは本当に嬉しい。
でもね、本当はね、古賀は谷口さんを傷つけて、助かりたいわけじゃなかった。古賀は藤崎さんと沢山お話して、それで一緒に乗り越えたかった。
ねぇ、藤崎さん。古賀は、藤崎さんとお話できてうれしかったんだよ。藤崎さんは本当に優しい人だもん。お話をするのが下手だって言ってた。言葉がすぐに出ないって言ってた。でもね、それは精一杯考えてお話してくれるからだって知ってる。たくさんたくさん考えて、お話してくれてるの知ってるんだよ。そんな藤崎さんに一人で責任は押し付けられない。痛みも分け合おう。
古賀、藤崎さんのこと、大好きだよ。」
「こ、古賀…、さん。」
しかし、古賀は藤崎に突き飛ばされた。なんで、と藤崎を見た。
「だめ、だめなの! 私、私、人を殺しちゃった。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。私、私、悪いって知ってたのに、古賀さんのせいにしようとした。古賀さんを悪者にしようとしてた。ごめんなさい、ごめんなさい。だから、もう、悪いことなんてしない。もう、ちゃんと、謝りたい。古賀さん、私、私、ちゃんと伝えるから。悪いことしたって言うから、だから、もう一度、今度はちゃんとした友達に…。」
藤崎が大量の涙を流しながら、必死に言葉を紡いだ。古賀も何度も頷いて、藤崎の言葉を待った。しかし、そこから先、言葉が発せられることはなかった。
「う、うううううう、うがああああああああああ! 」
「ああ、はじまった。」
ブルームが呟く。藤崎の身体にモヤが大量に掛かる。そして、その中にいた藤崎の身体は弾けとんだ。
「え…。」
跡形もない。先程まで、あそこにいたはずの藤崎の身体がどこにもない。古賀は、叫ぶことも泣くこともなく、ただ頭を横に振り続けた。
「ああ、ぁぁ、どうして、どう…して? 」
「こ、古賀…。」
「あーあ。弾け飛んじまったな。面白くねぇ。まあ、綺麗ごとしか並べられないお前ら見てるのもそろそろ飽きちまったし、いい頃合いだったかもな。」
「なんで、なんで! 」
「死んだ理由かぁ? そんなの決まってるだろう。あのモヤは人間の負の感情。それを抑えられなくなって放出したのに、自分が悪いって認めて謝罪しちまったんだ。その気持ちとモヤが混ざって爆発したんだよ。そっ、つまり、オメエのせいってわけだ。ギャハハ、本当に面白い。助けようとしたのに、助けられなくて、残念だったな。んじゃあ、今日は帰るとするか。面白いものが沢山見れたしな。まっ、安心しろよ。今度はお前をちゃあんと殺してやるからよ。」
ぎゃはぎゃはと下品な笑い方をしながら、ブルームは帰っていった。
消えてしまった藤崎を見る。涙を流す余裕もない。ただ、掌を見つめる。確かに先程まであった温もりが消えた。確かに先程まで存在していた友人が消えた。
「あ、あ、あああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 」
叫び声。
空気が割れる。
ただ、何も考えたくない。
古賀は、失敗した。
初めて人を殺してしまった。
信じる力があれば、救えると思っていた。
すべて失敗だった。
古賀は何をしているのか。
古賀は、なぜ救おうとしてしまったのか。
古賀は、古賀は、こがは…。
「古賀! しっかりして! 」
のっちぃの言葉に目を覚ます。そして、大粒の涙がこぼれた。
「古賀、古賀、ふじざぎざんをだずげ…、られながったよぉ…。」
涙がこぼれる。はじめて救うことが出来なかった。救えるはずの命が救えなかった。古賀はその日初めて、敗北した。
数日後―――
古賀はご飯を食べ終え、トイレに向かった。のっちぃは古賀を見つめる。
「古賀? 大丈夫? 」
「うん? なにが? 」
あれから数日が経ったが、古賀の様子に変わりはない。それが何よりのっちぃにとって恐ろしいことだった。
「あの、あのね、藤崎さんのことだけど…。」
「のっちぃ、古賀、ちゃんと分かってるよ。」
藤崎も谷口も存在しない人間となった。人間界の平穏のためだ。仮に藤崎の存在が消されていなかったら、なんらかの事件性があるとして騒ぎ立てられるだろう。その為の処置だ。二人の存在を知っているのは、古賀だけ。古賀だけがすべてを知っている。
のっちぃは藤崎や谷口の存在を消したことに対して古賀が怒っているのではないかと考えていた。しかし、そうでもないようで、のっちぃは少しだけ安心した。
トイレに着く。その中で、誰かの声が聞こえた。
「キモイんだよ、お前! 」
「ほんと、なんで学校に来てるの? 」
「早く消えなよ。」
クスクスと笑う声。
藤崎の時と同じ、いじめだ。
「ねぇ、のっちぃ。」
「古賀…? 」
「いじめってなんで起こるんだろうね。」
「古賀…。」
「古賀、考えたの。あのとき、藤崎さんを助けなければ良かったんじゃないかって。でもね、違うな。やっぱり、違うな。古賀があのとき藤崎さんを助けたから、だから藤崎さんは最後に古賀に心を開いてくれたんだ。だからね、のっちぃ。」
古賀は満面の笑みを浮かべた。
「何度だって、助けるよ。何度だって、助けて見せる。だって、古賀は、だって古賀は、魔法少女だから。」
古賀は、また一歩踏み出した。
いじめは続いていく。そんな社会だ。仕方がない。社会が悪い。諦めなさい。
罪を持った人は、社会が悪いと宣うのか。未成年だから仕方ないと吹っ切れていいのか。両親の育て方が悪いと言っていいのか。先生の教えが悪いと言っていいのか。罪を持った子供は、罪を擦り付け、そしてどこへ行くのだろう。庇うなとは言わない。ただその罪が、確かに罪であり、誰かを傷つけ、己をも傷つけたことを誰かが教えてあげなければならない。
誰かのせいにするのは容易い。誰かを庇うことは容易い。
しかし、優しさがすべて誰かの為になるとも限らないことはよく覚えていた方がいいだろう。
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