14話 ドキドキ いじめっ子の末路

藤崎は妙な噂を小耳に挟んだ。古賀がいじめを指示していたという噂だ。藤崎は分かっていた。そんな筈ないと。


古賀は優しい。そう、優しい。だから、そんな噂は噂でしかない。その筈だった。しかし、古賀は誰にでも優しい。だから藤崎は少しだけ、ほんの少しだけ、

 

『なんで…? 』

 



とそう思った。





古賀を責める声が聞こえる。徐々にそれが大きくなる。谷口はそれが嬉しくて溜まらなかった。早く古賀が学校を辞めればいい。私を追い込んだ罰だ。早く、早く、早く…。

 

「君は悪魔のような人間だね。」

 

「え? 」

 

だれもいない筈の教室から声が聞こえた。谷口は後ろを振り返る。やはりそこには誰もいない。聞き間違いか?


「聞き間違いなんかじゃない。僕は確かにここにいる。」


見えない場所からの声。確かに聞こえる声。

藤崎はその場で凍りついた。恐怖で凍える。


「あ、あんただれ? 」


「僕は悪魔。」


「あ、悪魔? 」


そんなもの、現実にいるはずがない。何かのトリックだ。なのに、周りには誰もいない。呪われてる? 古賀を陥れようとしてるから? そんなはずない。私は悪いことはしていない。


「君には魔法少女を誘き寄せる囮になって貰おうと思っていたけど、僕が見えないんだったら、君の負の感情はあまりに小さい。だというのに、君はあまりに残酷なことをする。本当に人間かどうかも怪しいところだ。」


「う、うるさい! 私は何も悪くない。」


「悪くないというわりに、君は自身の罪を無意識のうちに理解しているように見える。本当に不思議だ。」


「あんた、なんなのよ! もうやめて! 」


谷口に話しかける悪魔、リーベルはその場で考える。塞ぎ込んで、何も聞こえないようにする谷口を無言で見つめる。殺してもいい。もはや負の感情さえ背負えない愚かな存在に生きる価値はない。リーベルの存在も認知してしまったのだ。生かす理由もない。だが、上手く使えば魔法少女を弱らせることが出来るかもしれない。


「生きたい? 」


「な、なに? 」


「君を殺してもかまわない。ただ僕の言うことを聞いてくれれば、見逃してもいい。」


「ほ、本当? なんでもやる! なんでもやるから助けて! 」


リーベルは静かに言葉を発した。谷口は全力で首を縦に振った。全ては古賀を始末するため。谷口は自身の命のために、夢中でその場から離れた。


谷口はリーベルに伝えられた通りに動く。最も、リーベルに伝えられたのは一つ。




古賀の信頼を地の底へ落とせ。




それだけだった。


谷口は自身の命の為に、古賀を陥れようとさらに奮闘した。敢えて、人のいる場所で古賀のありもしない噂を大声で話し、体育の授業ではわざと古賀のボールに当たりにいき、まるで古賀が谷口をいじめているかのように見せかけた。他にも古賀の印象が悪くなるように、小細工をした。


はじめは上手くいった。そう、上手くいったのははじめだけだった。直ぐに古賀の友人である丹心川がサポートに入り、落ちかけた信頼も回復。何事もなかったように時が過ぎ去っていった。


谷口はいつ殺されるのか、恐怖で仕方がなかった。古賀を陥れなければ、死ぬ。その追い込まれようは他人から見ても異常だった。谷口は徐々に取り巻き達にストレスを露わにするようになり、古賀の信頼どころか、自身の信頼さえも危うくなっていった。


古賀はそんな谷口を静かに見守っていた。

何かがおかしいと感じたのはすぐだ。


谷口はいじめをしている。

そしてターゲットが藤崎から古賀に移行したのも理解していた。  

   

谷口は友人関係を大切にしている。それは、友人が離れてしまえば、自身の立場が危ういことを理解しているためだ。しかし、今谷口は友人関係など気にしていない。自分のことだけを考えている行動だ。


谷口はおかしい。

独りになることが何より苦痛だとそう感じている彼女が取る行動ではない。

しかし、彼女が何を感じ、行動しているのか知る前に、谷口はこの世を去った。




文字通り、彼女は死んだのだ。






飛び降り自殺だ。

犯人は…いない。



あまりにも突然の出来事に、学校も生徒達も戸惑った。特に谷口の友人らは意味が分からなかった。自殺する理由など彼女にはないからだ。戸惑いと不安感が入り混じり、学校全体がどんよりと、そしてどこか焦燥感が漂った。

 

「古賀、大丈夫? 」

 

そして古賀も見るからに落ち込んでいた。当たり前だ。彼女がおかしいことを知っていたのに、知らないふりをしていた。何か問題があるなら、嫌われているとしても話を聞けばよかった。後悔が溢れて仕方がない。


「古賀…。」


のっちぃは古賀にどう声を掛ければいいのか分からない。どうしても古賀に元気になって貰いたい、その一心で笑顔で言葉を紡いだ。


「古賀! 安心してよ。彼女の死因は自殺なんかじゃない。」


「え? 」


「あれは悪魔の仕業だよ。悪魔が殺したんだ。」


「ど、どうして…。」


「さあ? それは分からない。でも、良かったんじゃないかな? 今まで悪魔の手によって不幸にされてきた人たちは善意のある人達だった。でも、谷口は悪い人だった。だって、古賀も藤崎も谷口に苦しめられてきたんだから。だから、殺されても仕方がなかったと思うよ。」


古賀は言葉を詰まらせる。殺されても良かった人間。本当にそうなのか。いじめをする人間は悪い人間だと決めつけていいのか。古賀には分からない。分からないけど、死んでしまった人に死んで良かったなんて言うのは、なんて惨いことだろう。


「谷口さんの良いところ、古賀は知らないんだ。」


「え? 」


「でもね、谷口さんにも沢山友達がいたんだよ。仮に利害が一致して友達をしていたとしても、その関係を続けられたのは、谷口さんにも良いところがあったからだよ。死んでいい人間なんてどこにもいない。」


のっちぃは古賀を見つめる。古賀は何も考えていないようで深く考えている。そして、のっちぃは感じていた。


古賀が酷く怒っていることを。





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